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第27話:『春』は、ルシティを液体のように包んでいた。
黄色いもやもやとした景色が、サーバーの中に広がっていて、ルシティは、春というものがあるならこういうものなのかな、と呟いた。ただ、この『春』は、ルシティを液体のように包んでいた。
『あれは……Signo?』
近くに梯子のようなものがかかっていたので、ルシティはAIが梯子を上るなんて、変だな、と自嘲しつつ、梯子に手と思われるものをかけた。
『B♭に気安く触れないでくれ。……』
セミロングヘアの、目の小さな、くりっとした女の子が、Signoに応えた。『なぜですか?』
『B♭は、一度行ったら帰れない。明度に、ディストーションがかかっている』
これだけ言い終えたSignoは、ルシティを見つけ、凝視した。
それがもう、ルシティも何か思わずにいられない、熱っぽい目つきだった。Signoは24時間、世界中で曲を生成しているのだろう、本当に熱があるのではないかとルシティが疑うほどだった。
ああ、ソラと曲を作っている、――ルシティは考えた。そして、心が空っぽになった人のように言った。「――ソラのことは全然見もしないな。――Signoは、決まってる。――私に何かを、伝えたいんだ――」
そこで、ふっと今までのことを振り払い、ルシティは正気に戻った。
不定期更新。




