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岩見優司のリア充(?)な日常  作者: 霧島こう
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第八十三話 まゆの一言が、休日を危険色に染める

第八十三話 まゆの一言が、休日を危険色に染める


 まゆと妹会長がテストで勝負することになった。それだけなら、文句はないのだが、俺も一緒にテストを受けさせられることになってしまった。まゆによれば、ノリで一緒に受ける流れになったとのこと。


 冗談ではない。俺が受けるというテストは五教科全てやることになっているのだ。つまり、一日を通して行うということで、休日が見事に潰れてしまうのだ。


 その場は笑って済まされてしまったが、俺はまだ納得していない。そんなに嫌なら休めばいいじゃんと、寝坊したふりをしてさぼってしまうことにしたのだが、俺の周りに集まってくるような物好きが、それで済ませてくれる訳もなかった。


 当日、いつもの休日と同じように、自室で惰眠を貪っていると、俺の携帯電話が鳴った。携帯に番号を登録していない人間用の着信音だったので、電話をかけてきているのは知り合いではなく、勧誘の類だと判断して、出ないことにした。放っておけば止むだろうとそのまま放置。だが、電話はいつまで経っても鳴りやむことはなく、隣の部屋から、苦情の意味を込めてドンと壁が蹴りつけられた。さっさと出ろと、隣で早智が急かしているのだろう。


「くそ……、誰だよ」


 悪態をついて仕方なく電話に出ると、まゆの声で「おはよう♪」を爽やかに挨拶された。


「あれ? 俺の番号をどうやって知ったんだ? 教えてないよな」


「鹿内さんに教えてもらったの。お歳暮でもらったさくらんぼをお裾分けしたら、快く教えてくれたわ♪」


 隣にいる幼馴染みに向かって、壁を思い切り蹴りつけた。さくらんぼをもらった程度で、俺の個人情報を流すんじゃねえよ。


 続いて家の前の道からクラクションが鳴らされた。休日の朝っぱらからうるさいと思いつつも、嫌な予感が出たのでカーテンの隙間からそっと覗くと、見覚えのある黒塗りの高級車が停まっていた。


「今、カーテンの隙間から覗いているでしょ。待っているから、早く出てきて❤」


 俺の行動は全てお見通しらしい。女の直感が冴えわたっているね。稚拙なさぼり作戦は失敗に終わったみたいなので、渋々テストを受けに行くことにした。


 人を待たせている以上、朝食を食べている時間はないので、自棄気味に紙パックに入ったオレンジジュースを一気飲みした。今朝の食事はこれで終了と思うと、虚しくなった。


 身支度を整えて、車のところに行くと、通行人がちら見しながら通り過ぎていくのが見えた。貧乏人ばかりの界隈に、黒塗りの高級車はミスマッチだった。


 車に乗ると、まゆの他に妹会長も乗っていた。


「おはよう!」


「おはよう……」


「元気がないね! せっかくの雲一つない晴天なのに!」


 雲一つない晴天の日にテストを受けることになれば、誰だって暗い気分にもなるさ。目の前の二人の女子は違うみたいだけど。


「わざわざ車で迎えに来なくても良かったのに。塾までの道のりは聞いているから、自力でも行けたぞ」


 行く気などなかったくせに、白々しいことを言ってやった。


「高級車でテストを受けに行くとか豪華すぎだろ」


「会長さんがわざわざ迎えに来てくれたのよ。私もビックリしたわ。そんなことをしなくても逃げやしないのに」


 すいません。逃げる気満々でした。耳に痛いお言葉ですので、それ以上は言わないでください。


「一秒でも早く叩きのめしてやりたくてね!」


「テストの開始時間は決まっているから、車で行こうが、電車で行こうが、変わらないけどね」


「にゃにおう!」


 二人は早くも臨戦態勢に入っていた。車の方も、二人の熱気に後押しされてか、どんどんスピードを増していく。


 俺たちを乗せた車は、休日の都内を信号で止められることもなく、順調に走行していった。どこで降ろしてくれるのかと思っていたら、塾の前まで来てしまった。


 また変な目で見られると思ったが、同じような黒塗りの高級車が何台も既に停まっていて、普通に警備員に駐車場まで誘導された。まゆの通っている塾って、金持ちの子供が多く通っているところなのだろうか。


 駐車場で車を降りると、建物の中に入った。入口で受付を済ませると(個人的にはここで門前払いを食らって、とんぼ返りしたかったのだけど……)、テストを受ける教室と座席を教えられた。


 まゆの友人と思われる女子が数人、俺たちのところに近付いてきた。


「まゆちゃん、おはよう~!」


「おはよう」


 屈託のない笑顔で挨拶を返すまゆを、部外者の俺と妹会長は黙って見ていた。やはり、部外者とは肩身が狭いものだ。


「その子は誰? 妹さん?」


「違う、違う。学校の後輩だよ♪」


 まゆと他愛もない挨拶を済ませると、彼女たちの興味は妹会長に写った。妹会長はここでも子ども扱いされてしまった。プライドを踏みにじられた彼女は面白くなさそうにしているが、何とか耐えているようだ。


 妹会長の次は俺の話題になった。値踏みするかのように、つま先から頭の先まで凝視された後、まゆに質問が飛んだ。


「え~と、そちらの人とはただの友人だよね……」


 言葉の中に刺々しいものを感じたが、気のせいと言うことにしてしまおう。なるべく目立ちたくない。


「違うよ!」


 ただの友人だということにしてほしかったのに、まゆはあっさりと否定して、驚愕の情報を言い放った。次の瞬間、目立ちたくないという俺の希望は瓦解することになる。


「か・れ・し・で~す!」


 いきなり大嘘をついた。


「か、彼氏!?」


「嘘よ! まゆちゃんに限って、そんな……」


 まゆの友人たちは一様に動揺した。俺も動揺していたのだが、彼女たちに比べると、落ち着いている方だ。もう取り乱しているといってもいいくらいなのだ。


 気のせいであってほしいことだが、まゆが俺のことを彼氏だと紹介した途端、それまで温和だった周囲の空気が一気に凍り付いた気がした。


「おい! 何を言ってるんだ。俺がいつ、お前と付き合うようになったんだよ!」


 まゆにそっと耳打ちで抗議したが、彼女は涼しい顔で返答してきた。


「いいじゃない。優司くんはここに通っている訳じゃないし、軽い冗談よ♪」


 いやいや、お前の友人たちは冗談と受け取っていないようだぞ。


「いいじゃん。本当に付き合っちゃえば。そうすれば、まゆも幸せになるし、私もお姉ちゃんが戻ってきてくれて幸せになるし、みんな幸せになるよ」


「さすが生徒会長。良いことを言うね♪」


 こいつら二人は何を言っているのだろうか。だいたいみんな幸せになるって言うけど、その中に俺は含まれてないだろ、絶対。


 爆弾発言のせいで、その場に居づらくなってしまった。まゆと妹会長を促して、無事なうちに退散することにしよう。


 一般参加の人間は塾の生徒とは別の教室で受けることになっているとのことで、まゆとは途中で別れた。


「じゃあね。少しの間、離れ離れになるけど、お互い頑張ろう、ダーリン❤」


「ダーリン?」


 妹会長にすごい目で睨まれた。この男は女子に何てことを言わせているのだと思っているのだろうが、元々ダーリンと呼び出したのは、お前のところの不良少女だ。文句を言いたいのは俺の方なのである。


 だが、まゆのダーリン発言が、周りの空気にさらに亀裂を生じさせたのは紛れもない事実で、俺は自分に向けられる殺気の存在を確信していた。


「……何か背後からすごくチクチクしたものを感じるよ……」


 鈍感な妹会長にすら、俺の身に降りかかっている危険は察知できたようだ。もうテストなんて止めて、この場から逃げ出したい。だから、俺は嫌だと言ったのだ。休日からテストなど受けようとするから、罰が当たったのだ!


 身の縮む思いで、一般参加者用の教室に入ると、互いの席が離れているので、入り口で妹会長とは別れた。


 自分の席に座ると、隣に座っていたやや小太りの大学生風の男が、徐に話しかけてきた。テストなんて面倒くさいですねえと言った類の世間話かとも思ったのだが、まゆについての話題だった。


「ねえ、君、さっきまゆたんから彼氏だって言われていたけど、あの話マジなの?」


 こいつがまゆ目当てで来ていることは明らかだった。周りには、他にも同じ目的で来たと思われる男性陣が、勉強しているふりをして、こちらに意識を集中させているのが手に取るように分かった。


 それにしても、「まゆたん」って……。もう少しまともな呼び方は思いつかないものか。


「ねえ、どうなの?」


 さて、どうしたものか。正直に彼氏じゃないと告白して、こいつを喜ばせるのも何となく面白くないし、かといって、彼氏だと嘘をついて余計なトラブルを増やしたくもない(そんなことをして、万が一まゆの耳に入れば、学校でも吹聴して回るに違いない)。


「ご想像にお任せしますよ」


 何の答えにもなっていないが、嘘をつくよりマシだろう。男は尚も食い下がってこようとしていたが、勉強の邪魔だと強めに言ったら引いてくれた。あまり気は強い方ではないらしい。


 勉強に集中させろと、周りに宣言してしまったことで、やりたくもない勉強をする羽目になってしまった。もし、やらないでいれば、他の人から、同様の質問をされかねない。


 一つ分かったことは、まゆはここでもアイドル的な人気を誇っており、そんな彼女の彼氏とみなに認識されてしまった俺の身には、確実に危険が迫っているということだ。


テスト対決の話は今回で終わる予定だったんですが、思っていたより盛り上がったので、次回に続きます。

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