第12話 奴の非道を暴露せよ!
「わ、わ、遂に来た!
遂に僕が、王に認められるんだ!!」
殆ど子供のように足取りも軽やかに、壇を上がっていくラオベン。何故クレオやフェアリーナと一緒に呼ばれたのか、疑問にも思っていないようだ。
その後ろを、ふらつきつつもクレオに支えられ、上がっていくフェアリーナ。
王の前にひれ伏しながらも、ラオベンは早口で自分の苦労をまくしたてる。
「陛下、感謝いたします!
僕はこれまで、病に苦しむ数多の人々の為に医術を学び、精進してまいりました。
昼も夜も、どれだけ勉学に励んだことか。遂に努力が実り、光栄の至りです!」
朗々と言ってのけるラオベンに、王は言葉を投げかけた。
「――その言葉に、偽りはないか。
お前は、どんな身分であろうと貧富の差があろうと平等に患者を扱い、病の撲滅に力を尽くすと誓えるか」
「勿論ですとも!
貴族も平民も、患者に違いはありません。それが僕の信条ですから」
全く迷わずこの言葉を口にしたラオベンを、王はじろりと睨んだ。
失望のため息と共に。
「……そうか。
最も近しいはずの妻の病にさえ気づかなかったというに、まだお前はその言葉を言えるのか?」
「はっ?」
何を言われたのか理解出来なかったのか、ぽかんと口を開けるラオベン。
その時だった。
《今すぐに貴様らの首をはねてもいいんだぞ!
ハエのようにうるさい平民風情が!!》
突如として場内に響き渡ったものは、ラオベン自身の大声。
普段からは考えられない苛立った声と、その言葉の中身に、貴族たちは一斉にざわざわとどよめいた。
それは勿論、三日前に教会で発せられた、ラオベンの怒号だった。
「へ……はぁっ!?
な、何を……?」
訳の分からない突然の事態に、国王の眼前であたふたしまくるラオベン。
その視線がやがて、背後のクレオとフェアリーナに止まった。
二人は意を決したようにラオベンを睨みつけながら、固く手をつなぎあっている。
「お、お前ら!
何か仕組んだな? この僕に!!」
そんなラオベンの叫びにさらに被るものは、彼自身のわがままいっぱいの怒声。
《こんなボロい教会にいる医者どもなんて、ただのヤブに決まっているだろう》
《見た目どおりの、薄汚い奴らめ!》
《王にお願いして、この教会ごと焼き払ってもいいんだよ?
いざとなればこんな教会、すぐにでも綺麗さっぱり焼野原にできる》
貴族たちの間にも、動揺が一気に広がる。
「こ……これ、ラオベン様の声?」
「嘘……彼が、こんな汚い言葉を? しかもお医者様に」
「教会とはまさか、クレオ嬢がよく歌っているあの教会か?」
「あそこは東国出身の良い医者が揃っていて、行き所のない患者でも診てくれるって評判なのに」
「まさか、そこを焼くって言ったの? ラオベン様が??」
目を剥いて髪を振り乱し、子供のように両腕を振り回して否定するラオベン。
「だ、黙れ黙れ! おかしな術を使いやがって!!」
ラオベンはクレオたちに掴みかかろうとするも、当然その行為は駆けつけたリーベルによって阻止された。
そんなラオベンに、王は冷徹に尋ねる。
「ラオベンよ。
其方は医術士を目指しながら、病を患い体調不良を訴えた婚約者フェアリーナを、ろくに診ることさえなく顧みなかった。
耐え切れずに教会へ駆け込んだフェアリーナを連れ戻そうとし、それを止めようとした教会関係者たちをこのように脅した。しかも王の名さえ濫用して
――間違いないか?」
ラオベンは最早、フェアリーナよりも真っ青。
それでも強硬に反論することは忘れない。
「陛下。それは当たり前ではありませんか!
フェアリーナは仮病にすぎません。妻として当然やるべきことを果たさず、ダラダラといつも怠けてドレスだのお菓子だのなんだの……
自分を飾り立てることにしか興味がない女の言葉など、聞く必要もない!」
そんなラオベンの背後から、クレオのよく通る声が響いた。
「妻のやるべきこと……ですか。
彼女の権利も自由も人生も全てを否定し、人として当然の尊厳すら奪い、真実の愛という言葉で彼女を脅し、自分の為だけにこき使う。
それが貴方の言う妻であれば、もう貴方の妻になろうとする人などいませんよ」
「なっ……!
この嘘つきめ! クレオ、君はフェアリーナと一緒に僕を謀る気だな!!」
しかし王はラオベンの怒りなど全く意に介せず、クレオに視線を向けた。
「クレオ・リュミエールよ。
今ここで、真実を述べてみせよ。この男の、お前たちへの行状を。
この男の非道がどれほどのものか、皆を納得させてみせよ」
そしてクレオは大きくうなずき、歌い始める。
美しい歌声が王宮に響きだした。それは――




