第九十八話 不謹慎な展開は「KEEP OUT」!?
第九十八話 不謹慎な展開は「KEEP OUT」!?
弥生が差し出してきた❤尽くしのカレーを陽菜と黙って見つめていた。
「どうしました? 早く食べないと冷めちゃいますよ」
何事もないように、食事を催促してくる弥生に内心ため息をついた。彼女の前で出来る訳がないだろう。
俺が躊躇していると、陽菜が自分のスプーンでカレーのルーとご飯をかきまぜだした。❤が崩れていくのを見て、弥生が「ああっ!」と声を上げるが、お構いなしだ。そのまま一口サイズのカレーをスプーンにすくうと、俺に向けてきた。さらに甘い声を出す。
「優司くん、はい、ア~ンして❤」
突然のことに、心臓がドクンと動きを速める。これはよく熱々のカップルがやっている(とホイケルが言っていた。噂の真偽は不明)行為ではなかろうか!
「お、お姉ちゃん?」
「は、陽菜?」
陽菜の大胆な行動に、七海と妹会長からも驚きの声が上がる。
俺はと言うと、彼女からのアタックを断るほど野暮でもないので、顔を前に出して食べることにした。ただ、知り合いに見られながらやるというのはかなり恥ずかしい。
陽菜が持っているスプーンからカレーを食べると、周囲からブーイングが巻き起こる。みんな、俺と陽菜が仲良くやるのが気にくわないらしい。早智だけは面白がって、周囲に交じってブーイングを飛ばしているだけだが。
「なかなかやってくれるじゃない……」
特にまゆが明らかに対抗意識を燃やしている。まさか、陽菜と同じように、「はい、アーン❤」とかしてこないだろうな。言っておくけど、お前は彼女じゃないから断るしかないんだぞ。恥をかくだけだから、絶対にするなよ。
食事中はそれ以上のことは起きず、各々がカレーの味を楽しんだ。だが、これで終わる訳がない。食事が済んで勉強が再開されると、早速まゆが動いた。
「ふ~、食べた」
満腹の腹をさすりながら、ご満悦の声を漏らす面々。
ご飯が済んだら、また勉強。集中力はとっくに切れてしまっているので、根性と忍耐でやる気をつないでいる状態だ。
かなりリラックスして、警戒心も薄れていた。もしかしたら、まゆはそこを狙っていたのかもしれない。
「気分転換も兼ねて問題でも解いてみない?」
普段なら警戒するところだが、気分転換に良いかと、大して考えずにお願いした。
したり顔のまゆが意気揚々と問題を出す。
「これから言う英文を日本語訳してください。I LOVE MAYU……」
「ちょっと!」
途端に、七海からストップがかかる。俺も驚いて、眠気が吹っ飛んだ。
「頼むから、真面目にやってくれ……」
思わぬ不意打ちに、たまらず苦情を出した。
そんな英文読解問題が出てくるとは思えないし、出てきても回答できない。答えられる問題を出してくれ。
残念がりながらも、次からはちゃんと問題を出してくれた。「単語の意味は何か?」とか、「この戦争が起きたのは西暦何年か?」といった暗記していれば解けるような問題から、数学の応用問題まで幅広く出されたが、どうにか全問正解できた。
「あれ? 赤点を取るかとらないかの成績って言うくらいだから、もっと間違えるかと思っていたら、全問正解しちゃった」
「今のはカンニングのしようもないから、紛れもなく優司の実力よね」
俺の予想外の学力に、まゆと七海が目を丸くして驚いていた。
「次は私! 私に出して!」
妹会長が次は自分に問題を出すようにねだってきた。催促されるままに、まゆが五問ほど問題を出した。
すらすらと問題を解いて、「どう? 全問正解?」と、俺をちら見しながら聞いたが、「う~ん、惜しい!」と、まゆは本当に惜しそうに答えた。
「どこ? どの問題が間違っていたの?」
「五問目だよ。最後の計算が間違えているぞ。答えは2だ」
どこが間違っていたのか、分からない様子の妹会長に間違っている個所を指摘してやった。その通りだと、まゆが首を縦に振る。格下だと思っていた俺に、まさかの敗北を喫した妹会長は、もう一回問題を出すように、まゆに促した。再戦は妹会長の圧勝だったが、それで、俺もやる気になって、しばらく勝負に熱中した。
時間が経ち、問題の出し合いでヒートアップして、汗をかいてしまったので、風呂に入ろうという話になった。男が俺一人の、ハーレム状態だから、何かムフフなイベントが起こるのではないかと、期待する人もいると思うが、申し訳ないことにそういうことは起きなかった。
何故なら、陽菜と七海が全力をもって、イベントの発生を阻止したからだ(まゆと弥生はかなりやる気だったので、二人が阻止しなかったら、18禁になってしまっていたかもしれない)。
陽菜と七海の提案で、風呂には女子が二人ずつ順番に入って、男の俺だけが一人で入るということになった。ペア分けは、陽菜とまゆ、七海と弥生、妹会長と早智、そして俺だ。
組み合わせを見れば分かるように、まゆと弥生を徹底マークすることによって、不穏な動きを封じる狙いがあったらしい。そして、俺が入浴している時に、間違ったふりをして、風呂に乱入するというラブコメにありがちな展開も、封殺させたわけだ。
見事な連携だと感心しつつ、俺が情けないから、ここまでしてくれているんだと、かなり反省もした。
二人のパワープレイが功を奏して、入浴は無事に済んだ。何かとてつもないものを目にしたのか、入浴後にまゆが陽菜の胸元をちらちらと忌々しそうに見ているが、集中を切らすといけないので、今は深く考えないようにしよう。
入浴タイムが終わると、どこで寝るかという話題になった。
「私、優司くんと同じベッドで寝たい♪」
言うと思った。ある意味予想通りのまゆの要求に対して、俺もテンプレな回答を返す。
「駄目だ!」
「そうよ。優司くんは私と寝るんだから」
俺の回答に陽菜がかぶせてきた。
「え~、お姉ちゃんとは私が寝るの!」
それに妹会長がかぶせてきた。かぶせ過ぎのせいで、だんだん訳が分からなくなる。
「私と優司くんは付き合っているのよ。恋人同士が同じ布団で寝るのに、何かおかしいことでもあるのかしら?」
理論的にはおかしくないんだろうけど、実の妹と親友の前で堂々と言わない方が良いんじゃないか? まゆの攻勢に陽菜が冷静さを失ってきているようにも感じる。そろそろ止めておくか……。
「まだ学生に過ぎない、年頃の男女が同じベッドで寝るのは道徳上、良くないと思います! 間違いが起きてしまう危険があります。別々のベッドで寝るべきじゃないでしょうか。違いますか?」
「優司と真っ先に寝ようとしていたくせに、良く言うわね……」
俺と陽菜が一緒に寝るのを阻止しようとしているとしか思えないまゆの発言に、あからさまに呆れつつも、間違いが起きてはいけないと七海も、俺は一人で寝るべきだと主張した。
「そういう訳だから、あなたには一人で寝てもらうことにしたわ。悪く思わないでね」
「……それは構わないんだけど」
俺のベッドの周りに、刑事ドラマでよく見かける黄色いテープが張られていた。
「これ……、殺人事件が起きた際に、人が近寄って来れないように貼っているテープだよな。「KEEP OUT」って書かれているし。これじゃ、俺が危険人物みたいじゃないか」
「まあ、実際にあなたのせいでいろいろトラブルが起きているし、ある意味危険人物だから良いんじゃないかしら」
「生徒会役員らしからぬ発言だ! ひどい!」
上の人間に言いつけてやろうかとも思ったが、その上の人間が眠たそうに目をこすっているのを見て、こいつに言っても駄目だと断念した。くそ、せめて碓氷副会長がこの場にいれば……。
「近づくな、危険……」
そう言って、早智が噴き出していたので、蹴りを見舞ってやった。
「ふと思ったんだが、全員早智の家に泊まればいいんじゃないのか? 危険人物と同じ屋根の下で寝るより、よっぽど安全だぞ」
半ば不貞腐れ気味に提案したが、陽菜、まゆ、弥生の三人共々、ここで寝たいと言い張り、妹会長も「お姉ちゃんと一緒が良い」と移る気ゼロ。七海に至っては、「馬鹿が移るから嫌だ」と断られた。発言を聞いていた早智と喧嘩に発展したのは言うまでもない。全員がこの家に泊まりたいらしい。
「いいじゃないですか。ただ寝るだけです。何もしませんよ……」
「何もしない訳ないわよね。目が獲物を狙うハンターになっているわよ。そんな人間を優司くんの近くに寝させるわけにはいかないわ」
「美咲さんの言い分はもっともです。でも、敢えて無視します」
「! 丁寧語なのに、ふてぶてしさが全開!」
来たときには陽菜に押され気味だったのに、すっかり対等に渡り合っている。以前絵の作成を邪魔した時に見せたブチ切れモードになりかかっているのかもしれない。
「こんな状況じゃ、安眠できそうにないな。もう寝るのを諦めて、リビングでゲーム大会でも開くか?」
「「「テストに差し支えるだろうが!!」」」
大学の応援団並みの怒声が向けられた。俺はただ穏便に、この場を済ませたいだけなのに……。
この後、多少のすったもんだがあったが、結局、俺だけ自室、他の女子(早智は自宅に帰った)はリビングで寝るということで落ち着いた。最初からこうすれば良かったじゃないかと密かに思ったが、口に出さずに我慢した。
今回の話は英単語をいくつか出しましたけど、意味が間違っていないか、少し不安だったりします。もし、間違えていたら、恥ずかしいですね……。




