第10話「シマを守れ!梨花のロングスロー」
県大会三回戦の相手は、ロングボールとカウンターで一気に仕留めるフィジカル型の強豪・南浜工業。
作戦会議で竜司はホワイトボードにフィールドを描き、部員たちを睨む。
「お前ら、今日から“縄張り”だ。このエリアはテメェらのシマ。勝手に入ってくる奴は、即カチコミだぞ」
舞が小声で「つまりゾーンディフェンスの徹底ってことね」と通訳する。
そして竜司は梨花の肩を叩いた。
「お前にはもう一つ特技をつける。今日から“投げ屋”だ」
「は?」
「ロングスローだ。お前の肩力なら、ゴール前まで飛ばせる」
その日の練習、梨花は助走をつけてボールを放る。放物線はペナルティエリアの中央へ落ち、園田GKが慌ててキャッチ。
「うわっ、危な! これ武器になるよ!」と笑いが起こる。
竜司はニヤリと笑い、「これでセットプレーが倍や。お前は“代紋”背負った投げ屋や」と告げた。
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試合当日。南浜工業は開始早々、縦へのロングボールを連発してくる。
だが北野は慌てない。舞が「右、カバー!」と叫び、梨花がサイド突破を封じ、心愛が戻って二重の壁を作る。
相手エースが苛立ち、「なんで道がねぇんだ!」と声を上げる。
前半20分、敵陣スローインのチャンス。梨花が深呼吸して助走をとると、観客席から「女の子がそんなに飛ばせるわけ――」という声が聞こえる。
次の瞬間、矢のようなスローがゴール前へ。混戦のこぼれ球を紗季が押し込み、1-0。ベンチが沸いた。
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後半、南浜工業はサイドチェンジを多用してゾーンを崩しにくる。
何度も対応するが、70分、ついに一瞬のマークミスから同点弾を許してしまう。
梨花は悔しげに唇を噛む。竜司がベンチから「落ち着け! シマはまだ渡しちゃいねぇ!」と叫ぶ。
時計が85分を回った頃、右サイドでスローイン獲得。
竜司が梨花を呼び寄せ、低く囁く。「最後にケジメつけてこい」
梨花が渾身のロングスローを放り込む。紗季のヘディングはバー直撃――だがこぼれ球に舞が詰め、押し込んだ。2-1。
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試合終了の笛。
梨花は竜司の前に立ち、満面の笑みで言った。
「親分、あたしのシマ、守りきったぜ!」
「上等だ。これからも自分のシマはきっちり守れよ」
部員たちは笑い、ハイタッチを交わす。
控室で舞が「これ、セットプレーのバリエーション増えるね」と嬉しそうに言えば、紗季も「ロングスローからの崩し、もっと練習しておく」と意気込む。
竜司はタバコをくわえ、火をつけずにニヤリと笑った。
「次は“裏切り防止”を叩き込む。仲間を売るヤツは――地獄行きだ」
県大会は佳境へ。北野高校の任侠サッカーは、さらに牙を研いでいく――。




