第七十七話 恐怖のバーベキュータイム 後編
第七十七話 恐怖のバーベキュータイム 後編
バーベキューをやるのは初めてだったが、皇一から褒められたことで、自分の腕に自信を持ち、次々と焼き始めた。
焼き上がった食材を、皿に取り分けて、早智にも配った。乙女みたいに右手で口元を隠しながら食べている姿はやはり似合わない。
大分焼き上がったので、妹会長にも肉を与えようとしたら、もう一つのグリルの方に張り付いて、焼きフルーツばかり頬張っていた。てっきりお子様らしく肉だけに食らいつくとばかり思っていただけに意外な展開だった。思い返してみれば、いかにも食欲旺盛な会長が、俺が肉を焼いている間、ずっと大人しく待っている筈がない。
「フルーツ類があるうちは、それしか食べないから、肉類が食べたいなら、今の内よ!」
夏凛の看病を終えて戻ってきた陽菜が教えてくれた。
「そういう訳で、真奈美の分のお肉は、代わりに私が食べるわ」
ダイエット中なのかと疑ってしまうほど、少食の陽菜が自分から求めるなんて、珍しいこともあるものだ。腹が減っているのだろうか。
「夏凛はもう大丈夫なのか?」
さっきの青白い顔をした夏凛が気になったので、現在の病状を聞いた。
「うん。向こうで横になっている」
そう言って、焼き上がったばかりの骨付きカルビに豪快にかぶりついた。俺が食べようと狙っていたのに……。
その後は肉を焼きつつ、合い間に食べると言う作業を繰り返した。腹が一杯になってくると、夏凛の様子がまた気になってきたので、様子を見に行くことにした。木陰で横になっている夏凛の元に、適当に料理を振り分けて、差し入れとして持っていく。
「大丈夫か?」
「ああ、だいぶ良くなったから、もう問題ない。心配してくれてセンキュー」
横に仰向けになって寝ていた夏凛が上体だけ起こして、答えてきた。
「ほら、少しでも食えよ。何も食べないと、本当に倒れるぞ」
肉を受け取りながら、夏凛が力なく微笑んだ。
「はは……、センキュー」
だいぶ良くなったと言いながら、夏凛の調子はまだまだ悪いままだ。思い出すだけでここまで体調不良になるって、どれだけの事態が起きたんだ。
気にあるあまり、うっかり以前あったことについて聞いてしまいそうになった。危ないところだ。もし、聞いていたら、せっかく良くなり出している夏凛の体調がまた悪くなってしまう。
……今度七海にもそれとなく聞いてみようかな。あいつも生徒会役員だし、その場にいた筈だ。
夏凛の見舞いを追えて、グリルのところに戻ると、また焼き始めた。さっきから肉ばかり焼いているので、次は野菜を焼こうと、ピーマンやニンジンを手に取った。
「ああ~、野菜は駄目! お肉を焼いて、お肉を!」
妹会長が俺の腹のあたりからひょっこりと顔を出して、いちゃもんをつけてきた。焼きフルーツをたっぷり堪能した妹会長が、肉類にターゲットを移してやってきたのだ。今は野菜の番だと文句を言いたかったが、お子様と口喧嘩すると、周囲から悲しい目で見られてしまうので、大人として文句を抑えて、言われたとおりに肉を焼いてやった。
ガツガツという擬音がぴったり当てはまるくらい、気持ちの食べっぷりだった。肉が焼き上がると同時に、箸で横からかっさらって、自分の胃袋に収めていった。あの小さな体のどこに、あんなに大量の食糧が収まるのか不思議でならない。
どんどん焼かないと間に合わないと判断したので、ペースを上げながら、次の食材を選んでいる時に、あるものを発見してしまった。
中に花火が混じっていた。それも一つや二つではない。
「おい……」
隣でグリルの後片付けをしている皇一に向かって説明を求めた。
「ああ、これね。ごめんごめん。夜のやろうと思っていた花火が混じっていた。うっかりしていたよ」
食材を確認した皇一は、爽やかな顔のままで、縁起でもないことを言いだした。だが、一番縁起でもないのが、皇一の頭の中だということを俺は知っている。
「うっかりねえ……」
俺が信用していないことは目を見れば一目瞭然だったろう。皇一はしばらく無言で見ていたが、またにっこりほほ笑むと、「そう、うっかり!」ともう一度言い、何事もなかったように、グリルの後片付けに戻った。
確信した。この食材の中から、花火と言う名の刺客をさっさと除去しなくては。そうしないと、偉いことになってしまう気がした。
「ねえ、まだ~~?」
人並み外れた食欲で、網の上を空にした妹会長が次を直談判してきた。こっちは異物の除去で忙しいと言うのに。
「優司くん、ペースアップだ」
内心ほくそえんでいるのが手に取るように分かる。俺を慌てさせて、うっかり爆発物を混入させるつもりなのだろう。
「ちょっと待て。今焼くから陽菜のところで大人しくしていろ」
「え~、待てない!」
いつもなら陽菜のところに飛んで行く筈なのに。姉への想いを食欲が凌駕しているというのか。
「ほいっとな!」
どこに隠し持っていたのか、バナナをグリルの上に置いた。
途端に、肉の香ばしい匂いとフルーツの甘ったるい匂いが融合してしまった。匂いでこれだ。味の方はさらに混沌としたものになっているに違いない。ただ、食べる気はしないけどな。
「う~ん、良い香り❤」
「味は保証しないけどな」
バナナの味が付属された肉が出来上がってしまうが、苦情がくるようなら、全て妹会長のせいにしてしまおう。実際、こいつが全てやったことなので、責任逃れではないだろう。
もっとも、焼きバナナも、周囲の肉も、妹会長がぺろりと平らげてしまったので、余計な心配だったが。
お子様の相手をしつつ、爆発物を避けながら、品定めして焼いていくと言うのは、なかなか骨の折れる作業だ。
俺は必死にやっているのだが、妹会長は耐えられなくなったのか、食材の入っているビニール袋をひったくって、グリルの上でぶち撒けようとしたのだ。
「まどろっこしいことをしていないで、残りの食糧を全部入れちゃおうよ!」
心臓がドクンと高鳴った。
「私もそれが良いと思うわ」
今まで女性らしく振舞っていた早智だが、遂にぼろが出てきた。俺が皇一を問い詰めていた時に、トイレに行っていたので、早智は爆発物の存在を知らないのだ。
慌てて止めようとしたのに、自分以外の人間からOKが出たので、他の人間の意見には耳を貸さずに、妹会長はグリルに本当に投入してしまった。
ドカーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!
時間を置かずに、グリルが爆発した。火薬である花火が入っていたから、勢いも凄まじい。
「何!? 何が起こったの!」
木陰で休んでいた夏凛も含めた全員が何事かと駆け寄ってきた。
唖然とする俺たちの前で、グリルから巨大な火柱が燃え上がっていた。
勢いが強く、見るからに危ないので、誰からともなく、口々に悲鳴を上げながら、離れていく。
「あ、僕だけど、消防班を組織してきてくれるかな。うん、至急頼むよ」
口々に慌てふためく中、ヘリコプターを読んだときと同じ感じで、救急隊を要請している姿が異様なものに思えた。
危うく山火事になるところだったが、皇一の呼んだ救急チームの活躍で、どうにかボヤで済んだ。
火が消えたグリルの周りに戻って、燃えカスの後片付けを始めた。さすがにそこまで救急チームの世話になることは出来ない。
明日の朝食(あわよくば持ち帰ろうとも思っていた)に使おうと思っていたおかずが水浸しになってしまい、地面に落ちているのを悲痛な思いで見つめた。これでは三秒ルールも適応できそうにない。量がかなりあっただけに、尚更残念でならない。
最近、焼き肉をしていないことを、執筆していて思い出しました。すぐにでもやりたいところなんですが、ワンルームマンションに一人暮らしなので、いざやろうとすると、面倒くさくなっちゃうんですよね。友達を呼ぶかな……。




