第九話 遊園地デート 前編 死の龍とショートパンツ
遊園地か。最近行ってないなあ・・・・・・。
第九話 遊園地デート 前編 死の龍とショートパンツ
背後霊の千倍ほど強烈なものを背中に感じながらも、特にハプニングに見舞われることなく、遊園地に到着した。
「混んでるな……」
「日曜日だからね」
素っ気ない返事だった。
俺は人ごみが大嫌いなので、早くも気分が最悪なのだが、陽菜はハイテンション。俺と対照的だ。賑やかなことが好きな性格らしい。
「とりあえず何か乗ろうか。リクエストとかある?」
本音は喫茶スペースで寛ぎたかったのだが、到着早々に休憩など、さすがにあり得ない提案だということは理解できたので、乗りたくはないアトラクションに乗ることを提案した。
「私、あれに乗りたい」
満面の笑みで陽菜が指差したのは、この遊園地の目玉と言えるジェットコースターだ。確か、デスドラゴンという名前だった気がする。売りは高さ四百メートルからの急降下だと、ニュース番組で報道していたのを覚えている。ちなみに、その時にコースターに乗った女子アナはあまりの恐怖にテレビ画面の前で気絶してしまい、お茶の間に醜態を晒していた。
てっきり観覧車に乗りたいとかロマンチックなことを言ってくると思ったので、意外だった。
「ねえ、良いでしょ?」
顔をかなり近づけて、懇願してきた。近い。俺が顔を前に出したら、二人の顔がくっついてしまう距離だ。右腕にしがみつく力が強まっている。ちょうど陽菜と接している部分から、柔らかくて、それでいて弾力とボリュームを感じる、何かよく分からない感触が伝わってきた。それが何なのか、分かってくると、柄にもなく頬が真っ赤になってしまった。
「べ、別に絶叫系は苦手じゃないから、いいよ。デスドラゴンで」
しどろもどろで了承する。陽菜は無邪気に喜んだ。
自分で言うのもなんだが、ジェットコースターには苦手意識がないので、二つ返事で同意した。
通常、満員御礼の遊園地においては、どのアトラクションに乗るにもかなり並ばなければならないものだが、制作した会社が力を入れすぎたせいで、すっかり敬遠されるようになったデスドラゴンに乗ろうという勇者は少なく、おかげで俺たちは、並ぶこともなく、乗ることが出来た。
「どきどきするね。私、怖くて悲鳴を上げちゃうかも」
そう言う陽菜の顔に恐怖は微塵もなく、上げる悲鳴も恐怖でなく、歓喜の悲鳴になるであろうことは乗る前から想像できた。
そもそも自分から乗りたいとリクエストしておいて、怖いもないだろう。
肝試しの延長なのか、俺たち以外の客の顔面からは見事に血の気が引いていた。見ていると気の毒に思えてくる。何も金を払ってまでこんな思いをしなくてもいいのに。
その時、背後の席に怖いお兄さんたちが二人陣取っているのを見つけた。
何もここまで追ってこなくても……。他のお客さんの顔色が優れないのは、コースターに対する恐怖に加えて、お兄さんたちへの恐怖もあるかもしれない。現に、お兄さんたちを発見してから、俺の気分が急速に優れなくなった。
「ねえ。怖いから優司君の手を握っていてもいいかな?」
「? 別に構わないけど」
望み通り、陽菜と手を握る。怖いと言っている割には、恐怖は伝わってこない。小刻みに震えてもいないし、手汗をかいたりもしていない。
最後の客が乗ると、開始を告げるベルが鳴り響き、コースターはゆっくりと動き出した。
コースターは重力に逆らって、ゆっくりと上昇していく。
頂上が近づくにつれて、後ろの席から心臓の音が聞こえてきそうだ。無理もない。頂上に達すること。それはつまり、地獄の瞬間の開幕を意味するからだ。
そして、緊張がピークに達した、次の瞬間、コースターは地上めがけて真っ逆さまに落下していく。
同時に、俺の周囲から、鼓膜が破けんばかりの悲鳴が上がった。俺は上げなかったけどね。
自分からリクエストしてだけあって、陽菜は思う存分、絶叫して楽しんでいた。
ちらっと後ろの席を見ると、お兄さんたちは表情を全く変えることなく、澄ました顔で乗っている。まるで人形のように動かない。あそこだけ別世界のように静まり返っている。アトラクションより怖い。
デスドラゴンを降りると、俺と陽菜以外の乗客たちは全員放心状態でうずくまってしまった。降りてすぐに嘔吐してしまい、係員に注意されている者までいる始末だ。
自分は大丈夫だと、一歩を踏み出そうとすると、若干ふらついた。見ると、足元が微妙に震えていた。無意識ながらも怯えていたのかもしれない。
周りとは対照的に陽菜は元気いっぱいで、早くも次に乗るアトラクションのことを考え始めていた。
「次は何に乗ろうか~?」
デスドラゴンでテンションが跳ね上がったらしい。もう次のアトラクションのことを考えている。怖がる演技などすっかり忘れている。
「今度は優司君が選んでよ。その次は私が選ぶから」
「乗るアトラクションを交互に選んでいくわけか。そういうことなら……」
陽菜は絶叫系が好きだと予想したので、フリーウォールを選択した。予想は的中した。陽菜は喜んで提案を承諾した。
アトラクションの前に来て、俺は自分の失策を痛感した。
今の陽菜はスカート。このままでは、フリーウォールの目玉ともいえる垂直落下の際に、スカートがめくり上がって中身が露出してしまう!
どこかで着替えさせないと!
急に辺りをキョロキョロ見始めた俺に対して、「大丈夫♪」と陽菜は余裕のコメント。続いて「ちょっと待っててね♪」と言い残し、女子更衣室へと走っていった。
五分後、女子更衣室から出てきた陽菜はスカートではなく、ショートパンツを履いていた。
「じゃじゃ~ん!」
大きなバッグを持ってきていると思ったら、着替えを入れてきていたのか。
「こんなこともあろうかと思って、用意してきたんだ」
最初からショートパンツで来ればいいのに、という疑問は喉の奥に押し込んで、似合っていてかわいいと陽菜を褒めた。
俺に褒められたことが嬉しかったのか、陽菜は顔を真っ赤にしてはにかんだ。
でも、足がかなり露出している。行き交う男性の視線が釘着けになっている。俺もついつい陽菜の足に目がいってしまう。足に反応するなんて。自分はエロくないと思っていたのに、少しショックだ。加えて、陽菜が見世物状態になっていることが面白くない。
「このアトラクションが終わったら、またスカートに戻してくれないか? ショートもいいけど、スカートの方が好みだ」
「うん! 私はどっちでもいいけど、優司君がスカートの方が良いって言うんだったら、そうするよ」
男性たちの下心を感じていない様子の陽菜は素直に俺の提案を了承した。純粋なんだな。陽菜の親の気持ちが少しだけ分かった。彼女にはボディガードでもつけないと安心して外に出せそうもない。だって、そうしないと、いつ毒牙にかかるか、不安でいてもたってもいられないから。
「じゃあ、乗ろうか」
フリーウォールはデスドラゴンと違って、行列が出来ている。最後部に並ぼうと、陽菜に手を差し出した。
「うん!」
陽菜が俺の手を握ってきた。最初は緊張していたけど、だんだん打ち解けて、デートらしくなってきた。
これなら、今日一日楽しめそうだ。




