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ただいまテンパり中

自室のドアを開けたら、部屋の真ん中に黒い小山があった。


いや、小山って言ってもね?

なんか尻尾とかついてて足は四本で、顔は犬っていうか、狼っていうか?

あいにく私は生きてる狼をマジマジと見られる時代に生きてなかったから、イメージなんだけど。

それなのに、なんで狼に似てるって思ったのかといえば、あれよ。

シベリアンハスキーに似てるのよ。

なんだろ、瞳が青いところかしら。

ハスキーみたいなカラーリングではなくて、全身まっくろなんだけども。

のんきだって言わないで!

十分テンパっておりますよ!


現代日本で享年21歳、生まれ変わったこの世界は3年目。

わたくし、再び生命の危機に瀕しておりますか?

……あぁ、それにしても…いいもっふもふだぜ…。






さようなら私。

こんにちは私。そして初めての世界。


私には前世の記憶があった。

いわゆる21世紀の現代日本で暮らしていた、どこにでもいる一般人としての21年間が。

そしておぼろげながら、そこで死んだ記憶もあった。

うん、死んだ瞬間のことは覚えてないんだけども。

ちゃんと生活してた記憶が21年間なだけで、もしかしたらその後の記憶がぶっとんじゃってるだけなのかもしれないけども。

とにかく私は、自分は死んでから『こちら』の世界に来たんだという納得があったのだ。



目を開けたら、そこは別世界でした。

いやむしろこれが異世界というものか。

私の周りには、ティンカーベルのような可愛らしいヒトたちが、何人もふわふわと飛び回ってた。

(後になって教えてもらうまで、私は彼女たちを妖精だと信じ込んでいた)



さすがに、この世界に生まれた瞬間のことは覚えてない。

でもたぶんこの時、生まれてから半年くらい経っていたらしい。

まず目にしたのは、ファンタジーを体現するかのような妖精たち。

目を丸くして、ふわふわと飛びながら笑いかけてくる彼女たちに手を伸ばしかけ。

私はまた目を丸くした。


ちっさ!!!!


ていうか、ちっさいどころじゃない。

このぷにぷにでふわふわな小さい手が私の手だとするならば、いまの私は間違いなく赤ちゃんだよ!?

何がどうしてこうなったぁぁぁ!?


「ふぁ、…あぁぁ…、あぁーーーーーん!」


一気に膨れあがった感情の高ぶりを制御できずに、私はわけもわからず泣き声をあげた。

とたんに、パタパタと軽い足音が近寄ってきて。

覗き込んできた女の人を見上げると、思わず私は泣くのを忘れた。

だってすっっごい美人だったんだよ~!

こんなキレイなひと、生まれて初めてみたよ!

いや、どうやら今の私は生まれたてのようですが。

前の21年間をあわせても、やっぱり初めてですよ!

思わず敬語になるほどだよ!


「……? ………~?」


……え?

話しかけられてます…よね?

ちょっと待って、それ何語ですか?


自慢じゃないけど、英語は赤点常習犯だったこの私。

耳に覚えがないのは、外国語だったらどれも一緒なわけですが。

だが、この美人さんに限っては、おそらくそういう問題じゃない。

だって髪が緑なんだもの。

それも、鮮やかな新緑のミドリ。

白い肌に映えて、とても似合います。

ちなみに、瞳は宝石を嵌め込んだかのようにキラキラしてるエメラルド。

その瞳に影を落とすほど長いまつげまで、良く見たら緑だった。

間違いない、これってこのひとの地毛…だ…。


パニックに目を白黒させてる私に女の人は軽く首を傾げてから、手を伸ばして私の額を撫でてくれた。

細い指先は爪まで整えられていて、頬をくすぐるように撫でられると気持ち良かった。

ほにゃほにゃとした笑い声を上げた私に、にっこりと笑いかけてくる女の人が、まさかお母さんだったとは……。

このときの私はまったく思いもしなかったのでした。


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