第17話「任侠サッカー終幕」
決勝戦、後半開始。スタンドは満員の観客で埋まり、空気が震えていた。
鳳凰学園は落ち着いたパス回しで再び北野を押し込む。後半10分、ついに均衡が崩れた。中央を細かいパスで崩され、鳳凰のエースストライカーが豪快にシュートを突き刺した。
スタジアムが歓声で揺れる。北野の一年生たちは一瞬顔を曇らせたが――その時、竜司がベンチで笑った。
「……待ってたぜ。ここからが任侠サッカーだ!」
部員たちが振り返る。竜司はタバコを咥え、火をつけずに口の端を吊り上げる。
「紗季、お前が一歩引け。囮になれ。エースが下がったら、空いた裏に舞と心愛がカチコミかませ!」
紗季が小さく頷く。「囮、ね……任侠らしくない役回りだけど、勝つためなら飲むよ」
竜司はニヤリと笑った。「本物は、時に自分を犠牲にするもんだ」
――――
作戦変更直後。
前線に構えていた紗季がスッと下がる。鳳凰のセンターバックが「何だ?」と一瞬迷う。そこへ舞が縦パスを差し込む。空いたスペースに心愛が電光石火のように走り込んだ。
「カチコミだーーー!」心愛が叫ぶ。
キーパーとの1対1、無意識のフェイントで相手をかわし、左足でゴールへ流し込む。
同点! スタジアムが割れんばかりに沸いた。ベンチの竜司は立ち上がり、拳を振り上げる。
「これが北野一家のやり口だ! 盃割ってでも勝ち取るんだ!」
――――
残り15分。スコアは1-1。鳳凰も必死に反撃する。屈強なエースがゴール前へ突進し、梨花と正面衝突した。
「どけぇ!」
「誰が通すか、アホォ!」
ドンッ! 激しい音が響く。梨花は体ごとぶつかり、相手を押し返した。観客からどよめきが起きる。
「仁王立ち、なめんなよ!」梨花は吐き捨て、奪ったボールをタッチへ蹴り出した。
さらに終了間際、ゴール前のピンチ。強烈なシュートが飛んでくる――竜司が「命がけでシマ守れー!」と叫び
美咲が全身で飛び込み、拳で弾き出した。
「監督、これ以上騒いだら警察来ますよ!」と笑いながら立ち上がる美咲に、観客から大きな拍手が送られる。
――――
そして試合はアディショナルタイムへ。スコアはまだ1-1。勝負を決める最後のワンプレー。
スローインの場面、梨花がボールを掴んだ。助走をとり、渾身の力で投げる。
「任侠投げだぁぁっ!」
ロングスローはゴール前へ一直線。竜司がタッチライン際で吠えた。
「一撃で決めろォォ!」
ボールに走り込んだのは紗季。囮として走らされ続けたエースが、最後に全身を弓のようにしならせ、豪快なボレーを叩き込んだ!
ネットが突き破れんばかりに揺れる。ゴール! 決勝点!
スタンドは地鳴りのような歓声に包まれた。
――――
試合終了。スコアは2-1。北野高校、県大会優勝。
ピッチに倒れ込む選手たちを見下ろし、竜司はタバコに火をつけた。紫煙を吐きながら呟く。
「抗争に勝つんは、腕っぷしだけじゃない。盃割る覚悟持った奴が最後に立ってんだ」
紗季が微笑む。「囮でもいい。最後に一撃決めたのは最高の気分だった」
舞は汗を拭きながらうなずく。「これが任侠サッカー……私たちの戦いだね」
竜司は笑みを浮かべる。
「北野一家の抗争は、まだ始まったばかりだ。次は――全国だ」
その言葉に、仲間たちは力強く拳を突き上げた。




