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逃げ出した妃  作者: ひまわり
第2章
34/43

思わぬハードル

「おはよー!かあさま、起きてー!」

 あくる朝。私は元気なリアムにたたき起こされた。

「リアム、おひめさまのベッドに寝てるよ!ここ、お城!?」

「・・・おはようリアム。ここはお城じゃないわよ。お城はもっと大きくて豪華よ。それから、お願いだから、もうちょっと寝かせて・・・」

 大はしゃぎのリアムのテンションが今の私にはきつい・・・。あのね、リアム。母さまは寝たのさっきなのよ・・・。

 あの後、歯止めが利かなくなった殿下に、いいようにされてしまった私の体力はいまだエンプティーだ。もちろん同じ部屋にリアムが寝ていたのだ。最終的に、若干暴力的に最後の一線は止めさせていただいた。

「かあさま、朝だよ!おはようだよー!」

 元気な声を聞きつけたのか、殿下が浴室へと続くドアから出てくる。

 下は下ばきのみ、上半身はタオルをかけただけで、何も身に着けていない。

「起きたのか、リアム。おはよう」

 御入浴されてたのね。

 はっ!お仕度手伝わなくちゃ!

 長年の宮仕えで身についた習慣で、ぱちりと目が覚める。

「おはよう、とうさま!朝からお風呂入ってたの?」

「あぁ。ちょっと汗をかいたからね」

 リアムににこやかに微笑みながらいった後、にやりと私へ意地の悪い笑みを送る。

 私はだるい体をベッドから何とか引きはがし、周囲を見回した。

 わかりやすい挑発には乗りません。さて、お着替えはどこかしら。

「失礼いたします」

 ノックがされて、殿下は入室を許可された。

 入ってきたのはシンシアさんだった。

「皆様のお召し物をお持ちしました」

 差し出すのは三人分の着換え一式。私はあわててそれを受け取る。

「おはようございます、シンシアさん。お預かりします」

「ではお願いします。お召替えもご自分で?」

「はい。殿下の分もよろしければ私が・・・」

 シンシアさんは私が衣類を受け取ると、一礼して出ていった。

 別れ方が別れ方だったから、ベアトリーチェ様もだけど、シンシアさんにもあわす顔がない。

 自業自得だけど、気まずいなぁ。

「殿下、こちらをよろしいですか?」

 私は殿下に服を着せていく。大人に服を着せるのなんて久しぶりだけど、手順は覚えてる。

 ふっとみると、リアムが不思議そうに私たちを見ていた。

 あまりにじっと見られ、居心地が悪くなってきた。

「・・・どうしたの?リアム」

 私は殿下の腰ベルトを結びながら問う。

「あのね、あのね!かあさまは、なんでとうさまを「でんか」っていうの?」

 リアムの質問の意図がわからず、私と殿下は思わず顔を見合わせた。

「だってね、ジェーンのかあさまは、とうさまのことをお名前で呼ぶよ?怒ってるときは「あんた」って呼ぶけど」

 ジェーンというのは修道院の近くに住み、よく修道院の敷地でリアムと一緒に遊んでいた子だ。

 リアムの言葉を聞き殿下がにやりと笑う。

 うっ・・・なんか、嫌な予感・・・?

「そうだな。確かにリアムの言うとおり、母様は他人行儀だな」

 うんうんと頷きなが、リアムの頭をなでる殿下。

 私はそれをじっとりと見やる。

「ニナ、今から俺のことは名前で呼べ」

 殿下はにっこり笑ってそう告げた。

「・・・無理です」

 ふっと視線をそらし私はにべもなく断った。

「さぁ、殿下のお着替えは終わりました。次はリアム、お着替えよ」

 殿下からリアムに向き直り告げる。

 ひらひらの服を見せるとリアムは案の定目を輝かせた。

「おひめさまの服だー!!」

「・・・ニナ」

 背後から恨めしそうな声が名を呼ぶ。

「きれいねぇ。素敵なお洋服だから、今日は走っちゃだめよ?」

「はーい!!」

「ニナ」

 リアムの着換えを手伝いながら、殿下の呼び掛けには気づかないふり。

 だって、殿下を名前で呼ぶとか無理だし!!考えただけで・・・あぁ、いたたまれない! 

「ニナ」

「・・・なんでしょう、殿下?」

 私はにっこりと微笑んで、殿下を見る。

「もしよろしければ、私も着替えに一度下がらせていただきたのですが」

「・・・言い忘れていたが」

「?」

「君はもう女官ではない。私の世話も妻としてするのなら受け入れるが、そうでないのなら断る。そして君は臣下ではなく、俺の妻なのだから、俺たちは対等だ。君だけは俺にへつらう必要はない」

 ・・・・・・・・がーんっっっ!

 文字にすると、そんな感じかしら?衝撃が襲う。

 だって、殿下と対等って言われても!王族と対等って言われても!

 昨日まで雲の上、までいかなくても、住む世界が違うって思ってた人にそんなこと言われても!

「だから、ニナ。俺のことは名前で呼んでくれ」

 殿下はニコニコしながら言う。

 ・・・つまるところ、それなんですね。

「あの・・・急には無理です。長年お呼びしてきたものですし。急に変えるのはなかなか」

 しどろもどろ、なんとか言い逃れようとする。

 しかし、殿下も譲らない。

「では、たくさん呼べばいい。数をこなせばなれるのも早いだろう」

「・・・シアン殿下、じゃダメですか?」

「それでは今まで変わらないだろう?」

 殿下の目がキラキラと輝いている。これは完ぺきに私で遊んでいるときの目だ。

 横を見れば、リアムも同じく目を輝かせて成り行きを見守っている。

「・・・シアン様!これでいいですね!?これ以上はまだ無理です!私は着替えてきますので、少しの間リアムをお願いします!」

 私は言い捨てると、着替えをつかみ浴室へと飛び込んだ。

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