七海は昔を語らない 7
時は少し戻り、《勇者》が《魔王》の招待状をもらったあと。
《勇者》の退出後に、麒麟は七海のもとに戻り、何の気なく話を振った。
「そう言えば、ナナちゃんて昔の話とかしないっすよね?」
「え? ……そーかな?」
「そうっすよ! 特に、あの二人のことになると、なんにも話さなくなるじゃないっすか」
「あー、うん。そうかも」
自覚がなかったようで、七海は少し考えながら返事をしていた。
しかし、特に興味のある話を振ったわけではないので、深く聞くつもりはなかったのだが。七海の様子を見るに、少し面白さを感じた麒麟は、そのまま話を続けることにした。
「何か理由でもあるんすか?」
「んー。面白いものじゃないよ?」
「いいっすよ。ちょっとした世間話っすよ」
「そっか……って言っても、すごい理由じゃないんだけどね。ただ、私が昔のことをぼんやりとしか思い出せないってだけ」
「へぇ。なぁんだ。ほんとに面白くないんすね」
「だから言ってるじゃん」
麒麟は知らない。
七海がぼんやりとしか昔を思い出せない理由が、二人の男子たちを戦争にまで追いやっているということを。そして、その戦争に自分も参加するということを。
七海は昔を語らない。
語るべき過去を、忘却の彼方へと追いやられたがゆえに。
望月七海は諦めない。
諦めた先に、最愛の二人が笑顔で待っていないことを知るがゆえに。
面白さを求めた麒麟は、大して面白くもなかったことで、七海の前からいなくなっていた。
一人になった七海は、ふと窓から外を見ると、空が青かった。そして、ぼんやりとした記憶の中から、青い空と、楽しげに遊ぶ三人の子どもたちを思い出して、微笑んだ。
「それでもね。私は昔のように、三人で過ごしたいんだよ」
誰に言うでもなく、七海はつぶやいた。
記憶は朧気であろうとも、七海を構成する心は晴れていた。
関係は変わってしまおうとも、七海の願う未来には常に二人の背中が描かれていた。
七海の願いは唯一つ。記憶はなくなってしまおうとも、関係が変わってしまおうとも、未来永劫付かず離れずの宙ぶらりんの間柄で、楽しく三人で笑い合えることだ。
深くなくていい。強くなくていい。ただ一緒にいたい。そう願うことが罪でないのなら、七海は胸を張ってそう願うのだ。
――どうかこのまま、いつまでも幸せな時間が続きますように、と。
読了ありがとうございます。
続きは本編で。
シリーズから本編を御覧ください。




