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本編無事、完結しました。以前書いたように、これから時間がある時や思いついた時にちょこちょこ手を加えて修正していこうと思っております。もし、番外編が思いついた時も不定期に更新して行こうと思います。設定はこのまま完結済みのまま、次話更新します。
何度目か絶望を味わい、優しく真摯な尚樹からの告白を受けた日の翌々日。私は渉の家のベッドで彼の腕に囚われたまま、
「好き……河原紗佳は、あなたが、好きなの」
いつもと同じ、でも、込められた想いは今までの比ではないほど強く。
「俺も好きだよ。世界中の誰よりも、愛してる」
愛の告白への返事も愛の言葉で。
それでも、その王子様の瞳は私を見てはくれていない。
目と目を合わせても、王子様の視線は私の奥の虚空へと向けられる。
もう、これで終わりだと。最後に縋るように王子様の鼓動と温もりに体を委ねた。
渉が部屋で眠っていることを確認して、私はそっと彼の家を出た。私からは二度と訪れないと決心して鍵を閉め、鍵は玄関のドアの投函口から部屋の中へと落とした。ただ一つ、探せば見つかる、ある手がかりだけを残して。あなたが彼女ではなく私自身を求めて、探してくれる一縷の望みだけを残して私は渉の前から去った。不思議と気持ちは落ち着いていて、自分なりにケジメをつけたからなのかどこか清々しい気分だった。
「さようなら」
今もなお残る数多の思い出たちが心を締め付けるけれど、それでも後悔はしていない。聞こえぬ一言を言い残し、私は王子様だと信じたかった人の前から微かな残り香だけを置き土産に去った。
もう、シンデレラは待つことをやめたのよ。
上手く靴を置いて逃げるから。
王子様、追うも追わぬもあなたの自由。
でも、早くしないと私の世界からあたなは消えるから。
これからどこに行こうか。
誰も私を知らない土地に行って暮らしてもいいし、実家に帰って地元で再就職先を探しながら両親の世話に明け暮れてもいいし。貯金もあるからしばらく長期旅行に行ってもいいし、ひたすら思うままに行動してもかまわない。
手に入れた自由をどう使おうか、心の片隅で渉の存在がちらつきながらも私は浮き足立ちながら動き始めた。
シンデレラはガラスの靴を手掛かりに王子様が探してくれた。
そしてめでたく二人は結ばれ、誰もが憧れるストーリーの結末は勿論ハッピーエンド。
私が王子様だと信じていた人は、私を探して見つけ出してくれるかな。
王子様と手を取り合って迎えられるハッピーエンドは、女性の憧れの結末。
でも、王子様が誰かなんて私にもわからない。誰と結ばれるかなんて、全然わからない。
それでも私は今、とても幸せな気分になれている。
私の物語の結末がどんなふうになっても、私は私を信じて、夢に焦がれても、溺れることのないように。私は私だけの軌跡を残して、未来を紡いでいく。
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文法上誤用となる3点リーダ、会話分1マス空けについては私独自の見解と作風で使用しております。