1/98
#1 月下の術師 1
夜の校庭。
月明かりの下に少年はひとり。
少年の姓は上係、名は凶。蟹爪小学校の4年鉈組。
黒髪にメガネ。
背はクラスの男子の中でもかなり低くて、実年齢よりも幼く見える。
昼間ならごく普通に見られる半袖半ズボンも、日の落ちたこの時刻では寒々しい。
「……」
校庭の中心からはやや外れた、校舎寄りの一角。
朝礼台に背を向けて、凶は校庭を見渡す。
ねぬり。
校庭の土に亀裂が走り、隙間から重油に似たどす黒い粘液状の何かが音を立ててにじみ出る。
にじみ出た粘液はぶるぶると震えながら腕の形をとり、地面に突いた手から引きずられるように全身が姿を現す。
闇のごとき漆黒は、月の光さえも吸収してなお黒い。
不完全に人間を模した姿形は、むしろ人間へ対する冒涜にも見える。
ねぬり。ねぬり。ねぬり。
鼓膜に直接貼り付くような粘液質の音を立て、漆黒の異形は地面から次々と姿を現す。
数分のうちに異形の群れは凶と朝礼台を半円状に取り囲み、その数ざっと128体。




