Episode39 復讐の達成条件
「そういえばさ、聞きたいことが一つあるんだけどいいか?」
そう言ってから、俺は後悔した。
聞きたいこと、というのはもちろんある。
あるからこそ無意識のうちに、口をついて出てしまったのだ。
「なに?」
「いや、やっぱり何でもない」
俺は何とか発言の取り消しを図るが……。
「そういうのやめてよ。気になるじゃん。ほら、ちゃんと言って」
く……。
逃がしてくれない。
別に恥ずかしいこととかではない。
ただ、あまり踏み込んで星川を不快にさせてしまったら、という恐怖があった。
しかし、こうなってしまったらもう言うしかない。
いや、もう知らん!
どうにでもなれ!
空気を詰め込みすぎた風船のように、俺の迷いは爆発四散した。
「あれだよ。ヒーローに復讐したいっていうのは分かったけどさ、もっと具体的にはどうしたら復讐を果たしたって思えるのかを聞きたいんだよ」
「……なんでそんなこと」
「もしも少しでも手伝えることがあるのなら手伝いたいなと思って」
「……」
俺の言葉に無言になる星川。
やべぇ、やっぱりマズったか?
そうだよな。
復讐を人に手伝ってもらうとか意味わかんないよな。
「ご、ごめん」
俺は慌てて謝る。
「……なんで謝るの?」
え?
「いや、余計な事したかなって」
そういうと、星川はふるふると首を振って……。
「別に怒ってるわけじゃないよ。そこまで親身になってくれて……その、嬉しいし……」
尻すぼみになりながらそう言って、眼を逸らす星川。
あの沈黙は怒ってる訳ではなかったのか。
よかったよかった。
「でも具体的な復讐の内容か……あんまり考えたことなかったな。今まではただヒーローに敵意を持ってただけだったから」
そっか。
俺は薄っぺらい人生しか送ってこなかったから、人に強い敵愾心を抱くというのは良くわからないけど、大概は星川のような状態なのかもしれない。
「でも確かにヒーローを1人自分の手で殺したら気が晴れるかって言われるとそんなことは絶対にないと思うし……」
結局のところ自分でもよく分からないよ。
星川はそう付け加えた。
だよな。
んなこと言われても……、って感じだよな。
「うーん、でもそれでも敢えて復讐の達成条件を上げるとするなら、今のヒーローという組織の壊滅かな。まぁ、結局その時になってみないと分からないことだけさ」
《《今の》》……か。
それなら遠くない未来にチャンスはあるかもしれないな。
そう思ったが、口には出さなかった。
どちらにしろ今の俺には、随分と遠い話であることに変わりないからな。
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俺は今、人生最大の緊張感を味わっている。
現在地はショッピングモールの中の少しオシャレな服屋だ。
少しオシャレと言ってもユニ〇ロよりもワンランク上程度だが。
まぁそんな場所はどうでもいいんだ。
重要なのは……。
「ほら、これとかいいんじゃない?」
隣に星川がいるという事だ。
別に経緯を説明するまでもなく、単にさっきのファーストフード店からの流れで一緒にこのショッピングモールに来ることになったというだけだが。
どうやら自覚は無いのだが、俺は私服のセンスが壊滅的なので選んでくれるらしい。
別に俺と星川なら同じゾディアックの構成員として一緒に外出することくらいおかしくはない。
ないのだが……。
「ねぇ、聞いてる?」
「あ、あぁ、うん」
このシチュエーションどう考えてもデートだろ!
星川はだいぶ気心しれた相手ではあるが、こうなると童貞を発揮してしまう。
童貞か否か以前に、自慢じゃないが彼女いない歴イコール年齢だからな!
くそったれ。
しかも、いつも俺なんかが一緒にいることが出来てしまうから、つい忘れかけてしまうが、星川は学園一とかそんなスケールに収まらないようなレベルの美少女だ。
そんな子と仲良くデート?
恥ずか死んでしまうし、周りの目によって射殺されてしまうしの二重殺だ。
「ほら、とりあえず試着してみてよ」
そんな俺の心境も知らず星川は平然と服を選んで渡してくるし……。
「分かった分かった」
俺は一旦心を落ち着かせるためにも、大人しく渡された服を持って試着室に入った。
やれやれ、服のセンスなんて放っておいてくれればいいのに。
そんなことを思いながらジーンズを穿いて、上にベージュのジャケットを羽織る。
「着れた?」
星川の催促する声を聴いて……。
「ほら」
俺はさらさらとカーテンを開ける。
それを星川はじっくりと見て……。
「おぉ、ちょっとまともな服着るだけで随分格好良くなったじゃん」
「え……いや、俺みたいな陰キャがそんな簡単にイケメンになったら苦労しないって」
格好いいとか生まれて初めて言われたわ。
あり得ないあり得ない。
「いやいや、蓮君はそういう先入観を持ってるだけだって。ちょっと眼鏡外して鏡見てみなよ」
「やだよ恥ずかしい」
俺は断って試着室のカーテンを閉じようとするが……。
「いいからいいから」
無理矢理俺から眼鏡を奪い取って、さらに鏡のほうを向かせようとする星川。
強い力でやられたわけではないが、俺は抵抗できずされるがままに鏡に映った自分を見ることとなる。
しかし……。
あれ?
意外と不細工じゃないな俺の顔。
確かに今まで自分はモテないと信じ切っていたかもしれない。
しかし冷静に客観的に見てみると中の上くらいはあるような気がしてくる。
「ね?」
そういって星川は笑った。
つまりこれは……本当にほめられたということですかね。
今日は色々と疲れたが、それ以上に幸せな時間を俺は体験したようだ。




