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ロスト=ストーリーは斯く綴れり  作者: 馬面
アフターストーリー「大陸編」
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後日譚:追憶の調べ(14)

 キャンセルゲームは十歩撃ちと並び、魔術士の間ではお馴染みの決闘方法。いわば度胸試しだ。


 勝負方法は単純で、相手に向かって攻撃魔術を撃ち、直撃する直前にキャンセルして魔術を消す。それを交互に繰り返し、その場から一歩でも動いた方が負けとなる。


 結界を張るのは禁止。魔術が微かでも相手に当たってしまったら反則負け。先攻後攻はコイントスなどで決める。


 使用する攻撃魔術は自由の場合もあれば、初級限定などの縛りを決めることもある。風圧で相手を強引に動かすことができる緑魔術は禁止とすることが多い。


 初級縛りならたとえ直撃しても致命傷は免れるが、ある程度の怪我は覚悟する必要がある。中級、更には上級まで解禁した場合はまさしく命懸けだ。


「これは当方個人の意見だけれどね」


 ジェリードゥは長々と伸ばした水色の爪にコインを乗せ、不敵に微笑む。

 

 そこに敵意は見えない。少なくともラディには全く感じ取れなかったし、寧ろ心からこの状況を楽しんでいるようだった。


「魔術士の実力を測るのに最適なのって中級魔術だと思うの。敵を戦闘不能、再起不能に追い込める威力があって魔力コストもそこそこでしょ? 実戦で一番利用価値が高いと思わない?」


「……一理ある」


 ロストは若干間を置いたのち、賛成の意を唱えた。


「実際、中級魔術の論文は初級や上級よりも多い。大学も金になる魔術だと判断している。それだけ需要があるってことだ」


「話がわかるじゃない。気が合いそうね」


「……それじゃ、勝負は緑以外の中級魔術限定でいいんだな?」


 早々に話を切り上げたロストに対し、ジェリードゥは首肯代わりのウインクをしてコインを宙に放った。


 そのコインが吸い込まれるように彼の左手に収まる。


「表」


「じゃあ当方は裏ね。答えは――――」


 開いた左手から露見したのは、裏側を上にした銀色のコイン。それはジェリードゥの先攻を意味した。


 当然、この決闘は先攻が有利。最初の一撃で決着が付けば、ロストは攻撃すらさせて貰えず敗北することになる。


「運も実力のうちとは思わないけれど、今日は当方の日だったみたい。悪く思わないでね」


「気にしてない。中と外、どっちで?」


「いちいち外に出るのは面倒でしょ? ホールで十分」


 ジェリードゥがそう告げるのとほぼ同時に、ホールにいたギルド員たちはカウンターの前や壁際へ自主的に移動を始めた。


 テーブルや椅子はそのままだが、魔術を打ち合うには十分なスペースができあがる。


 ロストとジェリードゥの距離は歩数にして十五歩ほど。十歩撃ちよりもかなり離れている。


「最初にこの距離で撃ち合って、どっちも不動だったら次は一歩ずつ前に出て撃ち合いましょ★」


「了解」


 返事をしたロストが、視線をラディへと向ける。


 それを確認したラディは一瞬『お前の為に命を懸けるからよく見とけ』というメッセージかと誤認しそうになったが、その目が明らかに熱視線とは真逆だったことに気付き、どうにか気の迷いを振り解くことに成功した。


 冷静になれ自分。今ここは敵地の真っ直中。敵地に乗り込んでいるのに頭の中をお花畑にしてどうする。


 そんな自分への叱咤で脳内を埋め尽くしたのち、ようやくロストの意図に気が付いた。


 落ち着いて周りを見渡すと、ギルド員は誰もがロストたちの勝負に夢中。好戦的なギルドだけあって勝負事に対する関心度は極めて高い。


 つまり、今ならギルドの奧に入り込んでも気付かれない。


 マルテが建物内に監禁されていないか調べることができる。


 ルインの不在は既に確信済み。だがマルテはその限りではない。キャルディナの代表が指示して彼を拉致し、何処かの部屋に閉じ込めている可能性は否定できない。


 ロストは暗にそう訴えている――――とラディは解釈した。


 実際にマルテがいるかどうかの把握を短時間で行うのは困難だが、地下や鍵がかかった部屋の有無を調べるだけでも大分違う。何より問答無用で魔術を撃ってきたあのガルフェロイを相手に、平和的な話し合いができるとは到底思えない。


 そう結論付けたラディは頷く動作も省略し、そっとホールを離れた。





 かつて諜報ギルド【ウエスト】に所属していた経験もあり、ラディはギルドという施設に対し実感の伴う知識を持っている。


 基本的には、その職業に就く人々が円滑に仕事を行える為に存在する組織。ただし一方的な支援団体ではなくギルド側は仕事を斡旋し、ギルド員は迅速且つ丁寧に依頼を達成することで周辺住民の信頼と理解をギルドへもたらす。


 故にギルドは基本的に相互扶助組織であり、ギルドとギルド員の関係は対等とされている。あくまでも便宜上の話であって本質的に正しいかどうかは別の話だが、少なくともギルド員を閉じ込めたり拷問したりするような部屋や区域を設けるのは許可されていない。


 仮に地下があるとすれば、それは倉庫などの用途に限られる。


 ただしこれは諜報ギルドの話。例えば傭兵ギルドの場合は武器を常に携帯している為『何らかの理由で我を失ったギルド員が建物内暴れたら甚大な被害が出る』といった理由で地下牢を設けている所が多い。


 よって傭兵ギルドの性質を持ち、かつ武器を扱う傭兵以上に質が悪い魔術士ギルドであれば、同じ理由で地下に監房を設けていても何ら不思議ではない。


 マルテを拘束し監禁するのには最適な場所だ。


 これらの理由から、ラディは地下エリアの有無の調査を最優先することにした。


 誰かに聞くことはできない為、まずは移動可能なエリアの中で階段を探す。


 魔術士ギルドは通常、幾つかの班や部隊に分かれて行動することが多く、その為の待機室 兼 作戦会議室が複数必要になる。また部隊にはランクが設けられることも多々あって、上のランクの部隊は上の階層で待機するのが一般的。よって平屋の魔術士ギルドはまず存在しない。


 キャルディナも例外ではなく、外から見る限りでは三階建ての建物だった。


 つまり上の階層への階段は確実にある。その階段が地下まで繋がっていることが確認できれば、その時点でミッションクリアだ。


 極端に広い建物ではない為、階段はすぐに見つかった。


 だが、それは上りだけ。下りは存在していなかった。


 よって地下の階層はない――――とは言い切れない。


 この【キャルディナ】パロップ支部は教会の誘致によって建設されている。よって道義的に許されざる地下牢を表立って建設することはできない。


 あるとすれば地下への隠し階段。


 それを時間の許す限り探すのが、今ラディのやるべきことだ。


 情報屋はこの世のあらゆるものを調べる。その多くは聞き取り調査だが、リスクを冒して自らの足で調べることも珍しくはない。ラディも幾度となく危ない橋を渡ってきた。


 その経験が、ラディの勘所を抑える力を育んできた。


 隠したい物は基本、人目に触れない場所に設置する。できるだけ動線から外れた所が好ましい。外部の人間が足を運ぶ場所など論外。

 

 構造上の問題はあるが極論、縄梯子で繋げば穴を開けるだけでも出入り口は作れる。見つからないことを優先するならば、ギルド員以外が通る応接室近辺とは逆の方角にある方が良い。


 そんな判断のもと、ラディは通路を移動し――――他の扉とは明らかに離れた所にある扉に目を付けた。


 如何にも階段室といった雰囲気。それも地下に続く階段のみがある。そう睨んだラディは前後を用心深く確認したのち、その扉に身を寄せた。


 すると――――



「彼には早々に御退場願うとしよう」



 扉越しに物騒な声が聞こえる。


 口調は以前対峙したと異なるが、その声は間違いなくガルフェロイのものだった。


「何者かは知らないが、テール司教が肩入れしているのは書面からも伝わってくる。この段階で始末しておけば誤魔化すのは難しくない。次は仕留め損なうことのないよう」 


「……わかりました」


 返事をしたのは確実に女性だった。必然的にルインの名が真っ先に浮かぶ。地下にいたのなら先程の騒ぎに顔を出さないのも合点がいく。


 だが、その人物がルインかどうかの判断はラディにはできない。声を瞬時に判別できるほどの仲ではないし、扉越しだと更に判別は難しい。


 ガルフェロイの方は、つい先日聞いたばかりなので容易に確信を持てたが、ルインとはもう長い間会っていない。


 ラディにとって、ルインは顔見知りの魔術士の一人。それ以上の関係性は何もない。


 共通の話題も特にないのだから当然だ。


「……!」


 足音が通路側に向かっていることに気付き、ラディは即座にその場を離れた。


 幸い、曲がり角まではそう遠くなかった為、扉の開く音よりも先に死角まで辿り着く。扉を閉める音や足音に緊急性が皆無だったことから、見つかっていないという確信も得た。


「はぁ……ったくもー。なんで私がこんな……」


 安堵と同時に不満が一気に漏れ出し、思わず声に出してしまう。


 これも仕事の一環なのだが妙にスッキリしない。


 ラディは原因不明なモヤモヤを抱えつつ、まずまずの収穫と共にホールの方へと戻った。


 不意に湧き上がる歓声。



 勝負は――――






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