表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
散花界からの来訪者  作者: さくら
第4章
62/66

20 闘いのあと

 二人を見送ってから、咲先輩がこちらを見る。


 オレと、オレの横に立っている孝太。

 そして少し離れた場所でなりゆきを窺っている少女。


「まずはあなた。小原雪さんね。色々と手伝ってもらって感謝しているわ。どうもありがとう」

「いえ。あの……あたし、本当に何がなんだか……」


「ご尤もね。そう……これから少し時間をいただけるかしら? ええと、今何時?」

「もう日付が変わるぜ?」


「あら。女の子を連れ出すにはとても微妙な時間ね。ご両親は?」

「え? ええと……」


 わからないのも当然だ。

 ついさっきまでこの家で暮らしていたのは、桃なんだから。 


「明日じゃ駄目なのかよ」


 困っている小原さんの様子を見て、思わず口を挟む。


「聞いていなかったの? 朝一で穴を塞ぐのよ。還された果実は、すぐには動けないけれど、ある程度の時間が経過すれば動けるようになるわ。その時まだ穴が開いていたら、藤はすかさずその穴をとおり抜けてくるはずよ。そんなことになったら、これまでの苦労が水の泡じゃないの」


「いや聞いてたけどさ。あまりにも気の毒だろ。オレ助けてもらっといてなんだけどさ」

「せっかく五人揃ったのよ。わたしはこのチャンスを逃さないわ」


「咲先輩のその使命感は立派だと思うけどさ、手段を選ばないところってどうにかならないのかよ」


 この人の手口には随分と痛い目に合わされた。

 全ては花守人としての役割を果たすためにやっていることなのだということはわかっているけれど。


「どうにもならないわよ」

「何を今更だぜ」


 咲先輩に続いて、赤眼鏡が呆れた声を出す。

 憎めないけれど、でもこの態度はどうかと思う。


「あんたも少しは止めろよ」

「俺は野放し主義だからな」


「野放し主義ってなんだよ。ってか野放しにするなよ。この人、危険人物なんだから鎖につないでおいてくれよ」

「引きちぎって逃走をはかるんだよ」


 ……すごく納得できる。


 オレは言い返せずに、ため息を吐いた。


「なんでそこまで……」

「なんででもよ。というわけで、少しつきあってもらいたいんだけれど、どうかしら」

「あの……じゃあ、どうぞ」


 少女が家の門扉に手をかけた。

 ギィと金属の擦れる音がして、ゆっくりと開かれる。


「あらありがとう。じゃあ遠慮なくお邪魔させていただくわね」


 少しは遠慮しろよ。


「みなさんも、どうぞ」

「悪ぃな」


 赤眼鏡が少しも悪そうな素振りを見せず、咲先輩に続く。


「親は?」 


「いないはず……です。父親が海外出張中で、母親はそれについて行きました。兄弟はいません。近所に伯母が住んでいますけど、普段は別々に生活していますから、一人暮らしをしていました。……春休みまでは」


  一人暮らし。

 だから桃が体を乗っ取ったことがばれなかったのか。


「そうなのか……」


 オレは改めて小原と表札のかかった家を見上げた。

 洋風の立派な一軒家だ。


 オレは桃のことを知りたいと思っていた。

 けれど、何も知らなかったんだな。


 改めてそう実感する。


 ――桃。


 自分の手で還したのに、オレは桃に会いたくてたまらなくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ