幽霊の同居人
夜に用事があるので早めに
俺の意思とは関係なく始まった同居生活。
幽霊と同居生活など聞いたこともなければ、自分がまさか幽霊と同居するとも思わなかった。
『となめ君、そろそろ荷物を整理しないと終わるころには夜になりますよ?』
幽子との同居問題で完全に荷物の片付けを忘れてしまっていた。
今の時間はちょうど昼の14時、荷物は一人分だから多くはないがそれでも夜までかかってしまうかもしれない。
「とりあえず、同居とかの話はまた後でだ! 先に荷物を片付けないと段ボールに囲まれて寝ることになるしな」
一番の問題を後回しにして荷物を片付けはじめる。
持ってきたものは多くはないが組み立てる必要があるものが多数ある。
さすがに一人じゃ組み立てるのが辛いのがあるがそれは仕方ない。一人暮らしを始めるのだ組み立てるごときに弱音を吐いている場合じゃない。
『あっこのくらい私もてつだいますよ!』
幽子がソファーを片手に持ち近づいてくる。しかしそれは実家で使わなくなった四人掛けのソファーで一人暮らしの部屋には大きすぎて持ってくるかを最後まで迷った物だ。
もちろん幽霊といえど少女が一人でそれも片手で持ち上げれるものではない。
「なっ・・・重くないのか?」
『全然重くないですよ? むしろ重さなんてないです』
そう言って四人用ソファーを片手でまるでお手玉で遊ぶように放ってはキャッチを繰り返す幽子。
驚きを通り過ぎ逆に冷静になった俺は幽霊は何でもありと自分に暗示をかけるように何度も心の中で呟き、まだソファーで遊んでいる幽子にソファーをおく場所を指示して自分も荷物の整理を再開する。
”””
もう日が落ちようとしている時間、ようやく引っ越し作業が終わった、俺と幽子はソファーに座り疲れた体を休めていた。
ちなみに幽子が大活躍だったのは言うまでもない。
「本当に助かったよ。 ありがとう」
『同居人ですから! それに久しぶりに体動かせましたし・・・体ないんですけどね!』
なんとも突っ込みにくい冗談を言う幽子に少し呆れながらも、後回しにしていた問題、幽子との同居について話し始める。
「同居人になるってやつだけどさ、幽子はこの家に憑いてる地縛霊なんだよな」
『そうです。 いつからかは覚えていませんがこの家に憑く地縛霊です』
幽子はその場に浮かび上がりゆっくりと窓に近づいていく。そして窓に手を触れた瞬間、バチンと勢いよく幽子の手が弾かれ浮かび上がっていた体が床に落ちて動かなくなる。
無意識に動いた体は幽子のそばまで慌てたように近づき、倒れている幽子の体を抱き起そうと手を伸ばす。しかし伸ばした手は幽子の体を通り抜け冷たい床に触れる。
『大丈夫ですよ・・・。 この家から出れないのわかりました?』
「っ・・・わかったけど、ここまでしなくても」
『言葉で説明するより見てもらった方が理解してもらえますから。 それに痛みはないんですよ』
「それでも何かするなら先に説明したくれ。 痛みはないって言ってもあまり見たいものじゃない」
『ごめんなさい・・・』
気まずい空気になり二人はその場で目も合わせず黙り込んでしまう。
数分何の会話もなく時間が過ぎたころ、俺は閉じていた口を開く。
「地縛霊なのもこの家から出れないのも理解した。 それをふまえ言うと俺は幽子とこの家に一緒に住むことは嫌じゃない」
そう言うと幽子はガバっと起き上がり、信じられないようなものを見る目で俺を見つめる・
『本当ですか・・・? 同居人さんとか勝手に言いましたけど無理してませんか?』
「最初は同居人なんてと思ってたけど、幽子みたいな人・・・幽霊なら同居人でもいいよ」
『そう言ってすぐにこの家から引っ越したり、帰ってこなくなったり、あとあと・・・』
「引っ越しもしないし、幽子のいるこの家に毎日帰ってくるよ」
『なにそれ、プロポーズみたい・・・クスクス』
クスクスと笑う幽子につられて俺も笑ってしまう。
そしてどちらからともなく手を出し握手する。
『これからよろしくおねがいします。 生きてる同居人さん』
「こちらこそよろしく。 幽霊の同居人さん」
二人は笑顔でお互いの手を握る。
先ほど通り過ぎた手は幽子の手にしっかり触れ、温かい少女の小さな手の感触がした。
終わりませんよ・・・?