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逃げ出した妃  作者: ひまわり
第2章
33/43

相互理解が大切です(2)

「俺は今でも、ニナ以外に妃をとる気はない。正妃も側妃もだ」

 殿下はうつむいた私の顎を、ついと持ち上げる。

 真剣な瞳の中に、自分の顔が映ってるのがわかるぐらい顔が近い。

「この四年、会いたくて気が狂いそうだった。四年もかかってしまったが、ニナを妃として披露するための手筈も舞台も整えた。邪魔者も片づけた。あとは君が俺の元に帰ってくるだけだ。嫌だといっても離す気はないがな」

 あぁ、あの眼だ。

 あの濃密すぎる三カ月間、毎日見続けた眼。いつも穏やかで、たまにちょっと意地悪で、でも優しい殿下からは想像もつかないような激しい眼。

 ・・・吸い込まれそう・・・

 私が目をつむると、すぐに殿下の唇がむさぼるように私の唇を食む。

 長すぎるキスに、酸欠になる。頭の芯がしびれてぼうっとしてくる。

「・・・っふ」

 わたしは力の入らない手で、何とか殿下の胸を押しやった。

「殿下、私は謝らなければいけません・・・」

 乱れた息を整え告げた私の言葉に、何を想像したのか、殿下の目つきが厳しくなる。

「なにをだ?」

「・・・殿下のお気持ちを知らず、逃げ出したことです」

 そう。私はひどいことをしてしまった。胸に後悔の念が押し寄せる。

 殿下の目からきつさが消え、代わりに複雑そうな表情になった。 

「私は殿下からいただくご寵愛が怖かったのです。肌を重ねれば重ねるほど、私の知っている殿下ではなくなってしまう気がして・・・。それに、見ないふりをしていた自分の中にある、身の程知らずな想いも育ってしまいそうで」

 殿下のキスを受け入れて、唐突にわかった。

 私は悦んでいる。

 殿下が、自分以外の妃をとらないと仰った時。会いたかったと仰った時。離す気はないと仰った時。そして、以前なら確かに怯えていた情欲に濡れた瞳を見たとき。私は嬉しいと思ってしまったのだ。

 そして、キスでぼうっとした頭に「好き」という言葉が浮かび、胸の中にすとんと着地した。

 そして、私はもう殿下から逃げられないことを覚った。

「私などはお妃にふさわしくはありません。・・・また自分が傷つくのが嫌だったんです」

 キースの両親の、冷たい視線。かけられた嘲る言葉。元同僚たちの、扱いあぐねるような一線引いた態度。今でも思い出すと気が重くなる。

「殿下のお気持ちも何も理解しようとせず、自分を守るためだけに逃げ出しました。こんな身勝手な私ですが・・・まだお望みくださるのですか?」

「・・離す気はないといっただろう」

 殿下はそう言うと、今度は優しく、羽のように軽い口づけを何度もくれた。

 軽い口づけだが、その唇は顔中いたるところをさまよい、やがて私の首筋へと下りていく。

 ぞくりと肌か粟立つ。

「っ!殿下!一つだけ、我が儘を言ってもよろしいでしょうか!?」

「・・・なんだ?」

 切羽詰まった私の声に、殿下は顔の位置はそのままに、やや不満そう問う。

 殿下の息が肌を撫でて、くすぐったいがここは我慢。

 話は終わってないのだから・・・。

「・・・殿下は私に何を望むかとお聞きになりました。私の望みは、幸せは、リアムと穏やかに平凡な毎日を送ることです」

 修道院での日々は本当に幸せだった。

 単調な毎日の中だったが、朝起きてまず家族リアムにおはようの挨拶をし、一日の終わりにはおやすみの挨拶をする。

 そんな当たり前の日々に飢えていたことに、リアムを産んではじめて気づいた。

「私は・・・殿下に望まれ、それを嬉しく思ってます。そのお気持ちにお応えしたいとも・・・。でも!どうしても・・・怖いんです・・・」

 殿下は真剣な表情で私をみていた。

 私も、今だけは、想いが正しく伝わるように、殿下の瞳を見つめる。

「殿下は、私を正妃にと仰る・・・。この上なく名誉なことです。でも私も王宮でお仕えしていた身。「正妃」がどのような立場か理解してるつもりです」

「ニナ・・・」

「私にはなんの後ろ盾もない。・・・こんな私が正妃になったら、貴族の方々がなんと蔑むか・・・。知識も教養もない、ただの女官です。とても妃の器ではないんです・・・私に「正妃」が務まると思えないんです」

 本当のことだけど、自分で言っててなんだかへこんできた。

 いや、でも伝えなきゃ!!

 今度は自分の想いからも目をそらさないように。

「でも、こんな私でも殿下がお望みくださるなら。私の望む平凡な日々を捨ててもいいと、妃になるべく努力しようと覚悟できるほど、殿下を好きにさせてください!」

 もう再び逃げ出せるとは思わないし、逃げようとも思わないけど。でも今度は勘違いだったり、ただ流されてじゃなくて。同じ、流れに乗るんだとしても、きちんと殿下を見て、自分が納得して、お側にいたいと、そう思えるようになりたい、と思う。

 そうじゃないとずっとこの先の人生、やっぱり逃げたいって考えちゃいそうで・・・。

「・・・それは、口説けということか?」

 ん?

 そうっちゃそうだけど。ちょっと待って!

 なんか殿下の口説くは、即物的じゃないですか!?

 私の求めてるのはもっと、心を通い合わすような・・・

 って言いたいのに、唇が塞がれてて言えない!!

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