23話 少年、穴潜る
(´・ω・`)自論ですが探究者というのは往々にして外道です。
寧ろ、常識とか倫理なんて気にしていたら研究なんてやってられません。
ただある程度の節度は必要ですけどね。
前回、見事にブレスを習得して鉱石蜥蜴を狩る事に成功した勇樹であったが、ニゲルが駆け寄った直後に血を吐いて倒れてしまった……
「いやー、偉くお騒がせしました~」
手足や頭に包帯を巻いてベッドに寝かされている勇樹は、頭を掻きながら緩んだ笑顔を浮かべて、気の抜けた台詞を言って頭を下げた。
「何かやらかすとは思っていたが、まさかヌシを狩りに行くとは思わんかったわい」
勇樹を治療したドラグニールが深く溜息を吐いた。
ドラグニールは周辺の地図を頼まれた時、大物狙いだろうと考えて、勇樹が狙いそうなモンスターの生息場所を地図に書き込んでいた。
ヌシである鉱石蜥蜴の居場所については、注意を促すつもりで書いたのだが、まさか敢えてそこへ突っ込んで行くとはドラクニールも思っても見なかった。
「しかも、慣れないブレスを吐いた上に、属性を選り分けた? 死にたいのか、お主は」
「そりゃあ、死にたくないですよ。ただ、あの時は何となく『イケる!』って思ってやってみたらこのザマで……」
「魔法を感覚でやるんじゃないわ! この戯け者!」
暢気に笑う勇樹を見て、上級魔法でもダメージを受けないドラグニールの頭が痛くなって目頭を押さえた。
ちなみに今回、勇樹が倒れた原因はブレスを吐く際に行った魔力の選別だった。
本来、ドラゴンがブレスを吐く場合には吸い込んだ魔力を身体というフィルターを通して、自身の持つ属性を変換してからブレスという魔法を構成する為、使える属性が1つと決まっている。
しかし、勇樹は無属性という極めて珍しい属性だった為、自身の属性ではなく集めた魔力の属性をブレスへと変換できたのであった。
「全く……感覚でやるから、選り分けた魔力が暴発なんて事になるんじゃ」
「むむむ、面目ない……」
外に満ちる魔力には、ほぼ全ての属性の魔力が含まれている。
但しそれは場所の影響を受けやすく、水の近くなら水属性、火の近くなら火属性の魔力に含有量が片寄る。
つまり、水の無い場所では本来、水属性の魔力は割合から言えば一番少なくなるのである。
そんな場所で、高ランクの鉱石蜥蜴を一撃で凍らせるほどのブレスを吐く為に大量の魔力を集めた。
そして、それほどの量を無理矢理押さえ込んで、選り分けた魔力で魔法を発動すれば、体内に抱え込んでいた魔力が爆発しても仕方の無い事だった。
「兎に角、体内に受けたダメージが大きいので暫くは安静にとれ」
「え~、そんな~」
この狩りを最後に修行が終了だと聞かされていた勇樹は、思わぬ延長にあからさまに肩を落とした。
その様子を見たドラグニールは、少し思案するとポンと手を叩いた。
「そうじゃ、休養の間に何もしないというのも退屈じゃろうから、丁度儂も用があって行こうと思っていた所へ、明日にでも連れて行ってやろう」
「ホント!?」
「うむ、本当じゃ」
「やったー!」
勇樹はまるで遊園地に連れて行って貰える子供の様に、飛び跳ねる勢いで喜んだ。
しかし、今までの所業を目の当たりにしていた竜人たちは、上位竜の用事に付き合うという内容に、勇樹の機嫌に反比例してドン引きしていた。
――突然だが四大精霊というのをご存じだろうか?
地球では一六世紀頃、錬金術師パラケルススが四元素説を元に提唱した精霊たちである。
火のサラマンダー、水のウンディーネ、風のシルフ、そして土のノーム。
前の3つはゲームやマンガでもよく登場し、日本でも知られているがノームについては他のモンスターに取って代わられている場合が良くある。
一方、この世界ではノームは精霊族というとても珍しい種族であり、彼らは誰もが研究者という一面を持っている。
特にノームの鍛冶技術はこの世界であって伝説級以上の物ばかりで、まず人間社会には出回らない。
それは彼らの種族全体の数が少ない事と、住処となる洞穴からほぼ出ない事、そしてもう一つが……
ドラグニールに連れられ、勇樹は竜の砦近くの別の山の洞窟の中へ来ていた。
洞窟の中は、大人2人が並んで歩ける程度の幅があり、3m間隔で設置された光る石がボンヤリと洞窟内の通路を照らす。
人型のドラグニールはどんどん奥へ進んでいくと、行き止まりとなっている壁の前で立ち止まった。
「えーっと、赤爺? ここ行き止まりなんだけど」
「まあ、見て居れ」
ドラグニールが目の前の壁に手を翳すと、手の平に小さな魔法陣が浮かび上がり、目の前の壁に光のラインが走ると、人一人が通れるくらいの通路が現れた。
「おお、隠し通路!」
「こうでもせんと、彼奴らは煩いんでな」
秘密基地などに憧れるお年頃の勇樹が大はしゃぎするのを見て、ドラグニールは心なしか気まずそうに苦笑いで答えた。
通路を抜けると、その光景を見た勇樹は驚いて言葉を失った。
そこはまるで映画の中に出てくる研究所のような場所だった。
地下20階以上はありそうな三角形の吹き抜けを覗くと、白衣を着た研究員風の小学生をそのまま大人にしたような小人が忙しなく動いている。
しかも驚いた事に、各部屋の扉はガラス製で中が覗けるようになっていた。
その上、中では顕微鏡や遠心分離機など、良く研究室で見かけるような機材が置いてあるのが見える。
ここだけくり抜いてみれば、地球に帰ってきたかのような錯覚すら覚えた。
勇樹が暫くその光景に見入っていると、小人の一人がドラグニールに気が付いた。
「誰だ?」「おお、赤賢竜か」「鱗を1枚くれ!」「隣は普人か?」「異世界人だぞ」「異世界人はタケシ殿以来か」「血を、髪の毛でいいから調べてみたい」「異世界人のサンプルは多い方が良いぞ」
一人が気付くとワラワラと勇樹たちの周りに集まってきた。
歓迎はしているようだが、小人たちの変な熱気に勇樹もたじろぐ。
「此奴らは土の精霊族のノームと言ってのう。『知識の精霊』と言われるほど頭がいいんじゃが、いかにせ好奇心旺盛で知識に貪欲な癖に自分たちの所業に無関心なもんじゃから、ここに閉じ込めておるんじゃよ」
あんまりな理由に勇樹が顔を顰めると、ドラグニールはその反応を予想していたように、懐からある物を勇樹に手渡した。
手渡された物を見て勇樹は驚いた。
片手に収まるほどの大きさ、黒光りした本体、但し材質は金属ではないのか見た目以上に軽く、触った感じもプラスチックのような感覚であった。
それは異世界ファンタジー物ではあまり見かけない地球の兵器――リボルバー式の拳銃だった。
「ちょ、これをどこで!?」
「それはここで、此奴らが作ったんじゃよ。それも勇者がポロッと漏らした情報を元にな」
「それを作るのには苦労した」「タケシ殿は弾を撃つ武器としか言わなかったしな」「弾を撃ち出す構造までは出来たが火薬が無かった」「……真っ直ぐ飛ばすのにも時間が掛かった」「だが魔法より不便」「いや、量産できれば強い」「魔法弾は上手く行ったと思ったが威力が出なかった」
ノーム達の言葉に、勇樹は絶句した。
勇樹はテレビやネットの画像でしか見た事がないので確証は持てないが、ここのノーム達は千年前の勇者が漏らしたたった一言で、殆ど寸分違わぬ形で作り上げたのだ。
「ノームどもはとにかく研究熱心じゃから、不要な知識を与えぬようにしているんじゃ。ついでに言うと、お主の首輪やマギフォンもノーム達が作った物じゃよ」
「それで、何で僕をここに連れて来たの?」
勇樹の質問に対して、ドラグニールはニヤリと笑うだけで、ノーム達を掻き分けてさらに奥へ進んでいく。
勇樹も慌ててドラグニールの後を付いて行くと、集っていたノーム達は興味を失ったようにワラワラと自分たちの研究に戻っていった。
ドラグニールは目的の部屋の前に着くと、住人の返事を聞く間もなく勝手に戸を開けて中へ入っていく。
勇樹も後を追って入った途端、熱風が吹き付けて体中から汗が吹き出した。
入った部屋は鍛冶工房だった。
部屋に入った途端、炉には轟々と火が燃え滾って高温を吐き出しており、その前で数人のノームたちが汗を滝のように流しながら、カンカンと音を立てて槌を振るっている。
壁には剣が掛けられていて、それを見た勇樹はこの工房は武器を専門に製造している場所なのかと予想した。
「おーい、ジェイドは居らんか」
「あ? おお、赤賢竜ではないか。今日は何か用か?」
部屋の中を見回しながら立って居ると、一人のノームがこちらにやってきた。
「うむ、今日はお主に2つほど頼みたい事があってのう」
「頼みたい事は分かるが……2つ?」
いつもとは違うドラグニールの言葉に、ジェイドは首を傾げた。
ドラグニールは頷くと、懐から一枚のメモと小袋を取り出す。
「一つはコイツの加工の依頼じゃ、比率は任せる」
「うむ、任された、それで2つ目は?」
ドラグニールは徐に、部屋を見回して突っ立っていた勇樹の背中を押した。
「此奴の面倒をここで見てはくれんか? 小間使いでも何でも構わん」
「異世界人をか……」
ジェイドは勇樹の爪先から頭の先まで、じっくりと値踏みする様に睨め回す。
ノームの職人気質の鋭い眼光に、勇樹はノームとの遭遇に興奮する前にたじろいでしまう。
「あ、赤爺? 僕は別に竜の里でも、まだ見ていない所も沢山あるし……」
「ノームの技術力は、この世界の最先端の魔法学と先の勇者のカガクとやらが合わさって、面白い事に成っていると思うんじゃがのう?」
「自分はユーキ・キサラギって言います! バカだけど、一生懸命やらせて頂きます!」
「う、うむ……」
見事に自分の欲望を優先して掌を返した勇樹の変わり様に引きながら、ジェイドは反射的に頷いてしまった。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




