怒られました
着替えを終えて出てみると、そこにはいつの間にか朝食の支度がされていた。
机の周りをリアムが嬉しそうに走り回っている。いや、だから、さっき走っちゃダメって・・・。
「リアム!走らないの!」
少し怖い声で叱ると、リアムがしょぼんと立ち止まった。
「ニナ、いいだろう、少しぐらい。他に誰がいるわけでもなし。家族だけなんだから」
シアン様がさらりとそう言う。「家族」という言葉がシアン様の口から出ると、少しくすぐったい。
「給仕は下げたぞ?王宮につくまでの間ぐらい、少しでも三人でゆっくりしたいからな」
「・・・ありがとうございます」
リアムを席に着かせ、全員が座るとシアン様の合図で食事が始まった。
「おいしいぃ!」
リアムが食べたこともないような厚切りのハムに素直な感想をもらす。
シアン様はそれを、愛しそうに見てらっしゃる。
同じ色の金髪が、陽の光にきらめいてまぶしいぐらいで、それを見て、親子なのよねぇとしみじみ感じてしまう。
「ニナ、後でおば上から大事な話がある」
「・・・はい」
ベアトリーチェ様・・・。何のお話かな。やっぱり、こんどこそ怒られるんだろうな。
いくらシアン様がすべて許すとおっしゃってくれても、あんなに良くしてくださったベアトリーチェ様をだましたのは事実。ごめんなさいじゃ、すまないよね。
「かあさま、どうしたの?」
よっぽど難しい顔をしていたのだろう。リアムが心配そうにこちらを見ている。
「ううん、大丈夫よ。・・・でん、シアン様。あの、王都に向けて立つのは、ベアトリーチェ様のお話の後ですか?」
「ああ、そうなるな。ニナの今後にかかわることだ。おば上も食事が終わったらずぐ来られるだろう」
「・・・はい」
シアン様の予想どおり、ベアトリーチェ様は給仕が朝食を下げて少しして部屋をノックした。
リアムはお屋敷探検と銘打って、一応護衛騎士を一人つけてもらって遊びに行っている。
「失礼しますわ」
四年前と変わらぬ美貌。むしろ、いっそう艶めいたかも。いいなぁ、大人の色気。
そんな暢気な考えも、頬からした派手な音でふっとんだ。
目の前には涙目のベアトリーチェ様。
じんじんとした頬で、はじめて自分が平手打ちされたのだとわかった。
「おば上」
シアン様が咎めるようにきつい声でベアトリーチェ様を呼ぶ。
「謝りませんわよ」
「・・・はい。こうされて当然だと思います」
私は深く頭を下げた。
「申し訳ございませんでした」
「・・・ニナ様!」
次の瞬間、私はベアトリーチェ様に抱き寄せられていた。
無理な体勢で腕を引かれ、よろけた私はベアトリーチェ様ごと床に座り込む。そんな私を抱きしめたまま、ベアトリーチェ様は涙をこぼされていた。
「私が、どれだけ心配したことか・・・!お子のこともです!亡くされたと聞いて、どれだけお心を痛められたかと!」
ベアトリーチェ様は子供のようにしゃくりあげながら、私を詰った。
「下手に連れ戻して、万一、お命を絶つようなことがあってはと・・・この四年間、探すのも我慢して・・・。ずっと心配していたのですよ!」
「ごめんなさいっっっ」
私の目からもぽろぽろ涙がこぼれた。
そこから私は馬鹿の一つ覚えみたいに、ずっと「ごめんなさい」と言い続け、ベアトリーチェ様にすがりついていた。
先に落ち着かれたのはベアトリーチェ様のほうだった。
「もう、よろしいわ。過ぎたこと、過ぎた時間は戻りませんもの。次同じことをしたら、私、許しませんからね」
ベアトリーチェ様はぐすんと鼻をすすりながらそう言うと、優しい手つきで私の頬を撫でた。
そっと濡れたハンカチが横から差し出される。シンシアさんだった。
「・・・ごめんなさい」
私はシンシアさんにむかって呟いた。
「もういいですよ。私の分もベアトリーチェ様が怒ってくださいましたから。さぁ、お顔を冷やさないと。赤くなってますよ」
シンシアさんは、しょうがないなぁと笑いながら言った。
こんなに優しいお二人に、どれだけの心労をかけたんだろう。どれだけ、迷惑をかけたんだろう。
私は涙を止めれず、泣きじゃくった。
「ニナ、そんなに泣くな。目が溶けてなくなってしまうぞ」
優しい声とともに、お腹に腕が回ったと思ったら、ひょいと殿下が私を持ち上げた。
そしてそのままソファまで歩いてゆき、自分の膝の上に私を横向きに座らせる。
「ちょっ、殿下!」
恥ずかしさで涙が止まった!
ありがたいけど、方法に問題アリ!
「名前」
「・・・シアン様、おろしてください」
「却下だ。泣き疲れただろう、茶はいるか?おば上もおかけください」
まったく私の言葉なんて聞き入れず、シアン様は話を進める。
「時間もあまりない。おば上から話されますか?」
「そうね」
ベアトリーチェ様も、まだ鼻の頭が少し赤いけどしっかり持ち直されたようで、ソファに腰掛けると、ひたと私を見つめてくる。
な、なんだろう・・・?
私は殿下の膝の上で姿勢を正した。
「ニナ様、あなたを私の養女に迎えたいと思うのだけど」
「・・・はい?」




