第16章 職員との駆け引き
翌朝の食堂は、奇妙な静けさに包まれていた。
前夜の探索で心身をすり減らした六人は、互いに言葉少なに食事を口にしていた。
そんな中、職員の川添幸雄がトレイを手にして隣の席に腰を下ろした。
「昨夜は……眠れましたか?」
その問いに、悟の手が一瞬止まった。
「ええ、まあ」
努めて平静を装うが、川添の目は鋭く、嘘を見抜いているように思えた。
「この施設では、不思議な体験をする方が多いんです。声を聞いたり、影を見たり……」
川添は淡々と言った。その声音は冗談めいていながら、どこか底知れない重みを孕んでいた。
午後、廊下を歩いていた翔子は、看護師の荒川澄江に声をかけられた。
「昨夜、部屋を出ていましたね?」
翔子の胸が跳ねた。荒川の目は優しいが、その奥に冷ややかな光が潜んでいた。
「……眠れなくて、廊下を歩いていただけです」
必死に取り繕うと、荒川はしばらく沈黙し、やがて小さく笑った。
「ここでは“眠れない夜”が続く人ほど、早く決断される傾向があります。……ご自身の心と向き合ってください」
その言葉は忠告か、それとも警告か。翔子は返事ができず、ただ頭を下げてその場を去った。
夜、探偵・宮本誠は川添を中庭で呼び止めた。
「率直に聞きたい。あなたはここで何を見てきた?」
川添はしばらく空を見上げ、低く答えた。
「数えきれない最期を見ました。皆、安らかな顔で逝きましたよ。……それが“正しいこと”か、は分かりませんが」
誠は一歩踏み込んだ。
「安らかに逝くためだけの施設なら、なぜ“消えた”ように処理される? カルテも、搬送記録も――俺は見た」
川添の目が細くなった。
「……探しすぎると、ここでは長くいられませんよ」
それは脅しではなく、むしろ哀れみのように響いた。
同じころ、荒川はナースステーションで一人書き物をしていた。
彼女の手帳には、こう走り書きが残されていた。
《また彼らが動き始めている。
止めるべきか、それとも……見守るべきか。》
小さなランプの灯りに照らされたその文字は、揺れる心の証だった。
翌朝、志願者たちは再び集まった。
「職員たち……やっぱり何か知ってるな」光輝が低く言う。
悟も頷いた。
「でも川添さんの目、あれは……全部を否定してるようには見えなかった」
翔子は手を握りしめた。
「どっちにしても、私たちは真実を知りたい」
正弘と弘子も、ゆっくりと頷いた。
誠は全員を見渡し、言葉を選んだ。
「次は、もっと深く踏み込む必要がある。だが同時に、職員の中に協力者を探すことも考えた方がいい」
小さな集会は、さらに緊張を帯びて幕を閉じた。




