姉のこと
豪華なドレスを着飾るように、姉は僕のことを自分好みに仕立てあげた。
小さい頃から僕にはそれが嫌で嫌でたまらなかったけれど、気がつけば、僕は姉にまるで逆らえなくなっていた。
僕らに血のつながりがないということは、姉から教えてもらった。
『将来、彰は私と結婚するの』
そう小学校に上がる前から、姉に言って聞かされていた。
幼いころは無邪気に姉からの好意が嬉しくて、結婚の意味もわからず、お姉ちゃんと結婚する、と言っては周囲に微笑ましく見られていた。
小学校に上がってからは、姉と結婚できないと知って、ショックを受けることもあった。そのたびに、姉は僕を慰めた。
『大丈夫。私たちは結婚できるの』
僕はその言葉を本気にしていなかったけれど、成長するにつれて、どうやら僕らは本当に結婚できるらしいということを知った。
姉がいつからそのことを知ってたかはわからないし、特に興味もないけれど、姉の気持ちが変わることは今日まで残念ながら一度もなかった。
姉は基本的に僕を甘やかしてくれたけれど、時に親より厳しく僕を躾けた。
父がゴルフの景品で飾っていた記念の皿を割ったときなど、父が笑って許してくれても――僕は母の連れ子で、父とは直接血が繋がっていなかった――、姉はなかなか許してくれなかった。
中学生になり、思春期真っ只中になると、好きな子ができた。同じクラスの控えめで伏し目がちの、姉と正反対のタイプだった。
僕はその子に告白した。その子も僕のことが好きだったと言ってくれた。
生まれて初めてできたカノジョ。
有頂天になった僕は、カノジョができたことを迂闊にも姉に話してしまった。
次の日、その子は急に僕に対してよそよそしくなっていた。何も訊けないまま、その子は僕に別れを告げた。理由は何も教えてもらえなかった。
家で女々しく泣く僕を、姉は優しく抱きしめてくれた。
『彰には私がいるじゃない』
姉はそう言って、僕の頭をなでてくれた。
姉が元凶だと知ったのは、高校に入り、その子と偶然町で再会したときだった。