08話 少年、教会でお手伝いする
(´・ω・`)「更新されてません」という危機感に煽られて『101人』再開です!
……と言えたらよかったのですが、まだこれしか書き上がってないです。
もっとスラスラ書けるようになりたい……orz
アリサと出会って教会に行くようになってから勇樹の日課が増えた。
朝起きると教会へ向かい、孤児院の子供たちに囲まれながら朝食を食べ、食後はお礼に教会のお手伝いをする事になったのである。
そして、そんな黙々と薪を割る勇樹を、少し離れた物陰から覗く者たちがいた……
「なぁ、アイツ何してる?」
「薪、割ってるみたい」
建物の陰から孤児院の子供たちが、様々な種類の耳や尻尾を覗かせていた。
年長の獅子獣人のリーオと兎獣人のミミは、裏庭の片隅で鉈を振り降ろして薪を割る勇樹の姿を警戒しながら声を潜ませながら顔を突き合わせていた。
「あの人も仕事で来た冒険者なのかな?」
「でもアイツ、この前、姉ちゃんが拾って来た奴だぞ?」
「それに今までの人より弱そう……」
頭のウサギ耳を揺らしながら、ミミは小さく首を傾げる。
勇樹の体格は学校のクラスメイトの中でもド真ん中、冒険者の中だと小柄の部類に入り、どう見てもなったばかりの見習い冒険者にしか見えない。
リーオが小さな黒い三角の鼻をひくつかせ、丸い耳をピクピクと動かしながら不機嫌そうに腕を組んだ。
「というか、アイツ普人だろ? 獣人のオレ達なら簡単に倒せそうだぜ?」
「もう! リーオったら、そう言ってこの前も依頼を受けてきた冒険者にケンカ売ってたじゃない! あの時は姉さんがどれだけ大変だったと思ってるの!」
「あ、あの時は向こうが……」
ミミの指摘にリーオは思わず口篭る。
リーオの言った『普人』と『獣人』とは、この世界に生きる人種の名称である。
『普人』は所謂ノーマルの人間、身体能力と保有魔力が共に平均的、突出した能力がない代わりに全人類の7割を占める種族である。
一方、『獣人』は身体に動物の特徴を持った人種で、保有魔力は少ないがずば抜けた身体能力を持っている。
ミミが反省の色が見えないリーオへ説教を始めようとしたところで、勝手口からアリサが出てきて勇樹に何か話し掛けた。
――その瞬間、親の仇のように勇樹を睨み付けていた犬耳少年のジャックが、木の棒を握り締めて物陰から飛び出した。
「うぉぉぉ! しねぇ!!」
「むむ、殺気!」
「え、ジャック!?」
アリサは急に棒を振り上げてきたジャックに驚き、勇樹は鋭い殺気に咄嗟に身構え、激情に血が上ったジャックは勇樹の頭目掛けて棒を振り下ろした。
小さな風切り音の直後、ジャックの振り降ろしは空を切り、少し遅れて背後で木の棒が落ちてきた。
――カランカラン!と甲高い音を立てて、木の棒が転がる。
それをいたアリサが慌ててジャックの手元を見ると、綺麗に切断され半分以下となった木の棒があり、勇樹は何時の間に取り出したのかナイフを構えていた。
「……え?」
「ふう、全くもう。幾らなんでも、そんな棒で人を叩いたら危ないじゃないか。僕だったから良いようなものの、他の冒険者だったら滅多打ちにされてても文句は言えないよ?」
一瞬の出来事にアリサは何が起こったのか理解できず目を丸くして、ジャックと落ちた棒切れを見比べた。
――なのでアリサは目を閉じた。
子供たちを相手にしていると日々予想外の連続である。
そこでアリサは混乱する頭をリセットする為に、目を閉じて一度だけ深く大きく深呼吸した。
そして、目を開き呆然としているジャックの方を向いて、思いっきり拳骨を落とした。
「ジャック! いきなり人に殴り掛かるなんて、何考えてるの!」
「っ!」
まずは『危害を加えようとしていたジャックを叱る』、棒で殴り掛かろうとしていた上に、相手が勇樹とはいえ冒険者にそんな事をすれば殺されてしまう可能性がある。
アリサは常識的な判断として、危ない事をしようとしていた身内を心配して叱りつけた。
一方、ジャックは拳骨を落とされてショックを受けていたところへ、卑劣な冒険者(本人目線)から守ろうとしていた人から怒られて……一気に感情が爆発する。
「うっ……うぅ、うわぁぁぁ!!」
「あ、ジャック!」
アリサの引き止める声にも耳を傾けずに、犬耳少年のジャックは教会の方へ走って行ってしまった。
それに入れ替わるように、建物の物陰から年少の子供たちが飛び出してきた。
子供達は勇樹に纏わり付いて質問を浴びせかける。
「今のスゲェな兄ちゃん! スパーっていつ斬ったかも見えなかったぜ!」
「前に来た人は『教会の依頼は報酬が少ないから点数稼ぎにしかならない。もう二度とやらねぇ』って文句言ってたけど、お兄さんはアリサお姉ちゃんを狙ってるのかしら?」
「なーなー、姉ちゃんとどんな関係なの? 好きなのか?」
「え、ちょ、いきなり何?」
勇樹が子供達に囲まれ矢継ぎ早に質問されて混乱していると、建物の陰からジャックが殴り掛かるのを止められなかったリーオとミミがバツの悪そうな顔をしながら現れた。
2人は慌てて駆け寄ると、勇樹に纏わりつく子供たちを引き剥がす。
「ちょっとアンタ達! 冒険者には近づくなってアリサ姉さんに言われてるでしょ!?」
「えー、でもこの兄ちゃん弱っちそうだよ?」
「ぜんぜん、怖そうにみえない」
「危なくなっても、前みたいにアリサお姉ちゃんが怒れば大人しくなるから大丈夫だって!」
「グフッ……え、何でいきなり僕、この子たちにバカにされてるの?」
子供達の勇樹を舐めきった態度にはワケがあった。
冒険者協会には恒常的に『教会への奉仕活動依頼』が張り出されている。
敷地の草むしりや薪割り、御堂内の掃除などが主な内容で報酬も安いので、人気がなく初心者向けの依頼とされている。
なので教会にやってくる冒険者といえば、血気盛んな初心者か何らかの問題を抱えた落伍者だった。
保護者のアリサとしてはそうした冒険者達を子供達から遠ざけていたのだが、好奇心旺盛な子供たちはアリサの言いつけを破ってコッソリと覗いていたである。
そうして見て来た者達と比べると、勇樹は良くも悪くも迫力に欠けているので、子供たちの獣人由来の高い警戒心を悠々と潜り抜けていた。
その結果、勇樹は子供達から“警戒に値しない人物”という、本人としてはあまり喜べない人物評価となっていた。
勇樹は弄り回してくる子供たちを退かしながら鉈を革の鞘に納めると、割った薪を縄で一纏めに括り、勝手口の脇に積み上げるとアリサの方を振り向く。
「これで頼まれてた薪割りは終わりましたけど、他に手伝う所ってあります? こう見えても器用さには自信があるんで、家屋とか道具の修理から草むしりまで何でもやりますよ! ……ただし、この子たちの相手は勘弁な!」
現時点で子供達に集られている勇樹を見て、アリサはクスリと笑いながら小首を傾げた。
「うーん、ウチも古いからあっちこっちガタは来てるけど……大丈夫? そういうのって大事な稼ぎの元なんじゃないの?」
「今のところは師匠から持たされた(金塊を売った)資金が残ってるし、まだまだ未熟だから出し惜しみしても、腕が鈍るだけだからね! あ、でもノルマは惜しいんで、後で依頼書を持ってくるから達成のサインだけください」
「それは勿論いいけど……いいのかなぁ」
元々趣味人だった勇樹に加えて、それを教えたノーム達も自分の興味がある事しかやらない人種だったので、職人の事情を知らないアリサが止めなければ誰も止める者はいなかった。
結局、窮すれば鈍するというワケではないが、やんちゃ盛りの子供達を抱えて色々と困っているアリサは勇樹の甘言を跳ね除ける事ができず、恥ずかしそうに渋々と食堂の椅子を指さした。
「じ、実は子供達にも毎日使う物だから大事にしろとは言ってるんだけど、元がお弟子さんの習作を譲って貰った物だから、椅子とかテーブルが結構ガタガタなのよ。今もあまりに酷い奴は木端を足に挟んで揺れないようにしてるし……」
「あ~、これは凄い……寧ろ、こんなオンボロになるまでよく持たせてるね。背凭れが折れてる奴とか指二本が入りそうなくらい磨り減ってる足もあるし」
「い、一応ね? ここ出身で木工職人に弟子入りできた普人の子が、たまに来てくれて『練習だから』って廃材とか使って修理はしてくれたりしてるんだけど……」
「大した道具もなさそうだし、精々折れた箇所を膠で接着して固定するだけか……これ以上は道具を持ち出さないとできないし、そうなると弟子の立場でも善意でってワケにはいかなくなるもんね」
勇樹は「世知辛いのはファンタジーも一緒かぁ」と呟きながら、バキバキと容赦なくテーブルや椅子を解体していく。
続いて目算で長さを測りながら、工具を取り出して廃材を加工する。
教会には釘がなかったので、スキル『星の知識』から釘を使わずに組み立てられる『組木』の知識を呼び出し、椅子とテーブルを組み上げる。
勇樹の作業を眺めながら、アリサは感心したような声を上げた。
「へぇ、釘も使わずに組み立てるなんて、器用な事するのね」
「こうしておくと釘で打ち付けるよりも頑丈になるんだよ。特にここは小さい子が使うからね。できるだけ壊れにくく長く使えるようしないと」
とはいうものの、流石に廃材にされる木材程度では強度不足だったので、こっそりミスリル線とBB弾サイズの魔石を使って『強度上昇』と『自動補修』の魔法を付与して強度を上げておく。
「フッフッフッ、これで香港映画張りに雑に扱われても壊れない! さらにテーブルには焦げ付きすら作らせない耐火性付き! これで十年は新品同様で使えるよ!」
「いやいやいや! 明らかにこれはやりすぎだって! 教会で使ってる備品ですら上の教会からのお下がりなのに、こんな綺麗な家具なんて……」
「ウチでは使えない」、そうアリサが断ろうとした瞬間、脇で勇樹のやっていることを興味深そうに見ていた子供達が歓声を上げた。
「おー、スゲー! これ俺達が使っていいのか!?」
「すごい、座ってもカタカタならない椅子なんて私初めて!」
「テーブル、きれー!」
「穴一つ空いてないわ!」
「コレ、ホントにボクたちでつかっていいの!?」
「いいよいいよー、その為に直したからねー」
最早、修理というレベルではなかったが新しい椅子とテーブルを喜んでいる子供達を見てしまっては、アリサも口を噤むしかなかった。
結局、何とかしてお金を工面すると身売りすらしそうな勢いのアリサに対し、今更ながら勇者たちの知識を使ったのは不味かったと毛ほどに思った勇樹は、強引に話を切り上げると冒険者協会へ出かけてしまう。
そして、十分ほどで教会からの依頼書数枚を携えて戻ると、アリサに依頼達成のサインをさせて「(色々な意味で)売り物にならない物だから、これでチャラだ」と無理矢理アリサを納得させた。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




