第七十三話 妹会長の次なる一手
第七十三話 妹会長の次なる一手
学校に登校すると、古賀が俺の席に座っていた。
「よお!」
俺を見ると、生徒会室で見せた笑顔で、俺に向かって手を振ってきた。瞬きしたら消えるかとも思ったが、古賀は幽霊ではないので、いくら試してみても俺の席から消えることはなかった。
古賀を放置して、一旦教室を出た。そして、間違いなく自分のクラスであることを確認する。
「人の席で何をしているんだ?」
自分の席に取って返して、不法占拠している古賀に向かって、厳しい口調で話しかける。俺は海上保安庁ほど優しくないので、武力行使も時として辞さない。
「そう構えるな。今日はお前に話があってきたのだ」
それなら七海も交えて話した方が良いと告げると、「あいつがいない方が話をしやすいから」と、断られた。同じ生徒会役員にも内緒にしたい話をされると思うと気が重い。
「実はな! 盗撮写真でお前を脅す作戦が失敗に終わったことで、会長が次の作戦を考えたんだよ」
俺が顔をしかめているのも無視して、古賀は快活に用件を話し出した。内容はやはりというか、会長絡みだった。俺と陽菜を別れさせるという迷惑な熱意はまだ冷めてないらしい。古賀がどさくさまぎれに、俺への想いを告げていたことを覚えていて、次の作戦を思いついたと言うことか。
会長の執念に頭を抱えつつも、作戦をばらしていいのか、古賀に聞いた。俺にちくったことが会長にばれたら、烈火の如く怒られるのではないだろうか。
「交際を始めてから、カミングアウトするのも面倒だからな。そもそも隠し事をするのは得意じゃないんだ。初めに言っておくことにした」
例え得意じゃなくても、この場では黙秘を貫くべきだったと思う。あと、俺を落とすことに相当の自信をお持ちのようだが、俺はそこまで軽い男じゃないぜ。
「それを伝えるためにわざわざここに来たのか?」
別に七海がいても問題ないのではないかと思いつつ、聞いてみる。無論、そんな訳はなく、古賀からは「そんな訳ねえじゃん」と笑われた。
「あとな……。お前って、女子を下の名前で呼ぶよな。俺も下の名前で呼んでくれてもいいんだぜ」
言いづらそうにしていたが、下の名前を知らないから名字で呼んでいるだけだ。下の名前さえ教えてくれれば、すぐにでも呼ぶと伝えると、「古賀夏凛」というフルネームを教えてくれた。正直、嬉しくもなんともないが、リクエストに応えると言った手前、これからは夏凛と呼ぶことにする。
「夏凛。これでいいのか?」
「うっ! 早速名前で呼んでくれた! ははは……、異性から名前で呼ばれるのって、むずかゆいな」
同性の七海からも、名字で呼ばれるくらいだ。ガサツな性格の割に、異性に対して免疫のない夏凛は顔を赤らめて、俺から目を反らした。何だ、その乙女な反応は。制服も着崩しているくせに、似合わないぞ。
「それで? どうやって俺を誘惑するつもりなんだ? これでも人並みの節操は兼ね備えているつもりだから、そう簡単には落ちないぞ」
というか、何をされても落ちてやらないけどな。
「そうそう。ここからが重要なんだ。週末に避暑地に二泊三日で旅行に行かないか? 湖畔の近くにあるホテルに予約も既に取ってあると会長も言っていた」
俺が行くと言う前から、ホテルの予約まで済ませてしまったのか。金に余裕のあるやつの行動はとても素早い。
夏凛は続けて、驚きの情報を教えてくれた。
「六聖館の生徒会長が招待してくれたらしい。彼のことはお前も知っているだろ?」
皇一のことなら知っている。陽菜の元許嫁だからな。俺が陽菜と交際する前から、冷めた関係だったらしいが、それでも忘れたら失礼だ。
しかし、そんな相手からの誘いを聞き入れるとは、あいつが姉とは事実上、婚約破棄になっていることを会長は知らないのだろうか?
「七海と陽菜は知っているのか?」
「会長から伝えるらしい」
伝えるって、どう伝えるって言うんだよ。お姉ちゃんの彼氏を横取りするから、今度の日曜日に彼氏を貸してとでもいう気なのだろうか。
「おはよう! 優司くん!」
楽しそうな顔で陽菜が声をかけてきた。俺と夏凛が挨拶を返すと、妹である会長に週末に避暑地へ誘われたことを教えてくれた。
「金曜の夕方に授業が終わったら、そのまま出発して、二泊三日で楽しんじゃおうだってさ」
ご苦労なことに、たった今、夏凛から言われたばかりのことをハイテンションでリピートしてくれた。
「優司くんも誘ったんだって言っていたけど。あれ? ひょっとして、今誘われたところだった?」
俺と夏凛が同時に首を縦に振った。陽菜はグッドタイミングと手を叩いて喜んでいた。そっと陽菜に聞こえないように、夏凛に耳打ちした。
「これも会長の作戦なのか?」
俺が質問すると、夏凛は太っ腹なことに、正直に答えてくれた。
「ネタバレしておくとさ。美咲さんの前で俺とお前をイチャつかせて、いかにだらしない男が見せつけることによって、別れさせるという作戦だ」
それを聞いて、俺が素直に夏凛のアタックに応じると思っているのか。
「と言うわけだ。当日よろしく!」
簡単に挨拶を済ませると、夏凛は教室を去っていった。俺は狐につままれたような感じで頭をかいていたが、陽菜は「次の週末が楽しみだね!」などと、無邪気に楽しんでいる。
七海に聞いてみると、ただ単に恋愛下手なだけとのこと。ちなみに、旅行の件については何も知らされていなかったようだったが、続けて夏凛から詳細を聞いていることも告げると、「会長と古賀が馬鹿で良かった」と胸を撫で下ろしていた。
その日の放課後、陽菜と別れて、買い出しのためにスーパーへ向かって歩いていると、見覚えのある高級車が俺の横に停まった。
「やあ!」
車から顔を見せたのは皇一だった。
「乗りなよ! 話があるんだ」
言われた通りに、車に乗り込んだ。スーパーへの買い出しなどいつでもできるし、いざとなればコンビニ弁当で済ませればいい。それに、皇一には言いたいことが結構あった。
「避暑地にご招待いただいてどうも!」
挨拶もそこそこに、皮肉交じりに皇一にお礼を言った。皇一は笑みを絶やさずに「いえいえ」と社交辞令で応えた。
「お前、こうなることを知っていて、会長を誘っただろ」
「あはは! 僕はね、泥沼が大好きなんだよ」
初対面の時に比べて、ずいぶん本心を話してくれるようになった。ただもっとオブラートに包んで話をする方が、円滑な対人関係を築けると思う。
「会長には陽菜と別れたことは話していないのか?」
「ああ、時が来たら陽菜の方から勝手に話すだろうからね」
何も知らないのは会長だけと言う訳か。
「それからね。一応僕も生徒会長をやっている身でね。会長と呼ばれると、自分のことなのかと身構えてしまうんだ。だから、呼び方を少し工夫してもらえるとありがたい」
確かに。俺が会長と呼ぶたびに、皇一が微妙な表情をしていたのが気になっていたのだ。リクエスト通り、皇一と区別するため、ここから先は、皇一と話す時はうちの会長を妹会長と呼ぶことにしよう。皇一に話すと、クスクス笑いながら「OK!」と了承してくれた。
「それより、どうしたんだ、その顔? 彼女と喧嘩でもしたのか?」
皇一の左頬には誰かに平手打ちされたような跡が残っていた。
「あはは! ああ、これね。恥ずかしい話なんだけど、浮気が元で彼女と喧嘩別れしちゃってさ……」
「その時にぶたれたのか」
以前、学園祭で見た性格のきつそうな女子を思い出した。あの子が皇一に平手打ちしている姿を想像するのは難しくない。
「いや、彼女との別れ話は穏便に済んだんだけどね。その後、怪談から転げ落ちちゃって」
「その時に付けた傷なのか……」
強がりのようにも聞こえたが、よく見ると、左腕にも同様の傷が見られるので、嘘ではなさそうだ。
「こう見えてドジッ子なんだ」
男のドジッ子など、何の萌え要素もない。早急に治すことを勧める。
「奇遇だな。俺の幼馴染みもつい最近怪談から転げ落ちそうになったばかりなんだ」
「知っているよ。鹿内さんだったよね。でも、君に抱きとめられて未遂で済んでいる。そちらの会長さんから話は聞いているよ」
そう言いながら、含み笑いを浮かべた。妹会長のことだ。その後の展開も事細かに説明したに違いない。全く困ったお子様だ。
「相手が陽菜だったら、喧嘩別れせずに済んだのに、お前も惜しいことしたよな」
「全くだ!」
馬鹿にされてばかりなのも悔しいので、お返しに皮肉を言ってやったが、皇一は涼しい顔のままだった。
「でも、その避暑地にはお前の家の別荘はないのか?」
「いや、あるけど?」
「それなら、ホテルじゃなくて、別荘に宿泊した方が良かったんじゃないのか? 自分の家の持ち家の方が隠しカメラとか、盗聴器とか、付けやすいんじゃないのか?」
「あ……」
口を開けて、皇一が声を上げる。今気付いたようだった。黙っておけばいいものを、余計なことを言ってしまったようだ。自分の迂闊さを呪わずにはいられない。
「あ、そうだ。今度の日曜日なんだけど、早智も誘っていいか?」
「構わないよ」
早智には皇一が今彼女と別れてフリーの状態だと言うことも教えてやろう。きっとまた早智が目の色を変えてアタックするに違いない。俺を陥れた罰だ。お前も困れ。俺も他人の泥沼は大好きなんだ。
帰宅後に早智にその旨を伝えると、発狂せんばかりに喜んでいた。
結局、俺、陽菜、夏凛、妹会長、皇一、早智の六人で週末に旅行することになった。
その夜、陽菜と夏凛から交互に連絡があり、宿泊場所がホテルから、雅兄の家の別荘に変更になった旨を伝えられた。
最近、この作品とは別に、投稿用の小説を書き始めました。今回はキャラクターを魅力的に書くことに重点を置いて書くつもりです。この作品の登場人物でも魅力不足を感じましたら、遠慮なく言ってくださいね。




