第28話「任侠の逆襲 ― 美を砕く拳」
後半も半ばを過ぎてもなお、スコアは0対1。だが、会場の熱気は序盤とは正反対のものになっていた。
聖都学園の華麗なパスサッカーは、北野の“人を狙う守備”によって、ことごとく寸断されていたのだ。
「なっ……また潰された!」
玲央奈の苛立ちが声となって漏れる。パスを受けた瞬間には、すでに舞が体を寄せている。しかも、そこに梨花が突っ込み、逃げ場を奪う。
エリカは必死に冷静を装いながらも、心の奥で焦燥を隠せなかった。
(リズムが作れない……! 私が動くたび、必ず一人は潰しにくる。こんなサッカー、初めて……!)
そんな中、北野が得たスローイン。タッチラインに立つのは、もちろん梨花だった。
「よっしゃ、見せてやんぞ!」
助走をつけ、大きく仰け反り――渾身の力でボールをぶん投げる。
――任侠投げ。
一直線にゴール前へ飛ぶボール。観客席からはどよめきが広がる。
「また来た!」「これぞ北野だ!」
ゴール前は大混戦。だが今回は違った。舞が冷静にボールの落下点を読み、頭で落とす。
「紗季、行けぇっ!」
その声に呼応し、紗季が一瞬で加速。白いユニフォームの壁を切り裂き、右足を振り抜いた。
――ズドンッ!
ネットが激しく揺れた。
「ゴオオオオール!!!」
実況の声が張り裂ける。スコア1対1。会場は地鳴りのような歓声に包まれた。
「よっしゃあああ!」
梨花が雄叫びを上げる。心愛は跳ね回り、舞は拳を握る。
「……やっと追いついた」
紗季の瞳には、冷静な炎が宿っていた。
◇
追いつかれた聖都は必死に反撃を試みる。エリカが得意のスルーパスで玲央奈を走らせる。
「抜けた!」
観客の声が高まる。玲央奈が放ったシュート――だが、その前に美咲が立ちはだかった。
「通さないよっ!」
体を投げ出し、右手一本で弾き出す。ポストに体をぶつけ痛みで顔を歪めながらも、彼女は立ち上がり、後輩たちに笑みを見せる。
「ほら、まだ負けてないよ!前向いて!」
その姿にチームは再び奮い立った。
◇
残り時間はわずか。竜司がベンチ前に立ち、スーツの裾をはためかせる。
「お前らァ! 最後のカチコミじゃあ!!!」
怒号のような声に、観客もどよめく。
再び梨花がボールを構える。会場全体が息を呑む。
「任侠投げ、ラストや!」
渾身のスローは夜空を裂く流星のように飛び、ゴール前へ吸い込まれた。
紗季がニアに走りだして囮になりサイドがガラ空きになる!
そこへ飛び込んだのは――心愛だった。
「うおおおおおっ!任侠魂見せてやるっすー!」
ダイビングヘッド。体ごと突っ込み、ボールを叩き込む。
――ゴールネットが揺れた。
「逆転ゴオオオル!!!」
観客席は爆発。SNSには瞬く間に《#任侠投げ》《#最後のカチコミ》の文字が躍った。
◇
試合終了のホイッスル。スコア2対1。北野高校、全国二回戦突破――。
肩を落とす聖都の選手たちの中で、エリカは静かに舞へ近づいた。
「……美しくなかった。でも、強かった」
舞は泥だらけのユニフォームのまま笑みを返す。
「筋を通しただけだよ」
歓喜に沸く仲間たち。その中心で竜司はタバコを咥え、煙を吐き出しながら薄く笑った。
「ほれ見ぃ。筋通したら、都会の理屈も黙るんや」
こうして――北野高校女子サッカー部の任侠快進撃は、全国にその名を轟かせることとなった。




