第29話「任侠旋風 ― 地元とSNSの沸騰」
聖都学園撃破の翌日。
朝のニュース番組は、いずれもこの一戦を大きく取り上げていた。
『全国高校女子サッカー選手権、波乱! 無名の北野高校が強豪・聖都学園を撃破!』
『勝因は“任侠投げ”!? 奇抜すぎるロングスローに会場騒然』
『賛否両論、筋を通した勝利か、はたまた反則スレスレの荒技か』
スタジオのコメンテーターが口々に持論を述べる。
「いやぁ、あれはサッカーじゃないですよ。全然美しくない」
「でもね、会場は盛り上がってましたよ。こういうチームが一つあると、大会が面白くなる」
SNSはさらに賑やかだった。
《#任侠投げ》《#最後のカチコミ》《#北野旋風》――いずれもトレンド上位に並び、切り抜き動画やGIFが秒単位で拡散されていく。
「何回見ても草」「飛び込み方が完全にプロレス」「美を砕く拳、名シーンだ」
賛美も批判も渦を巻き、北野の名前は全国に轟いた。
◇
地元・北野商店街は、その日まさに祭りだった。
八百屋のオヤジがテレビを外に出してリプレイを流し、通りがかった客が「心愛ちゃん、よう飛んだばい!」と声を弾ませる。
たこ焼き屋の屋台には《祝!北野高校二回戦突破》の張り紙。焼きたてのたこ焼きを手にした子どもたちは、店の隅でボールを持ち「任侠投げごっこ」に夢中だった。
「よっしゃー! オレ、梨花やるばい!」
「じゃあオレは舞ちゃん! 止めに行くばい!」
見守る大人たちは笑いながらも、胸の奥にじんわりと誇りを覚えていた。
近所の農家のじいちゃんは、新聞を握りしめて涙ぐむ。
「ワシらの筋が、都会に通じたんやなぁ……」
北野高校女子サッカー部は、単なる部活の一チームではなく、地域の希望そのものになりつつあった。
◇
一方、その中心にいる舞は浮かない顔だった。
学校の部室で、メンバーと喜びを分かち合ったあと、一人グラウンドに残っていた。
「……私たちのサッカーって、本当に認められてるのかな」
舞の脳裏には、テレビでの辛辣な言葉が蘇る。
“泥臭いだけ”“時代遅れ”“奇策頼み”――。
勝ったはずなのに、胸に広がるのは妙な空虚さだった。
そこへ、煙草の煙とともに竜司が現れる。
「なんだ、泣き顔やないか」
「……泣いてない」
「じゃあ、悩んどる顔やな。お前、評論家のオッサンらの言葉、気にしとるやろ」
図星を突かれ、舞はうつむいた。
竜司は煙を吐き、空を見上げる。
「筋はな、数字や流行で測れるもんやない。お前らは自分のやり方で勝った。それが全てだ」
「でも……」
「でももクソもあるか。いいか、筋は通したもん勝ちや。都会の理屈は、勝ち星の前じゃ黙るんや」
竜司の言葉に、舞は小さく頷いた。
(筋を通す。それだけでいい――)
◇
その夜。
スポーツニュースは次なる対戦相手を報じた。
『三回戦、北野高校の相手は修学院大付属高校。戦術派の乾智也監督率いる知略集団だ』
画面には、無表情でタブレットを操作する若き監督の姿。
冷徹な眼差しに、舞は思わず息をのむ。
「……次は、簡単にはいかないかもしれない」
しかし、その横で梨花が大口を開けて笑った。
「データや戦術やゆうても、任侠投げは止められねぇ! 次もカチコミ決めてやるぜ!」
笑い声が夜空に響く。
北野の任侠旋風は、まだ始まったばかりだった――。




