第七話 彼女たちの弁当攻勢と美少女ランキング
遅筆の自分にしてはめずらしく連日で投稿します。まったり楽しんでいってください。
第七話 彼女たちの弁当攻勢と美少女ランキング
「最近、ホイケルのやつ、元気ないわね」
「ふむ。失恋くらいで落ち込むとは情けない」
「そのセリフ、失恋の原因を作った張本人が言うと、むかつくわね……」
その張本人を唆したのはお前とホイケル本人だろう。
「なあに、ホイケルなら心配ない。巨乳の女と街中ですれ違えばすぐに復活するよ」
「その話を女子である私の前で平然とやってのけるあなたの神経を疑うわ」
ほぼ平らに近い自身の胸を見ながら、早智は憎まれ口を叩いた。そんな感じで話していると、陽菜がやってきた。今は昼休憩の時間。中庭で一緒に昼食を食べる約束をしていたのだ。
「お迎えが来たみたいね。さて、お邪魔虫は去るとしますか」
早智は陽菜に向かって挨拶すると、去っていった。陽菜も挨拶していたが、どことなく面白くなさそうな顔をしている。
「どうした。早智の顔に変なものでもついていたのか?」
「優司君って、よく鹿内さんと話しているよね。一緒にいる時間が私より多いくらい……」
やっぱり早智のことで気を揉んでいるのか。あいつのことを女と意識したことはないし、これから先も恋愛感情を持つことはないだろうと思っていたので、陽菜と付き合うようになってからも、普段通りに接していたのだが、陽菜は面白くないらしい。
「ああ。家も隣同士だからな。家族ぐるみの付き合いなんだ」
「幼馴染みってこと?」
「そういうことになるな。幼稚園からずっと同じだし」
陽菜の表情が強張るのが分かった。
「でも、それだけだぞ。恋愛感情なんてないし、どこまでいっても、あいつとは悪友だよ。それ以上の関係にはならない」
複雑な顔で陽菜は頷いた。俺の言葉を信じ切っていないようにも見える。早智はからかい甲斐があって面白い奴だが、彼女の要望では仕方あるまい。今までより八割くらい接する時間を減らすか。もっとも隣人なので、完全に会わないようにすることはできないけど。
ああ、そうだ。互いの寝室の間には壁一つしかなくて、しかもその壁が薄くて、声が漏れ放題の状態だということは黙っておこう。
「中庭に行く前に購買部に寄ってもいいか? 俺、弁当を持ってきてないから、パンを買わないといけないんだよな」
「うん、知っているよ。でも、購買部に行く必要はないわ。作ってきたから」
そう言って、女子らしいかわいい弁当を俺の前に差し出した。
「え? これ、俺の分?」
「そうだよ。今朝早起きして作ってきたんだ。優司君の好みがわからなかったから、唐揚げとか、玉子焼とかの定番の具を入れてきたから、口に合うかどうか自信ないけど」
「そんなこと気にしなくていいって。うおお! ありがとう。手作り弁当なんて、初めてだ。マジ嬉しい」
俺が感激して素直な感想を口にすると、陽菜は嬉しそうに顔をほころばせた。
こうして、意気揚々と中庭に向かって歩いていく俺と陽菜の後ろ姿を物陰から見ながら、女子生徒がひとり呟いていた。
「先を越された……」
「優司君!」
昼食後、教室に戻ってくると、見慣れない女子生徒に声をかけられた。長い黒髪にまいたリボンを揺らしながら、緊張している様子だ。
「お弁当を作ってきたんだけど、一緒に食べない?」
「ごめん、俺、もう昼食べたから」
一応、彼女がいる身だ。それでなくても、謎の女子から脅迫を受けている身なのだ(本当に女子かどうかも疑わしいが)。これ以上、女子と関係を持ちたくなかった。
「え? そうなんだ。でも、もう一つくらいお腹に入るんじゃない。優司君って、結構食べるでしょ?」
「いや、俺の胃袋は人並み。加えて、もうお腹が一杯なんだ。ごめんね」
やけに食い下がってくると思いつつ、丁寧にあしらった。
「……お腹が一杯じゃ仕方ないね。ごめんなさい」
肩を落として、教室を出ていく彼女を見ると、心が痛んだが、あの弁当を受け取るわけにもいくまい。
その時、彼女が振り返って、小さな声でぼそっと呟いた。
「手紙、読んでくれたよね」
「え? ごめん聞こえなかった。もう一回言って」
「いいよ。たいした内容でもないから」
その割には目が真剣だった。絶対に聞き逃してはいけないことだった気がする。
その後、ジュースを買いに教室を出ると、隣のクラスの男子たちが俺を睨んでいる。
「あいつだよ。豊嶋さんが弁当を持っていったやつ」
「しかも、受け取りを拒否したんだって。信じらねえよ。俺らのアイドル、豊嶋まゆのアタックを邪険に扱うなんて……」
ひそひそ話なんだから、もっとボリュームを落とすべきだ。……こんなことをここ数日の間に何度も考えている気がする。その内、学校の全生徒に対して考えることになったりして。
でも、おかげで、さっきの女子の名前が分かった。豊嶋まゆっていうのか。……聞いたことがないな。後で専門家にでも聞いてみるか。
教室に戻ると、俺は専門家のホイケル君に声をかけた。陽菜に告白して以来、すっかり疎遠になってしまったが、話くらいはしてくれるだろう。
俺が声をかけると、失恋のショックで、土気色になった顔を俺に向けた。
「……何だよ」
心底不機嫌そうにホイケルが言葉を発した。言葉というより、地獄からのうめき声にも聞こえるが、そこはスルーしておこう。
「まだ怒っているのか」
「当たり前だ」
告白の一件から、もうすぐ一週間が過ぎようとしている。いいかげん機嫌を直してほしいものだ。男の嫉妬はみっともないぞ。
「用件だけ言ってとっとと消えろ。俺はお前の顔も見たくないんだ」
そこまで嫌わなくてもいいじゃないかという文句をグッと飲み込んで、用件を話す。
「実はお前の専門分野である美少女のことで聞きたいことがあるんだ。豊嶋まゆって知っているか?」
「豊嶋まゆ? 知っているよ。王泉ランキング総合五位の美少女だろ? 校内一の秀才で、美咲さんほどではないが、男子のファンも多い。」
美少女が専門分野であることは否定せず、豊嶋まゆの説明を始めた。自分から言い出しておいて何だが、美少女オタク呼ばわりされることは否定しておくべきだと思う。それより、聞きなれない単語が耳に入ってきたな。
「王泉ランキング?」
「我が王泉高校の千人を超える女子を、生徒の人気投票や、独自に集計したデータを元に、美少女研究会がランキング分けしたものだ」
またアホなものを。そんなものを作る暇があったら、女子に片っ端から告白していけばいいものを。この学校は女子だけでも千人を超えるんだから、物好きな誰かOKしてくれるかもしれないぞ。報われないデータの整理作業より意義のあることだともうがね。
「ふ~ん。それで、そのランキングには陽菜も入っているのか」
「当たり前だ。美咲陽菜は総合一位だ。彼女はすごいぞ。彼氏が出来たにもかかわらず、総合一位を死守しているからな。こんなことはありえないんだぞ。普通は彼氏ができるとランキングが急落するものなんだ。現に二位から十位までは彼氏なしだからな」
彼氏というのは俺のことか。まるで、俺のことを陽菜にまとわりつくマイナス要因みたいに言いやがって。
「ちなみに鹿内早智と蒼井七海は同列の十一位だ。二人仲良く、トップテン入りを逃している」
あの早智が十一位? 確かにそこそこかわいいと思うけど、十一位?
「そのランキング、見直した方がいいんじゃないのか? だっておかしいだろ。早智が十一位だなんて」
「失敬な! 美少女研究会が総力を挙げて集計したデータを元にはじき出された平等かつ神聖なランキングだ。一万分の一ほどの確率で、たまに間違いもあるが、信頼に足るランキングだ!」
早智がいたら、飛び蹴りが飛んでくるところだろう。実は密かに飛んでくるのを期待していたが、今回は何もなかった。ツッコミなしで、ボケ役のみというシチュエーションはつまらん。
「で? 豊嶋まゆがどうしたんだ? お前が美少女に興味を持つなんて、何かあったとしか思えん。話せ」
「弁当を作って持ってきてくれた」
言うが早いか、ホイケルに首を絞められた。本気で絞め殺さんばかりの勢いだ。
「ば、馬鹿! 力を入れすぎだ。死ぬだろ、離せ!」
「うるさい! お前みたいなリア充は死ねばいいんだ。美咲さんだけでも許せないのに、豊嶋さんまでかどわかしやがって!」
「誤解だ! 俺は何もしていない! 向こうが勝手に弁当を作って持ってきだだけだ」
「く~! その発言が許せん。美少女のいたいけな想いを踏みにじりやがって。殺す! そして、俺がお前の代わりに豊嶋さんに愛を説く!」
「何だかんだ言って、俺のことが羨ましいだけじゃねえかああぁぁぁぁ!」
「言い訳無用! 成敗!!」
それからしばらくの間、ホイケルと取っ組み合いの喧嘩をした。女子の情報を聞きに行っただけで、どうしてこんなことになってしまうのか謎だ。
それからしばらくして、教室に入ってきた教師に喧嘩両成敗で、お互いの頭をはたかれ、一喝された俺たちは、まだ殴り足りないのを堪えて、互いの席に戻った。
ホイケルに絞められたところをさすりつつ、机に手を入れる。すると、何かにぶつかった。
……前にも同じことがあったな。でも、今回は手紙だけじゃない。
弁当だった。置き手紙には、「お弁当を作りました。絶っっっっ対に食べてね❤ あなたのMより」。おいおい、お前まで弁当攻勢かよ。しかも、「あなたのM」って。頼むから、ちゃんと名前を教えてほしい。もしくは直接俺のところに来てくれよ。どっちにせよ、お腹がいっぱいだから、食べられそうにないけど、……この弁当、どうしよう。処理の仕方を間違えると、刺されそうで怖いし。でも、この弁当、どっかで見た気がするんだよなあ。
頭を悩ませていると、後頭部にくしゃくしゃに丸められた紙がぶつけられた。振り返って睨むと、早智が物欲しそうにこっちを見ている。投げつけられた紙を見ると、「その弁当、食べないなら、私にちょうだい❤」と書かれている。食い意地ばかり張りやがって、こんなのが十一位? 絶対にあのランキング、おかしいだろ。
すぐさま、「例のヤンデレ女からだ」と書き足した紙を早智に投げ戻す。俺からのメモを見ると、早智は一気に顔をしかめた。
他のランキング上位の女子生徒は、ストーリーの進行に合わせて、徐々に出していくつもりです。




