2/98
#2 月下の術師 2
姿だけ人に似せた異形に眼球はないが、眼窩に相当する位置には骸骨のごとくうつろな空洞が開く。
128の異形、256の虚無が凶ひとりへと一様に向けられる。
存在しないはずの視線には、膨大な悪意、害意、殺意がこもる。
その邪悪な意思を受ければ普通の小学生はもちろん、成人男女でも恐怖し錯乱し嗚咽号泣しておかしくない状況。
だが、彼は普通の小学生ではない。
「――」
凶は日本語で表記できない声をあげ、シャツの胸ポケットから右手で1本のチョークを取り出す。
骨のように白く細いチョークを、さらに白く細い指が持つ。
その指が目の前の空間に描くのは、子供でも一筆書きで簡単に描ける図形、五芒星。
一筆書きを完成させると共に呪文を唱える。
「――」
刹那、凶が描いたとおりの五芒星が空間に浮かび上がり、光を放つ。
感情を持たないはずの異形たちが、動揺したかのようにびくりと震える。
なおも光は激しさを増し、月光さえも打ち払わんばかり。
閃光、呪文、振動。そして――。