発明王ホルガ―
それは、一同がそれぞれペガサス、ドラゴン、翼鹿に乗り、空を駆けているときだった。
バーン!
眼下の森から、大きな音がした。
バーン!
「なんだっ!?」
ふたたび、大きな音。
「銃かもしれません!」
ドラゴンのオレグに乗った、ミハイルが叫んだ。
「じゅう?」
キースが初めて聞く単語。思わず聞き返した。
「ええ。銃とは、最新鋭の武器らしいです。旅の途中、ある国で一度だけ見かけました。狙いを定め引き金を引くだけで、一瞬にして人を殺せる恐ろしい武器です。携帯できるほど小型で、一人で持ち歩ける大砲といった感じです」
「そんな恐ろしいものが……!」
どうしてそんな恐ろしい武器の音が、人気のないような眼下の森で聞こえるのだろう、とキースは不思議に思った。
「んっ! この気配は……!」
ミハイルが叫んだ。森の中へと意識を向けたとき、なにかを感じたのだ。
「多数の魔物の気配を感じます!」
「もしかして、魔物に人が襲われているのか!?」
一同は、急いで森の中、銃声らしき音のしたほうへ降り立つ。
森の中には、武器を携えた痩せた老人、そして老人を取り囲むように、魔物の群れがあった。
魔物は、狼のような姿をしていて、光る金色の目が四つあった。たくましい四肢、漆黒の毛並みをしていて、口は大きく鋭利な牙、そして長い舌をたらしている。
魔物は一頭倒れていたが、光を放ち次第に消えていった。この老人が銃で仕留めたようだ。しかし、群れはその他に十数頭いた。
「じーさん! 助太刀するぜ!」
キースが叫びながら、躊躇することなくまっすぐ魔物の群れに斬り込んでいく。
ズバッ!
滅悪の剣が、キースに向かって飛びかかる魔物を切り裂いた。
――あの感覚、あの感覚を忘れずに……!
無謀に群れに突っ込んでいったように見えるが、キースは精神を研ぎ澄ませ、深く集中していた。
ザンッ!
右方向からキースに向かってくる魔物も、なぎ払うように斬る。
ガウウウウウッ!
キースの左手から、飛びかかる魔物。
ザシュッ!
「俺の刀も、魔物が斬れる」
宗徳だった。キースの左手に迫る魔物を斬った。
「ありがとー!」
「礼を言ってる場合か!」
そう言う宗徳も、笑顔を見せる余裕があった。二人は、背中合わせに剣、刀、それぞれ構える。
グルルルル……!
仲間をあっけなく次々と倒されたが、魔物はひるまない。低い姿勢をとり、威嚇する。一瞬でも隙があれば、喉笛を嚙み切るよう狙いを定めている。
「あんたがたは、いったい……!」
銃を手にした老人は、ただただ度肝を抜かれていた。
「おじいさん、もう大丈夫よ! お怪我はないですか?」
アーデルハイトが老人に尋ねた。
「ああ、わしは大丈夫じゃ!」
「よかったあ!」
アーデルハイトの肩に座る妖精のユリエも、安堵の声を上げた。
ミハイルは、護るように老人とアーデルハイトの前に立ち、呪文を唱える。
「草木の精霊よ、この老人と女性と小さき妖精に、厚き守護を! 正しき守護の力により、まがまがしきもの、彼らを見ること触れること叶わず!」
サアッ!
たちまち、老人とアーデルハイト、それから妖精のユリエの周りを緑の光が取り囲む。
「おじいさん、アーデルハイトさん、ユリエさん、そこでじっとしていてくださいね! そこにいる限り、安全ですから!」
ミハイルは、老人とアーデルハイトとユリエに微笑みかける。それから真剣な表情になり、ふたたび呪文を唱えた。
「大気の精霊、白い刃となり、まがまがしきものを切り裂き浄化せよ!」
ダンッ!
ミハイルが手に持つ魔法の杖の先で大地を打ち鳴らすと、無数の白い光が魔物に向かい飛んで行った。
シュッ! ズバッ! ズバッ!
白い光に貫かれた魔物は、光りながら消えていく。
ザンッ! ザシュッ! ドンッ!
滅悪の剣、宗徳の刀も、次々と襲いかかる魔物を打ち払う――。
「あんたがたは、いったい、何者なんじゃ……」
老人が、呟く。若者たちが、恐ろしい魔物たちをいとも簡単に倒していく光景を、信じられない、といった面持ちで見つめていた。
「私たちは、ただの旅人です。偶然上空を通りかかったのです」
アーデルハイトが、笑顔で老人に答える。
「完了ーっ!」
キースが空を見上げるようにして叫ぶ。もう、辺りに魔物の姿はなかった。
「キース。さすがだな!」
「宗徳! あんたも! 安心して背中を任せられたぜ!」
キースと宗徳は、なにかの挨拶をするように互いの腕を軽くぶつけ合った。
「それにミハイル! あんたも本当にすごいな!」
キースと宗徳は、ミハイルに笑いかけた。
「お二人とも、鮮やかな剣の技、思わず目を見張りました!」
キースと宗徳、ミハイルは、軽く互いの拳をぶつけ合ったり、背中を叩き合ったりして笑顔を交わす。魔物をすべて倒せたこと、誰も負傷しなかったことを称え合い喜び合った。
「ああ! もちろん、カイ! カイもほんとにありがとー!」
しーん。
返事はない。カイは剣のまま沈黙している。
「ああそうか。じーさんが見てるからな」
キースがそう語りかけると、カイはうなづくように一回だけ青く光った。
「お若いかたがた、危ないところを本当にありがとうございました! おかげ様で、命拾いしました――!」
老人は、皆に向かって深く頭を下げた。
「いやあ、ちょうど通りかかってよかったよ! それにしても、じーさん、こんな森の中、どうしてたった一人でいたんだ?」
キースが、首をかしげながら老人に尋ねた。
「石を探していたんじゃ」
「石?」
「この辺りは、不思議な力が働いていて、そのおかげでいい石がたくさん見つかるのじゃ」
「不思議な力……?」
「そうじゃ。でもその不思議な力の関係で、昼間でもあのようにたくさん魔物たちが出てくるのだがな――」
そう言って老人は肩をすくめた。
「じーさんは、なんで石を集めてるんだ?」
「今度の発明品に使うために、集めておるんじゃ」
「発明品……? あっ……! もしかして、じーさん、あんたが例の発明王!?」
キースは、国境検問所の役人たちが話していたことを思い出した。この国には偉大な発明王がいる、と――。
「発明王……。まあ、わしのことをそう呼ぶ輩もいるな」
老人は、照れたように頭を掻いた。
「すげーな! じーさん、あんたの発明品の写真ってやつ、ほんとすげーよ! 発明してくれてありがとー! いやあー! まさか発明王に会えるとは! 写真サイコー! 大切な宝物だよ! ほんと、素晴らしい発明ありがとー!」
キースは、笑顔で老人の両手をとり、ぶんぶんと大きく振った。
「いやいや、命の恩人に、逆に礼を言われるとは……!」
老人は、すっかり照れてしまって、ますます頭を掻く。
「じーさん。もしかして、その銃ってやつも、じーさんが発明したの?」
キースが尋ねる。
「まさか! わしは武器など作らんよ! これは護身用に買ったのじゃ! 外国製で、えらい値の張る物だったが、魔物対策のためには致し方ない。まあもっとも、これだけじゃあ魔物を倒せんがの。銀製の弾丸がないと――。まあ、銀製の弾丸は手に入らなかったから、仕方なくわしが創った」
魔物は、銃だけでは倒せないらしい。銀製の弾丸を使って初めて、魔物退治に活用できるようだ。
「ふうん? つまり、じーさんは武器以外のものを発明する人なんだねえ」
「そうじゃ。新兵器を発明しろと王様に言われたこともあったが、わしはそんな発明はごめんじゃ。大金を積まれたが断ったよ」
老人は、胸を張った。
「わしの名は、ホルガ―。あの山の中腹で発明をしながら暮らしておる」
老人は、すぐ近くに見える山を指差した。
「へえ! あの山って……、ちょっと遠いねえ? じーさんは、歩いてきたのか?」
「乗り物があるんじゃよ。わしが発明した空飛ぶ乗り物じゃ」
「なんでも発明するねえ!」
キースが驚きの声を上げた。
「皆さん、本当にありがとう。ささやかなお礼として、わしの家でお昼をご馳走させていただきたいのだが……」
「えっ!? いいんですかっ!?」
ホルガ―の嬉しい提案に、一同、顔を見合わせ笑顔になった。発明王の家とはどんな家なのか、おおいに興味があった。
「よかった! 善は急げじゃ! 皆さん、わしのあとについてきてくだされ!」
発明王ホルガ―は、茂みの中へ入っていく。
「空飛ぶ乗り物って、いったいどんなものなんだろう……」
疑問に思いながら、一同も茂みの中へ入る。
ババババババ!
「うわっ!?」
そこには、銀色の、回転する羽が上部に付いた不思議な乗り物――、ヘリコプターのような乗り物があった。
「わしについてきてくだされ!」
不思議な乗り物は、大きな音をさせながら、空へと上昇する。
「すげーな! じーさん!」
皆もそれぞれ、ペガサス、ドラゴン、翼鹿に乗り、空を飛ぶ。
――楽しみだな! 発明王の家かあ!
ちょうど、お昼にいい時間だった。
風に黒い髪をなびかせながら、キースは瞳を輝かせた。




