26.1話 少年、ブームを作る
改造されてから2日が経ち、ノーム達の講義が再開された……のだが、勇樹は自分の身体に戸惑っていた。
最初に違和感を持ったのはジェイドから槌を受け取った時、柄を握った瞬間に頭の中で金属をどう叩けばいいのかが勝手に思い浮かび、体がその通りに動いてしまった。
自分の意思で動かしているのに自分の全く知らない動きが出来るという感覚に、勇樹は気持ち悪さを覚える。
次に変だと感じたのは座学の時、魔法原理学専門のメラルドが魔法の発動の段階について講義をしていた際、メラルドがポロッと漏らした専門用語に対して疑問が過ぎった瞬間、【能力表示】のような画面が目の前に現れて、疑問に思った単語の解説が表記されていた。
明らかにおかしい変化に勇樹はジェイドに尋ねると、答えがあっさり帰ってきた。
「それなら、まず間違いなく技能系スキルと《星の知識(ノーム)》スキルが原因だな」
「え、スキルってこんな事も出来ちゃうんですか?」
「うむ、本来ならスキルに沿った動きを補助するだけの筈が、お前の場合は元が無かったせいでスキルに引っ張られる形になったのだろう。ちなみに《星の知識》スキルについては元からそんな物だ」
「スキルってこわーい」
口ではそう言ってみた物の、勇樹は内心でかなり興奮していた。
何せこれで基礎となる勉強をしなくても色々と出来るようになり、自分がやりたいと思っていた事が実現できるからである。
そんな勇樹の様子を察したジェイドは呆れたように溜息を吐いた。
「言って置くがスキル本来の役割は補助だからな。スキルに引っ張られている程度で得意になられても困るぞ」
「ですよねー」
だが、形だけとはいえ足りなかった知識と技術を手に入れた勇樹は、新しくゲームを買ってもらった子供の様にはしゃいで文字通り寝食を忘れて部屋に引き篭もったのであった。
精霊族であるノームは長寿であるが故に、時間の物差しが数十年単位で気が長い。
しかも食欲も睡眠欲も性欲も無い為、時間が過ぎるという感覚について取り分け鈍いのである。
故に、例えば普人が一人紛れ込んでいて、うっかり部屋に引きこもって何日も外へ出て来なくとも、ノーム達は殆ど気が付かない。
それを発見したのは霊薬調合専門のコラルであった。
偶々勇樹の部屋の前を通りかかった時に次に行う講義の事を思い出して、一声掛けておこうとドアを開けると、武器や魔法道具や薬に埋もれて部屋の中で倒れている勇樹が発見した。
それを見たコラルは慌てず騒がず冷静に持っていたエリクサーの瓶を開けて、慣れた手つきで勇樹の口に瓶を突っ込んだ。
「んぐっ!?」
半分意識は朦朧としていたが、勇樹は口に入って来た物に対して反射的に飲み始める。
コラルは瓶を逆さにしながら中身が減って行くのを目視すると、満足したように部屋を出て行った。
エリクサーを飲み干して数分後、勇樹はムクリと起き上がった。
数秒ほど寝惚けた目付きで辺りを見回して、呻くような声を上げた。
「あ~、寝ちゃってたのか僕……」
正確には気絶していたのだが、それを訂正する人間は誰もいない。
軽く伸びをして身体を解してから、気絶した際にぶちまけた物を片付けていると、勇樹の師であるジェイドが部屋を訪ねてきた。
「……何をしている?」
「いやぁ、ちょっと魔道具作りに懲り過ぎちゃいまして、流石に足の踏み場に困って来たので片付けですよ片付け」
「……コレは?」
ジェイドは床に転がっていた勇樹製魔道具の一つを拾い上げる。
それは手の平に収まるほどの長方形で、真ん中には窓のような物が付いており、その左隣には十字のボタン、右隣りには二つ並んだ丸ボタンが付いている。
それは過去に勇者の持っていた“ゲーム機”に趣が似ていたが、大きさも厚さも全くの別物なので、ジェイドは首を傾げた。
問い掛けられた勇樹は首だけジェイドの方を向くと、手に持っているソレを見てあっさりと答える。
「ああ、それは電子ゲーム内蔵卓上計算機です。魔道具の作り方を聞いて、『何か作れそうだな~』と思って作って見ました」
勇樹の説明にジェイドは一先ず納得した。
元々、異世界の人間とは何度も交流を得ているノームの知識の中には、アナログな算盤から名刺サイズのカード型デジタル計算機までの知識も含まれている。
見た事のない形の電卓に、ジェイドは色々と見回しながら勇樹に質問を投げた。
「なるほどこれは計算機なのか。で、一体どうやって計算を行うんだ? 見たところ数字を打ち込めるキーが無いが……」
「いえ? それに計算機能はありませんけど?」
「「?」」
互いが互いの言葉に不思議そうに首を傾げる。
「コレは計算機なんだよな?」
「いえいえ、これは電子ゲーム内蔵卓上計算機ですよ」
「うむ、ならばこれでどうやって計算を行うのだ?」
「だから、それに計算機能はありません。電子ゲーム内蔵卓上計算機なので」
「「?」」
やはり互いが互いの言葉に不思議そうに首を傾げる。
話がループして来たので、勇樹は近くにあった同じ形の魔道具を手に取って起動させた。
安っぽい電子音と共に、画面に黒い文字が浮かび上がる。
勇樹が起動させたのは背景が動くタイプのレーシングゲームだった。
ピッピッピッという音共に背景が動き、前から障害物などが現れて十字キーで画面下部に表示されたバイクを左右に動かして躱して行く。
スタートさせたゲームを覗き込むと、ジェイドは期待外れとばかりに溜息を吐いた。
「何だ、この単純な構造は。この程度の物を作る為に篭っていたのか?」
「まあまあ、ちょっとやってみてくださいよ」
「ふん、この程度の物など簡単に……」
そう言った後、ジェイドは無言になった。
構造こそ単純だが、バイクは横移動しかできないので障害物を避け辛い上に、進むにつれて障害物の数も増えてくる。
バイクがクラッシュする度に低い電子音が鳴るので、それが苛立つのを更に煽る。
ピッピッピッと言う音が静かな勇樹の部屋の中に鳴り響き、何回目かのゲームオーバーでジェイドがふと我に返って態とらしい咳払いをした。
「ゴホン、まあ、単純だが奥深い物だな。ところで、ここにある物は全て同じ物なのか?」
「いえ、ここにある物は試作品なので全部中身は違いますよ。それとこんな物も作って見ました」
そう言って勇樹が持って来たのは一見背の低いテーブルのような物だった。
しかし、テーブルというには真ん中に画面がはめ込まれ、側面には幾つかのボタンが取り付けてある。
それは過去に日本で一大ブームを起こし、一時は百円玉を容赦なく飲み込んで社会現象を起こした悪魔の電子遊戯、画面上部から現れる『侵略者』を凸型の砲台で撃ち落すという卓型ゲーム機だった。
勇樹は部屋の空間を圧迫していたそれらを、操作法などを記した説明書を付けて全部を興味深そうに見ていたジェイドに押し付けた。
既に現状で思い付くゲームは粗方作ってしまって、ノウハウは十分に蓄積されたので、後はノーム達の方で何か作って貰おうという目論見もあった。
結果から言ってしまえば、電子ゲームはノーム達の間で大流行した。
この世界に渡ってきた異世界人は数居れど、電子ゲームを持ち込んだのは勇樹が初めてだったので、その物珍しさと好奇心旺盛な研究者肌のノームの性格にゲームの中毒性がマッチしてしまったのである。
気が付けば勇樹が作った魔動式電子ゲームはあっという間に量産され、ノーム達が至る所で魔動式電子ゲームに大ハマりしていた。
「むむむ、まーた“ゲームオーバー”ダーネ。長ぼーが来れーば全消しできたノーニ!」
「むぅ、一度に落ちて来られては救い切れん」
「クッ、折角足を潜り抜けて宝まで辿り着いたのに、帰りでやられるのでアル……」
魔動式電子ゲームの構造は極めて単純であった。
そもそも、魔道具自体が『○○をすれば○○』のような条件付けをしているようなものだったので、“画面に情報を表示する”“十字キー右を押すと操作キャラが右に移動する”など、一つ一つのプログラムを設定したテンプレートを作り、ガワを用意し、ゲームに必要な操作を追加すれば、完成である。
勿論、そんな一言で済むような作業ではないが、そこはノームに物理的に直接脳に叩き込まれたので、鼻歌混じりに淡々と作業を熟していた。
最初は魔道具を作っている内に出来そうだと感じて作っただけ、ジェイドに渡した時はこれを機に日本にはなかったようなゲームが生まれるかもしれないという目論見もあった。
だが、そんな勇樹の目論見はある意味で大きく当たり、本来の意味では大きく外れた結果となる。
数日後、ゲームを遊ぶより作る方にハマったノーム達が、新しいゲームを作ったという事で第一人者としてどんなゲームを作ったのか気になるという建前の下、ノームの新技術に胸を膨らませワクワクしながら向かった。
――そして、その期待は大きく裏切られた。
「お? ユーキも来たのか! どうでぇい、俺の作ったゲームはよぅ」
「あー、うん……凄いね」
自慢げに問われて、咄嗟に勇樹は言葉に困った。
勇樹の目の前にあったのは、家庭用冷蔵庫並みの大きさに“巨大化した” 電子ゲーム内蔵卓上計算機だった。
流石に、そのまま巨大化すると画面の両脇にボタンがあると操作が難しい所為か、縦長の本体上半分に画面が付いて、下半分に操作キーが取り付けられている。
その見た目は完全に初代ゲームボーヤにそっくりであった。
しかも、その内容は勇樹がジェイドに渡した『落ちてくる卵を篭でキャッチする』ゲームを、卵を落とす鶏を“謎の豪華な鳥”に、卵を受け取る農夫が“篭を持ったノーム”に変わっているだけの物だった。
「えーっと、アレはどういう事なんでしょう?」
「うむ、最初のゲーム機は持ち運びには便利だが小さくて見づらいという意見があってよ。中身も身近な物の方が緊張感が出るからと、あんな感じに変えてみたぞ」
「うーん、コレは……」
勇樹にとっては予想外だったが、ノームは“現状にある物を研究して昇華する”事に関しては得意だが、“全く無い物をノーヒントで生み出す”という点については不得手だった。
結局、レトロゲームで一喜一憂しているノームを見て、思わずゲームソフトとハード関係や、様々なジャンルについてつい口が滑ってしまい、それを聞いたノーム達に捕まり、根掘り葉掘り聞かれる事となる。
そして、その後めでたくノームの里に新たな研究セクション“異世界式ゲーム研究部門”が発足されたのであった。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。
次回からは2章を始める予定です。開始日は未定。
2018/07/28 間違っていた箇所を修正。
2018/12/12 ノームの分類を“妖精族”から“精霊族”に修正。




