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棺に花  作者: きくらげ
7/7

おまけ:未来の君

前作のおまけ

 「#指定された作品のその後や裏設定を呟く」というツイッターのハッシュタグについて呟いたところ、当時の文学仲間に「義手の神様を解説してくれ」といわれ、そのころ断筆していた私はテンションが上がり校正も何もせずテンションで書きあげ速攻で提出しました。

 義手の神様の君(僕)が文芸部に入って一年たったころの話です。私が二回生の春(三月)に原稿を提出できなかったというリアル事情とかけて時間設定を決めました。あなや。

 やあ、新入生。楽しんでる? はは、僕は二回生だよ。そりゃ、入ってきたばっかで顔なんて覚えてないだろうけど。歓迎会なんてものはそのためにあるんだ。僕ら上回生とも仲良くしてほしいな。僕らの部活へようこそ。

 君はなんでこの部活に……へえ、口下手なんだ。それを直したくて。でも君は話すより聞く方が得意そうだ。なんでって……なんとなく?

 うん、なに、僕の話? 聞いても仕方ないと思うけど……わかったよ。なんでこの部活に、か。


 僕はね、読者をやめたかったんだ。

 高校を卒業してから大学に入学するまで、僕には何もやることがなかった。今までずっと、誰が敷いたのかよくわからないレールを、よく知りもしないマニュアルに沿って歩いてきた。そんな時ふと訪れた空白の時間だった。自分の意志で歩いてこなかった僕には、苦痛な時間だった。だからずっと、本を読んでいたんだ。家にいるのも息苦しいし、どこか逃げられる世界がほしかった。

 ずっともやがかかったような世界に生きてきてさ、ふと、自分が読者でしかないことに気づいたんだ。誰かに話しかける言葉も、何かを見て思うことも、全部誰かの受け売り。僕自身の言葉なんて一つもなかった。そりゃそうだ。僕は、自分の意志で生きてこなかったんだから。

 そう思うと、喋ることがすごく怖くなったよ。今の君と、少し似てるかもしれない。いや、今の君のほうが健全かもね。君は変えようと行動した。僕は、変えるという発想すらなかったんだ。イトが切られた人形みたいだって思ってた。自分の生きてきた道が、すごく曖昧に思えたんだよ。けど、そこで縋るものも、本しかなかった。僕は読み続けた。

 どんな本か……本当にいろいろな本を読んだね。ティーンエイジャーの苦悩だったり、突拍子もないファンタジーだったり。インタビュー記事や戦争の歴史書もあったし、そうそう、ここの教授が書いたヘンテコな色図鑑も読んだね。とにかく、片っ端からかき集めてたよ。何を読もうとか、そういう考えすらなかったんだ。とにかく、逃げられればどこでもよかった。


 何が現実だか分からなくなった時もあったな。今生きているここが現実なのか、夢を見ているのか、それともまた読者として世界を見ているだけなのか、自分の立っている場所があやふやになってきたんだ。そんな目で見ないでよ、今は大丈夫だからさ。本当に君は聞き上手だ。もう少しだけ、酔っ払いの戯言として、付き合ってくれる? ありがとう。

 きっかけは何だったかな。桜が咲いていた気がする。なぜだかわからないけど、その木からする音がすごく不快でね。……確かに、それはあるかもね。花はただあるだけだから、妬ましかったのかもしれない。とにかく、唐突に思い始めたんだ。愛って何だろう、って。

 どこが現実なのかわからない中で、それでも僕が初めて思った、「僕の疑問」だった。縋りついたよ、必死に。自分がどこに立っているかもわからなくて、なんだろう、自分が自分じゃないような気持ちだった。僕には、僕を見ている僕がいた……話を聞いているだけの、傍観者な僕が、読者の僕を見ていた。うん? 傍観者な僕を読者の僕が見ていたのかな。まあ、そこは些細なことだ。今はどちらも僕なんだから。

 そのあとまあいろいろあって……詳しく聞かないんだね。言いたくないこともある、か。君、カウンセラーとか向いてるんじゃない? そうだね、詳しくは言わないんだけど、僕は泣いちゃったんだ。それが恥ずかしくてさ、つい隠しちゃった。でも、今の僕にうまく説明できる気もしないから、また今度聞いてよ。

 とにかく、目が覚めたら、読者としての僕はいなくなっていたんだ。僕は、読者としての僕を殺したくなかった。でも、今の自分も大切だった。だから、書くことにしたんだ。

 読者の僕を、作者の僕が書いてやろう、ってね。


 だから僕は、作者になることにしたんだ。人の言葉じゃなくて、自分の言葉で人と向き合えるように。ちゃんと、この世界で生きているんだって、実感できるように。今思えば、僕が見ていた僕は、作者の僕だったのかもしれない。

 僕はね、手がすごく大事だと思ってるんだ。目に見える手だけじゃないよ。ほら、手助けとか言うじゃない。そうそう、手放しで喜ぶ、とかさ。

 手って、哺乳類の特権だと思うんだよね。誰かと関わり合おうと思うと、どうしても手が必要になるんだ。手をつないだり、抱きしめたり、何かを引き寄せたり。触れるって、とっても大事なことだと思うんだ。それが、僕の見付けた愛だった。僕の書くものは全部、表のテーマと裏のテーマがあってね。裏のテーマは全部共通してるんだよ。よかったら読んでみて。自信をもって薦められるわけじゃないけれど、君なら丁寧に読んでくれそうな気がする。


 おや、もうそろそろお開きの時間だね。ほら、部長が呼んでる。いこうか。……おいおい、大丈夫かい?お酒の匂いに充てられちゃったかな。ほら、手を貸して。うん? そうだよ。僕だけじゃない。みんなこうやって、あいを伝えられるんだ。怖がって触れようとしないだけで、みんな、誰かに伝えてるんだよ。大げさに語ってきたけど、要はこれだけの話なんだ。この手のひらにあるものは、確かに愛だってだけの話。

 もちろん僕も、君に。



 本当は裏のテーマが何なのか、まで書いていたのですが、書かなくてもわかるだろうという考えと、解説してほしいという本人にのみ伝わればいいやという意思決定のもと、その部分は改稿しています。


思えば、全てのオムニバスで「手」というものを、「触れる」という行為を大事に扱ってきていました。これらは最後の作品に合わせて意図的に行ったわけではなく、徒然なるままに書いた結果、いつの間にかそうなっていたというものでした。今回、ここに掲載する際の誤字脱字確認のための読み返しで、初めて自覚しました。それで義手の神様に辿り着けたと言う事は、一種の必然なのかもしれません。


 というわけで、過去6部作と、おまけの話でした。






本気でわかんなくて気持ち悪いという方向け解説


 見ている僕=書いてる人、見られている僕=読んでいる人と認識するとわかりやすいかもしれないです。実際にきちんと明確にそうしたわけではないですが。分かりやすくするための比喩表現であり、実際にはそうした区切りはありません。二人称視点とは何ぞや、と考えた結果があの文体です。

 義手の神様は、作品が、作者の手から離れて、読者の中に浸透していく様子を書いてるのだと思ってもらえるとわかりやすい気がします。なので、見ている側の僕から、少しずつ、見られている側の僕は離れていきます。最初は心の中まで見通しているようだった文体が徐々に、何々と思っていることでしょうとか、何々と思っているのでしょうか、と、内側にいたのが、外側へと離れていきます。それと同時に、見られている僕は少しずつ、自分の言葉で話すようになります。

 義手の神様で、私は人生における執筆活動をやめるつもりでした。もはや生命維持活動にもなっていて結局はやめられていないのですが、それでも、やめるつもりでした。だからこそ、作者としての僕との、決別のつもりで、あれを書いていました。何か一つでも考えてもらえればいいなと、そんな気持ちでした。

 まあ結局、あの話で言いたいことと言えば、これの一番最後の通りでしかないので、そのほかのすべては、そこにつながるまでの伏線でありブラフなのです。それまでの五作品が色々な伏線や考察のための要素を詰め込んだ考えさせるものであるとすれば、義手の神様だけは、最後の最後以外はすべて、ある意味、ブラフでしかないのです。



――以下、昔書いたものの引用――

これがある意味義手の神様の言いたいことを代弁してくれてる気がする。


 いつも思ってることだけど、小説は完結=完成ではないんだよね。小説はあくまで、読み手の心を揺さぶるツールであって、それ単品では所詮虫を殺すのにいいサイズの道具としての価値しかないんだよ。もう一度言おう、小説はツール、道具なんだ。

 読み手がそれを手にとって、読んで、何かを感じ取って、その感情がどんなものなのかを理解する、そして、小説の中で語っていたことを自分の中に落とし込んで、初めて完成するんだよ。下手したら読後1年以上完成しない人だっているような、そんな夢のあるツールなんだよ。

 プラモだって完成が終わりじゃないでしょ。完成したものを眺めたり、写真撮ったり、専用のケースに入れ込んだり、手にもって走り回ったりするじゃん。料理だって作ったら終わりじゃなくて、インスタにあげたり、誰かとシェアしたり、締めの雑炊したりして、しっかり堪能して、初めて完成なんだ。

 小説も、漫画も、写真も、料理もプラモもそのほかいろんなものが、作り終わったとしても、完成はしてないし、完璧じゃないんだよ。そして、そうやって何かが欠けているからこそ、それらを素晴らしいと思えるんだ。自分の目によって、自分の手によって、ただの300円の塊が、本になるんだよ。

 ぶっちゃけ読まなきゃ本ってただGつぶすのにちょうどいい大きさと重さの塊ってだけだし、刀で切りにくいタイプの塊だし、使い道ないよね。

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