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次回、最終回です。無事、週2話更新でき。最終回までこぎつけることができました。
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夢から覚めた時、よほど深い眠りについていたのか。暗闇にうもれていると思っていた外は、既に朝の光を少しずつ世界にしめしている。
私はそっと荷物だけ持って抜け出し、家を一人で出た。
帰ろうと進む足。考えるのは、どうしようもないこと。
あの日、初めて私は渉の視力が極端に悪くなっているという状態に気がついた。それまでも、多少気になる点は幾度かあった。何度かカップを取ろうとして、手がカップをかすめたり倒したり。その時はぼーっとしていて目測を誤ったのだろうと思っていた。他にも近所づきあいが全くないことや、あまりにも簡素な部屋。気づいてしまえば納得できるものばかり。
私と再会しか時はまだ視力はあったが、どんどん落ちていっているところだった。そしてとうとう目がおぼろげにしか見えなくなった渉は、香織さんの面影を再会したあの時からずっと私に重ねてみていたのだと知った。あの時湧き出した感情は絶望だったのか、怒りだったのか、落胆だったのか、悲しみだったのか。あまりの衝撃に、襲った痛みに耐えかねて忘れてしまったようなのだけれど。耐えがたい痛みと苦しみを感じたことだけは未だに鮮明に覚えている。
憧れていたあなたに優しくされて、仄かに抱いていた恋情の相手から好きだと言われて、どれほど嬉しかったか。
でも、渉は私を見てくれてはいなかった。
さっき夢でみたあの日から、早七年の月日が流れていた。私はもう、三十路直前。尚樹君は、その名と実力を世界轟かせ既にトップレベルの世界で活躍していた。連絡はもうとうの昔に途絶えた。今では間接的にその活躍ぶりを耳にし、目にするだけ。
――渉が好きなのは、いつだって花織さん。
彼女の声に似た私。
彼女の奏でる音と同じ音を弾く私。
彼女と同じお茶を淹れる私。
彼女と同じ香りを纏う私。
どうしてこんなにも、私はあなたの想う彼女と同じなの……?
それでも、どんなに同じでも私は彼女とは違う。
彼女とは違って背が高い私。
彼女とは違って綺麗じゃない私。
彼女とは違って暗い黒色の長い髪。
彼女とはきっと中身も違ってる。
だって、私は私であって、彼女とはいくら共通点があっても別個の存在なのだから。それに私は君の想う彼女ほど、綺麗で優しい人間じゃない。傍にいると辛いのに、渉が求め続けるのはあるはずのない花織さんの面影ばかり。私という一個人の存在はひと欠片も求めていない。それをわかっているのに、それでも私は、渉の傍から離れることができない……。
――人を愛するというころが、こんなにも重いものなんて。
「さようなら」
この一言が言えたなら、どれだけいいか。
でも、好きな、大切なあなたから離れられない。大切なあなたの悲しむ姿は見たくないから。
いつかあなたが私だけを見てくれる日がくるのだろうか?
ううん、私が私である限りそれは無理なことなんだろうね……。
「――っ」
涙が溢れて止まらなかった。次から次へと溢れだして、止める術もなくただただ流し続けるしかなかった。通り過ぎゆく人たち、誰にも気にも留められず。そっと建物と建物の間の細い横道に入り、人の道から外れしゃがみこんだ。
「――あ、ぅく」
止まらない暴走した感情、溢れる嗚咽、身体中全ての水分を吐き出し涸れ果ていっそのこと朽ちて消えてしまえたらと。
色々我慢していた想いが涙とともに溢れだし、全てがどうでもよくなりこのまま倒れてしまおうかと思ったその時、ふっと影が落ちた。
「どうした」
降ってきた優しい声に顔を上げれば、そこには何故か尚樹がいた。
「――泣いてるのか」
「泣いてない……」
つい、強がって、何でもないフリ。誰にもバレなかったのに、どうして尚樹にはバレてしまうのだろう。どうして、こうもタイミングよくまるで王子様のように私の前に現れてくれるのだろう。
「泣いてない。泣くわけがない。泣いたって何も」
泣いたって何もかわらない。そう紡ごうとしたのに。
「俺じゃ駄目か?」
最後まで言い切る前に、言葉が切られた。
「?」
何を言われたのかわからず、キョトンと私を見下ろす影を見上げる。
「俺じゃ、駄目か? 傍にいるのは、俺じゃ駄目なのか?」
懇願にも近い瞳に、少なからず気持ちが揺らいだ。
「少なくとも俺なら、こんな悲しませるようなことはしない」
そっと優しく涙を拭う指。尚樹の真摯な声音と、私を真っ直ぐ捉えて離さない眼差しに、彼の偽りない想いが心深くまで届く。
「俺はずっと、紗佳さん、貴女のことが好きだった。最初はただの年上の女性ぐらいにしか思ってなかった。でも、大学で再会して最初の頃よりよく接して話をしていく内にいつの間にか貴女に惹かれていた。貴女の優しい心に、美しい音に、惹かれていく自分がいたのがわかった」
懐かしい思い出の一ページに刻まれている、あの頃と同じことを言う尚樹。きっと、この手をとれば私は他の誰でもない、誰の代わりでもない私自身に注がれる愛に満たされるだろう。
「――でも、紗佳さんとは急に疎遠がちになって。気がついたら卒業して、連絡はとれなくなっていた。何度も諦めようと思った。連絡も取れず、どこにいるのかさえわからず。接点が何一つない状況では、もう無理だろうと」
いつかは破局を迎えるかもしれない。それでも……
「でも、こうして逢えた。そして、貴女が今、どんな状況におかれているかも俺は知っている」
「!?」
「勝手に調べるような真似してごめん。でも、偶然颯音さんが紗佳さんと京田さんが一緒にいるところをみかけて俺に知らせてくれたんだ。颯音さん、言ってたよ。『……紗佳さん、笑っているのに笑んでいなかった』――って。それを聞いて心配になって、勝手に聞き込みをしたり自分で調べたりした。だから、全部知ってる」
――きっと、彼と共にいる間はこのひた向きな想いを一心に注がれ、幸せな時間を過ごすことができる。
「まだあの人を好きなままでかまわない。俺が、きっと気持ちを奪ってみせる。紗佳の未来を、俺にくれないか?」
(――未来)
なんて、光が溢れる言葉なんだろう。
今の私には眩しすぎるほど、光が、夢が、希望が溢れていた。
未来なんて考える余裕もなかった。考えたいとも思わなかった私が、今ばかりは尚樹の言葉に前を向いている。心のこもった、私の為の、私だけに向けた言葉がこんなにも嬉しくて、力強いなんて初めて気がついた。
――それでも私の口からこぼれたのは、謝罪の言葉。
「ごめんなさい……っ」
どうして私なのだろう。
「泣くなよ……。お前が泣いたら、どうすればいいかわからなくなる」
何故渉を、こんなにも好きになんてなってしまったのだろう。
「泣くなって」
こんなにも自分を求めてくれる誰かの存在があるのに。包み込んでくれる腕は、こんなにも温かいのに。確かに満たされる何かがあるのに。
神様は。いるとしたら、無情だね……。
まるで辛いと感じる人間たちを見て、楽しんでいるかのよう……。
いつか渉が花織さんと私を別の人間としてみる時がもしもきたときは、渉は一体どんな瞳を私に向けるのかな?
その瞳は怖いけれど、私は受け止めるよ。
一つの物語に姫と王子は一人ずつで十分。
だからどうか、私を選んでください。
王子の隣にいられる姫に、どうか、どうか、私を選んでください。
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文法上誤用となる3点リーダ、会話分1マス空けについては私独自の見解と作風で使用しております。




