第七十四話 ヘリコプターとお子様カレーライス
第七十四話 ヘリコプターとお子様カレーライス
皇一から誘われて、急きょ週末に俺を含めた六人で、旅行に行くことになった。とはいっても、宿泊先が皇一の別荘なので、旅行と言うよりは、友人の家に遊びに行く感覚に近かった。
本当は授業が終わってから、夕方に出発する予定だったが、生徒会の見えない力が陰で動いていた関係で、午後の授業を免除されて、昼休憩の時間に出発することが許可された。夏凛の話では、妹会長が旅行を楽しみにするあまり、職権を濫用したらしい。つくづく権力は便利だと実感した。
校門のところで皇一を除く五人で集合して、皇一の指定した場所に向かって出発した。
「まさか授業を早退して出発することになるとはな」
「授業に置いて行かれないか心配だわ」
「いつも居眠りばかりしているくせに何を今更……」
妹会長と同じく旅行を楽しみにしていた早智は眠そうに欠伸をかみ殺している。明らかに睡眠が足りていない。途中で居眠りしてしまうのは間違いないだろう。
「まさか皇一が絡んでいるなんて……」
皇一からの招待だと知ってから、陽菜はずっとこんな調子だった。未だに二人が許嫁だと信じている妹会長は、姉のことを「ツンデレ」だと笑っている。夏凛はと言うと俺に抱きついて来ようと、常に隙を狙っている。油断出来ん!
「ねえ、皇一が指定した場所ってここ?」
「ああ、ここで間違いない筈だ」
言われた通りにやってきたのは、何もない、広い空き地だった。
「それで? 呼び出した皇一はどこ?」
「まだ来てないみたいだな」
「直前になって来るのを止めたんじゃないの?」
「そんなことない!」
もう皇一は来ないと言う陽菜を、早智が強い口調で抑えた。皇一がフリーになったことを教えて以来、早智の皇一への愛は再び燃え上っていた。いや、正確には皇一の財産への愛が燃え上がったと言うべきか。
その時、耳を引き裂くような爆音が周囲にこだました。
「う、うるさい!」
「何よ、これは!」
耳を塞ぎながら、口々に文句を言う中、爆音と共に姿を現したのは、一台のヘリコプターだった。いきなりの登場に凝視していると、皇一が中からこちらに向かって手を振っているのが見えた。
「ははは! ずいぶん派手な登場だな」
「相変わらずきざなやつ!」
てっきり電車か車で行くと思っていたのに、ヘリコプターでお迎えとは。金持ちはやはりスケールが違う。
「やあ! お待たせ」
何事もなかったように、皇一が明るい声で俺たちに挨拶してきた。口々に引き攣った声で、出迎えた。
「ヘリコプターに乗っていくのか?」
「ああ、こっちの方が早いんだ」
手っ取り早い方が俺は好きだが、経費が掛かり過ぎではないのだろうか。
俺の懸念とは違って、経費のことなどどこ吹く風で、皇一は俺たちに搭乗を促した。興奮はまだ冷めやらなかったが、自分の財布が痛まないのなら問題ないかと思い直し、陽菜の手を引いて、ヘリコプターに乗り込んだ。
ヘリコプター内の座席は一番前が運転席で、その後ろに座席が横二列、縦三列で、計六人分の席があった。
皇一の隣の席には、早智が猛ダッシュして、当然のように収まった。
「お姉ちゃん! 私の隣に座って!」
妹会長は姉の手を引いて、空いている席に座ろうとした。一見すると、微笑ましい光景だが、妹会長が一瞬、夏凛と目配せしたのを俺は見逃さなかった。この瞬間、妹会長の考えが読めた。夏凛を俺の隣に座らせて、早速イチャつかせる気だ。
「陽菜! 妹も良いけど、俺と隣同士で座ろう。カップルらしく!」
いつもは絶対に言わないようなセリフを吐いて、妹会長と張り合う。キッと睨まれるが、構うものか。お前の思い通りにはさせない。
「もう! あんたはいつもお姉ちゃんとイチャイチャしているじゃない! 今日は私に譲ってよ!」
「そんなことを言ったら、妹会長だって、家でいつも一緒じゃないか!」
「熱いねえ……」
「この二人、仲が良いんだね」
「止めなさいってば! 二人とも」
見兼ねた陽菜が止めに入ってくるが、俺と妹会長の大人げない争いはどんどんヒートアップしていった。
見苦しい争いの末、陽菜の隣には夏凛が座ることになった。俺と妹会長が後で揉めないように、両成敗の形を取ったらしい。俺にとっては、夏凛の隣に座らずに済んだので、まあ良しとしよう。
やはりヘリコプターは速い! 車だったら、どれくらいかかるか分からない距離をあっという間に進んでしまった。
一時間もすると、人気のない山奥まで俺たちを運んでいた。コンビニもない自然の光景に圧倒されていると、皇一が別荘に到着した旨を話した。
「お前の別荘って、とんでもないところに建っているんだな」
別荘があるのは周囲を崖で囲まれている場所だった。そこに一軒だけ西洋風の建物がポツンと建っていた。陸路で来ようと思った場合は、かなりの労力を要する。
「肝試し目的でやって来る連中が来られない場所を選んで建てたんだ」
なるほど納得! 見ようによっては、心霊スポットにも見えなくはない。交通の便が良い場所に建ててしまうと、暇な若者には格好の遊び場になってしまうだろう。
轟音と共にヘリコプターが着陸。俺たちを降ろすと、また行ってしまった。皇一によると、二日後の指定した時間にまた来るらしい。
「自力で家に帰るのは困難だな」
崖を見下ろしながら、ぽつりと呟く。
「陸の孤島に閉じ込められちゃったね……」
「推理小説だったら殺人事件が起こっているところね」
外界から遮断された空間に、陽菜が不安がり、早智が面白がった。
そんな小説みたいなことは起きないし、こんな不便な所なら殺人犯だってやって来られないと、陽菜を励ました。早智はガッカリしていたが、俺たちは楽しい旅行をしに来たのだ。血なまぐさいイベントはいらない。
陽菜が落ちつくのを確認すると、いつまでも外にいるのも暇だろうと、皇一が別荘の中に入るように促した。
断崖絶壁にある割には、別荘の中はきちんと整理整頓されていた。何でも定期的に業者が来て掃除しているとのこと。仕事とはいえ、こんなところに来なきゃいけない業者の苦労を思わず考えてしまう。
「ちょうど寝室が3つあるんだけど、どう分ける?」
別荘を案内しながら、皇一が部屋割りを提案してきた。俺たちに決めさせたら、絶対に揉めるということを分かった上で、部屋割りを相談してきたのだ。なかなか良い性格をしている。
またもや会長が真っ先に声を上げる。
「私とお姉ちゃん、皇一と鹿内さん、夏凛と残りで分けるのが一番だよ!」
人を残り呼ばわりするとは、妹会長もなかなか良い性格をしている。そこまで明確に喧嘩を売られてしまったら、もはや買わないわけにはいくまい。
「俺は、皇一と早智、俺と陽菜、夏凛とお前で別れるべきだと思うね」
「ムキ~~! 私とお姉ちゃんが離れ離れじゃない。絶対にダメ!」
これは宿命と言ってもいいのではないだろうか。俺と会長は争いを再開した。
「はいは~い!」
続いて早智が挙手した。
「私と皇一さん、優司、その他三人。これで良いと思います」
「何で俺だけ一人部屋なんだよ!」
「あら! あんたと私の都合を考えた上でのベストな部屋割りだと思うけど?」
それは嬉しいけど、極端すぎるだろ。女子が三人で一つの部屋に泊まるのに、俺だけ一人で一部屋を独占って、居心地も外聞も悪くなるわ。
皇一の目論見通り、部屋割りは荒れに荒れ、結局、俺と皇一、陽菜と妹会長、早智と夏凛の部屋割りに決まった。陽菜は妹会長に取られてしまったが、夏凛と一緒の部屋にならなかっただけでも良しとするか。というか、よくよく考えてみれば、同性の皇一と泊まるのが一番無難且つ的確な選択に決まっている。
「さ~て。部屋割りも無事に済んだことだし、次は夕食だね!」
「早いわ!」
まだ午後三時になったばかりだ。昼食を食べてから時間も立ってないから、そんなに腹も減ってない。
「つ、作る時間を考えたら、今からスタートするのが一番だと思っただけだよ!」
たじろぎながらも、妹会長が反論してきた。
え? 作る? 使用人みたいな人がいて、作ってくれるんじゃないのか?
皇一に確認すると、自分たちで作ることになっているので、料理人の類はいないとのことだった。
自分たちで食事を作らなければいけないと言うことに愕然としたが、涼しい顔で早智が前に出た。
「いいよ! カレーくらい私がちゃちゃっと作っちゃうから!」
カレーと言うと、以前、まゆと小島先生の作った恐怖のカレーが思い出されるが、今夜は心配する必要はあるまい。何故なら、早智がいるから! 昔から、家庭の事情で母親の代わりに料理を作ることも多々あったおかげで、頭の中はちゃらんぽらんでも、料理の腕は確かなのだ。ましてや、今日は愛しの皇一もいるのだ。万が一にも失敗はあり得ない。
妹会長と夏凛も、カレー作りに意欲を燃やしていたが、料理の腕を聞いてみると、まゆと小島先生の二人と同レベルと言うことが発覚した。紫カレーの再来を恐れる俺の猛反対により、陽菜と米を炊く作業に回ってもらうことになった。
俺の期待通りに、早智は鮮やかな手つきで、野菜の皮むき、カット、煮込みをこなしていく。火の通しもお手本に忠実で、ケチの付けようがない。あっという間に見慣れたカレーライスが完成していった。
「女子が料理を作るのを、首を長くして待つと言うのも良いね」
「うふふふ! おいしいカレーを作りますから、もう少しだけ待っててね❤」
新妻のような馴れ馴れしい口調で、早智は話しかけていたが、皇一は気にする様子もなく、無邪気に心待ちにしていた。
ご飯とカレーは同時に出来上がった。おかげで、両方とも熱々の状態で食べることが出来た。料理の出来は、カレーは申し分なく、ご飯は多少焦げ付いていたものの辛うじて合格。
早速皿に装おうとすると、妹会長がやってくれると言う。何か企んでいるような顔をしていたが、陽菜の手前、人数分の皿を手渡した。
会長は意外にも手際よくカレーを装っていった。てっきり皿を持つ手にカレーが付着するとばかり思っていたので、軽く驚いた。
テーブルに人数分のカレーと、冷たい水の入ったグラスが揃ったので、食べることになった。
一口頬張ってみると、予想通り美味しかった。だが、何かが足りない気がした。試しにもう一度口に入れてみる。味に問題はないが、何か足りない気がする。
よく見ると、俺のカレーにはジャガイモやニンジン、玉ねぎといった野菜ばかりが入っていた。対照的に肉が全く見当たらない。
会長のドヤ顔から察するに、意図的に野菜ばかり入れたものと思われる。これで、俺に対して嫌がらせをしているつもりらしい。アホだ……。発想がお子様すぎる。
「こら! 自分の分に肉ばかり入れるんじゃありません。ちゃんと野菜も食べなさい!」
「ふえええぇぇぇ!」
俺に野菜ばかり入れておきながら、自分のカレーには肉ばかり入れていたのか。この辺りはちゃっかりしている。
妹会長が陽菜からお説教を受けている間に、素早く一皿平らげると、今度は自分の手でカレーをお代わりした。もちろん、肉を多めに入れた。
最近、R15に該当する表現と、そうでない表現との境目が、あいまいになる時があるんです。執筆していても、この表現はR15に抵触しないかとか、疑問に思う時があるんですよね。この作品は全年齢対応で書いているので、死活問題なんです。うっかり抵触することがないように調べてみようと思います。




