第14章 秘密の集会
夜十時。
施設の消灯時間を過ぎ、廊下の明かりが落ちたころ。
悟の部屋のドアをノックする音がした。
小声で答えると、扉の隙間から翔子と光輝が入り、少し遅れて塩谷夫妻がやって来た。最後に姿を見せたのは宮本誠だった。
「こんな時間に集まって大丈夫なの?」翔子が不安げに囁く。
光輝が低い声で答えた。
「監視カメラは廊下だけだ。部屋に入ってしまえば平気だろう」
それでも皆の顔はこわばっていた。施設に逆らうことは、命を委ねる相手に刃向かうことでもあるからだ。
最初に口を開いたのは悟だった。
「俺は、廊下で“逃げても無駄だ”って声を聞いた。……ここに来てから何度も」
翔子は両手を膝に握りしめ、震える声を出した。
「私も……鏡に知らない人が映りました。“もう大丈夫”って……」
光輝がノートを開き、震える指でページを示した。
「これを見てくれ。《あなたもすぐに仲間になる》……勝手に書かれていた」
弘子が目を伏せた。
「私たちも聞いたわ。“一緒に来い”って。夢じゃなかった」
正弘も重々しく頷いた。
部屋に重苦しい沈黙が流れる。
そこで誠が口を開いた。
「……やはり、皆も気づいているんだな。」
悟が顔を上げた。
「“やはり”って……あんたも?」
誠は一瞬迷ったが、探偵としての立場を明かすことを選んだ。
「俺は、探しものがあってここに来た。ある母親から依頼を受けていたんだ。行方不明になった娘を探してほしいと」
一同の表情が変わった。
翔子が小さな声で問いかける。
「その子……この施設に?」
誠は静かに頷いた。
「ここにいると確信をしてる。だが、まだ姿を確認できていない」
光輝が深く息を吐いた。
「つまり、この施設は“普通の終末ケア”なんかじゃないってことだな」
「おそらくはな」誠は答えた。
「死を管理し、商品化している。さらに……死んだ者の“何か”がここに残っている可能性がある」
言葉に、全員の背筋が震えた。
翔子が勇気を振り絞って言った。
「……もし、本当にその子がここにいるなら……私たちで探しましょう」
悟がすぐに頷いた。
「どうせ死ぬために来たんだ。最後に一つぐらい、意味のあることをしてもいいだろ」
光輝も、塩谷夫妻も、次々に頷いた。
誠はその光景を見て、心の奥で微かな熱を感じた。
――死を選んだはずの者たちが、今は“生きて何かを成そう”としている。
集会は短く切り上げられた。
「次に動くのは……明日の夜だ」誠が告げると、皆はそれぞれ部屋へ散っていった。
悟はドアを閉める直前、振り返って誠を見た。
「俺たち、もう“仲間”でいいんですよね?」
誠は少し驚き、そしてゆっくり頷いた。
「……ああ、仲間だ」
その瞬間、沈んでいた空気の奥に、かすかな光が灯ったように思えた。




