罪の散花
死刑と死刑囚についてすっごく調べて書きましたが、一切反映できていません。ご容赦くださいまし。
八年前の事件を追って、ですか。確かにその事件の犯人は私です。しかし八年も経っているのに、今更特集を組むのですか? 世間には忘れられていると思っていたのですが。……はあ、死刑囚の特番が。波に乗ろうとするのは頷けますが、最近の流行りとはよく分からないものですね。
それで、私に何を聞きたいのですか? ……ふむ、私の言葉をできるだけそのまま載せると。ならば概要などから語ったほうが良いですかね。……わかりました。
名前ですか。ニュースではNと呼ばれていましたね。実名報道はされませんでしたから。じゃあ……コニウムとお呼びください。可愛くて好きな花なんですよ。で、概要ですよね。私は八年前の事件の犯人として、死刑判決を受けました。今はたしか二六歳なので、当時は一八歳でした。判決が下りたのが……二十歳の時かな。記憶力、結構いいんですよ。
罪状は殺人罪と死体損壊等罪、現住建造物等放火罪です。何度も聞いたのでさすがに覚えましたね。三審まで行き、死刑となりました。まあ納得して死刑になったので、気にはしていません。そうですね、死ぬことよりも恐ろしいことがあるからでしょうか。
次は何を話しましょうか……。では、私の罪についてお話しいたします。
先ほども言いましたが、私の罪状は殺人罪、死体損壊等罪、現住建造物等放火罪です。簡単に言うと、人を殺してグチャグチャにして火をつけました。えと、殺したのは家族です。厳密に言うと、育ての父とか継母とかです。そうですね、はっきりとした血のつながりがあったのは妹だけです。親戚はいないので、現在は天涯孤独というやつですね。いたとしても死刑囚の親戚だなんていやでしょうから、いなくて良かった、と言ったほうが良いのでしょう。
そうですね、どうせ過去も未来も変わらないのですから、もう少し詳しくお話しいたしましょうか。事を起こしたのは一月の上旬です。まず、貯金を全部下ろしました。それで、包丁とか、タオルとか、必要なものを買い揃えました。残ったお金はもう必要ないので、おいしいものを食べました。パフェとか、ハンバーグとか……食べてみたくって。人生で初めて食べました! すごくおいしくて、感動して! ……涙が、でました。本当に、おいしかったんです。
それから、家に帰って買ったものを全て隠しました。私が動く最高のタイミングはどこか、息を殺していました。私の貯金がなくなっていることに気付かれたらアウトでしたので、慎重に、しかし迅速に動くことが大事でした。何故って、お金は親に渡すものでしょう? ……続けますね。
実行に移したのは一月一七日でした。夜……たしか、六時くらいです。学校から帰って少ししてからでした。その日は空気が乾燥していて随分と寒かったのを覚えています。星が全然見えなくて、でも月は美しかったことは覚えています。よく覚えているって、そりゃあ勿論、私にとっては記念すべき日ですから!
事件現場……家は二階建てで、一階がリビングやキッチン、二階が夫婦の寝室と子供部屋になっていました。子供部屋に購入していたものを隠していたのですが、そこから包丁をタオルにくるんで持ち出しました。父が寝室にいることは分かっていたので、そちらにまず向かいました。こちらに背を向けてベッドの上にいたので、真後ろからまず背中に刺しました。声を上げたので急いでベッドの横側に回り、首を掻き切りました。母に逃げられては困りますからね。
首を掻き切るときに父の体が横にずれて、うつ伏せから仰向けに替わってベッドから転げ落ちました。その時点でたぶん死んでいたと思います。念のため、だったのでしょうか、胸元めがけて再度包丁を下ろしました。でも骨にあたってしまったのか、中途半端なところで止まってしまって。何度も何度も振り下ろしました。そのうち分かってきたのですが、包丁を横向きに刺すと骨に当たりにくいみたいでした。ふと気が付くと目の前に肉だるまが出来上がっていました。
それから、包丁についた汚れをタオルでふき取って、一階のキッチンに向かいました。キッチンでは母が夜ご飯を作っていました。味噌汁を火にかけていて、良い匂いが漂っていましたね。包丁で蓮根を切っていて、トントンと小気味良い音が聞こえていました。
私に気付いていなかったので、声をかけてこちらに気付かせました。何故わざわざ声をかけたのでしょう。せめて最後に見てもらいたかったのかもしれません。母はこちらの姿を見て、悲鳴を上げてキッチンに縋りつきました。私は血まみれでしたから、当たり前といえば当たり前ですね。
振り下ろしたときちょうど母が躓いて、包丁は足に刺さりました。悲鳴も煩かったのでさっさと殺そうとも思ったのですが、その前に良いものを見つけたんです。天ぷら鍋でした。揚げ物でもしようとしていたのでしょうね。火にかけられた鍋をひっくり返すと、ひどい音がしました。床中に火が飛び散って、キャンプファイアーみたいで綺麗でした。
母はもはや茫然自失といった様子でしたが、火が着くとびっくりしたのか、再度悲鳴を上げました。上手く動けずにいるを見てから玄関口に向かい、置いてあったストーブ用の灯油入れをひっくり返しました。靴箱の上にタバコとマッチが置いてあるのは知っていたので、マッチを手に取って火をつけました。そのまま家をでて、近くの公園に向かいました。
公園の水でとりあえず血を落とそうと思ったのですが、さすがに落ちきりませんでしたね。青い波模様の可愛い、お気に入りのハンカチだったのに、手足を拭いたら血でベトベトになっちゃいました。制服も赤白の斑模様になっていました。仕方がないのでとりあえず残っていたお金でペットボトルのジュースを飲みました。……とてもおいしかった。それから荷物を適当に捨てて、しばらくベンチでボーっとしていました。家の方向の空が赤く光って、やっぱり星は見えませんでした。でも、すごく、晴れ晴れとした気持ちでした。清々しかった。まるで、初めて上手に呼吸できたような、そんな気持ち。わかりますか? ……ですよね。
そのあとは、公園で寝てしまったんだと思います。緊張の糸が切れたのでしょうね。気付いたら捕まっていました。
裁判では味方など殆どいませんでしたね。弁護人は死刑だけは避けようとしてくれましたが、半ばあきらめていたことでしょう。家族を殺したということ、計画性があったこと、自白したこと、明確な動機が見られなかったこと、父の遺体の損傷が激しかったこと……上告しないでほしかったでしょうね。したんですけど。私としては、裁判がある程度長引けばそれでよかったんです。理由……そうですね、拘置所はきっと暇でしょうから、外界と少しでも繋がっていたかった、とかで如何でしょう。
判決の時は最高の笑顔だった自信があります! 遺体を滅茶苦茶にしたのもあり、残虐性も見られて弁明の余地はないとのことでした。
そうして長い、長い裁判を終え翌年の三月一五日、死刑の判決をいただきました。八年前のことなのにスラスラと思い出せて、自分でもびっくりしています。
もうある程度は話せましたかね。何か質問はありますか? 現在の暮らし……今はこうして拘置所にて過ごしています。暇つぶしとして、ボランティアで書籍の点字翻訳をしています。収入はすべて寄付に回していますよ。必要ありませんからね。あとはほとんど普通の死刑囚と変わりないと思います。あ、そういえばこの前外で作業をしていた時、ペンペン草が咲いていましたね。春を感じました。そんな感じで、結構満喫しています。
他には……妹について、ですか。そうですね、行方不明だと言われていた気がします。ああ、もう死亡扱いになっているんですね。いいえ、詳しいことはなにもお話しできません。何分殺した時の記憶以外は曖昧で……。
真実? 嘘も誠も何もありませんよ。これが全てです。
……一週間後、と伝えてください。
そうですか、姉はその様なことを……ええ、姉の様子が分かればお話しする約束でしたから。私の知る全てをお話しします。しかし、どうやって聞き出したのですか? 記者と偽った……なるほど。姉を騙したんですね。……冗談ですよ、咎めたりしません。
長い話になりますから、お茶でも用意した方がいいかもしれませんね。杖は……ああ、ありがとうございます。お茶菓子に大福でも食べましょうか。あら、用意してくださるんですか。私の分は熱めでお願いしますよ。
さてと……え、録音するから名乗ってほしい? 何ともまあ、あなたが悪趣味なのか探偵という職業が悪趣味なのか……おそらく前者でしょうね。じゃあ、ナズナということで。好きなんです、白くて小さい花。どこにでも咲いてるし。
……父は近所ではとても良い人だと言われていましたが、私たちにとっては悪魔以外の何物でもありませんでした。私は毎日のように父の慰み相手をしていました。いつも、姉と比べて美人だと言われていましたから。姉は、殴られたり蹴られたり、バイトをさせられたり……いつも制服だった気がします。バイト代は父が気まぐれに徴収していました。お酒とか、パチンコに消えていったのでしょう。
母は全てを見ないふりでした。ネグレクト、とでも言うのでしょうか。とにかく、世間から平凡な家にさえ見られていればそれでよかったのでしょうね。それとも、飛び火するのが怖かったのかも。もはや知る術はありません。でも、先に私たちを虐めたのは母なんですよ。ええ、コブ付きを嫌がった母が、私たちを虐めたんです。父の虐待が始まったのはその後。姉は母をまだマシだと思っていたみたいですけど、私は母も父も同じくらい憎んでいます。
……はい、姉が殺人を企てているのには、まったく気付いていませんでした。もはやその頃の私は心が死んでいたのでしょう。何かを考えることすら億劫で、ただただ流れに身を任せることしかしていませんでした。それでも私は姉に……いいえ、なんでもありません。
あの日私は学校から帰ってすぐ、着替える間もなく父に呼ばれました。いつものことだったので、そのまま寝室へ向かいました。父がブラウスに手をかけたその時、姉が入ってきたんです。父越しに見えた姉は、何も考えていないような、何かを決意したような……不思議な表情でした。そして、父の悲鳴が聞こえたのです。見る見るうちに目の前は真っ赤になっていきました。
気が付くと姉が真っ赤な父を刺していたので、そっと声をかけました。姉はびくりと震え、こちらを向きました。しばらく静かに向かい合っていましたが、着替えておいでと言われ、私はそれに従いました。思えばこの時すでに、周りが見辛かった気がします。……いいえ、私のこの目は、姉のせいではなく、父のせいです。そこは譲れません。
どこまで話しましたっけ。ええと……そうそう、父の方が終わったところですね。制服は父の血で赤く染まっていたので、物置でパーカーとジーンズに着替えました。ええ、物置です。子供部屋……一畳ほどの窓もないような場所を、あなたは子供部屋と呼ぶんですか? まったく、姉に騙されすぎですよ。……もしくは、本気で子供部屋って言ったかもしれないですけど。
物置を出て一階に下りると、すでに火の手が上がっていたのでしょう、少し変な臭いがしました。母の悲鳴と、ボンッと何かが爆発する音が聞こえました。姉がやってきて私を外に出すと、灯油を玄関にまき散らして、火をつけました。
手を繋いで家を出た後、姉は財布を手渡して、電車に乗るように言いました。使い込んだ、なんて言っていましたけど……ふふ、まさかパフェにハンバーグとは! ……あのころの姉には、ご馳走ですね。あのころの私たちの主食は少量の堅くなった冷やご飯とか、野菜の切れ端でしたし。
それで、私は言われた通り駅に行き、一番遠くに行く切符を買って何回かの乗継を行い、この町まで来たのです。その時にはもう、限界でした。私はストレスから、喋ることができなくなっていました。目は今でもこんな状態ですからね。杖無しでは生活できません。それでも、姉には感謝ばかりです。
あとは親切な方に拾われてあなたのもとへたどり着いて、あなたの知る限りです。なんでしたっけ、精神かい離の正体不明児? とにかく、別人になって生きてきました。
私は姉のことをしばらく思い出すことができませんでした。しばらくはあなたとの意思疎通もままなりませんでしたからね。思い出した時には、もう姉は死刑囚になっていました。姉がテレビで映った時、これでいいと言ったと聞いて、私はもう何もできませんでした。……姉は、私からのコンタクトがあるかどうかを見定めていたのかもしれません。私はコンタクトを取らなかったし、姉もそれでいいと思った。それなら、この結果はあるべくして当然のものです。同情など入る余地もない、私たちの選択です。
以上が、私の話せる全てです。もしかしたら姉は、私を助けようとして事を起こしたのかもしれません。もしくは純粋に、自分の境遇に限界を感じていたのかも……すべて、憶測でしか語れませんが。
執行は……一週間後ですか。どうしても最後に、姉のことが知りたかったんです。わがままを聞いていただき、ありがとうございました。
先に伝えておきますが、おそらく私、姉が死んだら後を追うと思います。もしそうなったら、海に散骨して貰ってもいいですか? 私も姉も、海に行ってみたいと話していたので。お金はタンスの裏に張り付けてある方の通帳を使ってください。はい、姉のお金の残りが入ってます。それで、お願いします。
それでは、少し早いですが、ここまで育てていただきありがとうございました。これからもお元気で。
全ての作品のテーマは、「○○とは?」という形になっています。私の思う〇〇について、プロットに沿うように、しかし徒然なるままに、書いています。
そして必ず、モチーフというか、代表的なものを持たせています。某鼠の国の髪長さんにおける太陽のような。




