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岩見優司のリア充(?)な日常  作者: 霧島こう
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第六十四話 加速する悪ふざけと噂話

第六十四話 加速する悪ふざけと噂話


 美術室を出ると、辺りは真っ暗になっていた。


 いくらボディガードが二人いるといっても、この暗い中、女子を一人で帰すのも危ないので、陽菜を送っていくことにした。だが、陽菜から返ってきたのは、つれない返事だった。


「ここから先は女子の時間。男子禁制だよ!」


「でも、女子だけだと危険じゃないのか?」


 そこまで言ったところで、見覚えのある怖いお兄さんが俺の前に立った。


「この人がいるから安心だよ!」


 確かに。俺の百倍は頼りになりそうだ。というか、この人がそばにいれば、誰も寄ってこれないだろう。こうして面と向かって対峙している俺でさえ、心臓の動機が早くなっているのだから。お兄さんも男だけど、男子禁制はどうしたという突っ込みは喉の奥に引っ込めて、この日はここで別れることにした。


「詳細は明日の放課後までお預けだね!」


 思わせぶりなことを言いながら、陽菜は使用人を引き連れて、夜の闇に消えていった。




 翌日の教室でも、陽菜のコスプレ談義は続いていた。


 こうして見ると、まゆと弥生とのバトルを楽しんでいるようにも見える。この間、まゆが猛アタックしてきたときも、最初の方こそ、動揺して慌てふためいていたが、時間が経つにつれて、急速に落ち着いて行ってたし、肝は常人より据わっているのかもしれない。


「ねえねえ、優司くんはどんなコスプレにグッとくる?」


「は?」


 いきなりのリクエストに慌てたが、元々コスプレに興味のなかった人間なので、急に聞かれてもピンとくるものがないことを説明した。


 ここでふと思ったのだが、俺がスク水をリクエストした場合、使用人共々スク水になるのだろうか。やるんだろうな。だが、俺の趣味を彼女に自白すると言うのも、あまり好い気はしない。最悪の場合、ドン引きされそうで怖いし。




 放課後、陽菜が俺を引き連れて、まず向かったのは生徒会室だった。何でも七海にもコスプレを強要するために直談判に向かうのだとか。聞けば、昨日の夜に電話をして、コスプレをしてくれるように頼んだが、断られてしまい、学校で話しかけようとしても、避けられてしまっているという。思い返してみれば、授業が終わると同時に、逃げるように教室を後にしていたな。恐らく、陽菜から再度コスプレの要請が来る前に逃走していたのだ。


 さすがの七海も生徒会室にまで殴りこむとは思っていないだろうな。ただ、他の生徒会役員に見咎められて、処分の対象にならないか不安だ。陽菜が暴走して、生徒会役員たち(特にキレると手が付けられないと噂の生徒会長)が目の色を変える前に、退散するようにしよう。


「頼もう!」


 道場破りのようなノリで生徒会室のドアを開ける。中には七海の他に、会計の古賀がいたが、こちらをチラッと見ただけで、危惧していたような過剰な反応は見せなかった。とりあえず最初の関門はクリアしたらしい。


「まさか生徒会室にまで来るなんて……」


 陽菜の顔を見ると、七海は頭を抱えた。こいつが親友の陽菜に対して、こんな態度をとるのは大変珍しいことだ。よほど嫌なんだろうな。


「七海が良い返事をくれないからだよ!」


「あなたの頼みでも嫌なものは嫌なの」


 確かに、お堅い七海がコスプレしているところは想像できない。というか、したところで似合わなそう……。そこまで考えたところで、七海に思い切り睨まれた。


「良いじゃん。親友のために一肌脱ぐのも」


「馬鹿なことを言わないで。他人事だと思って」


「それなら私が行こうか?」


 七海の代わりに挙手したのは会計の古賀だった。


「個人的にコスプレに興味があるのよね」


「馬鹿なことを言わないで! 会長と副会長の耳に入ったら、大変な騒ぎになるわよ」


「副会長の碓氷さんは笑って済ませてくれるだろうけど、会長に知れるのは勘弁かな……」


 思い出したくないことが頭に浮かんでしまって、どことなく黄昏た表情で、古賀はコスプレを断念した。せっかく同志が増えそうだったのに、寸でのところで断念された陽菜は残念そうにしていた。


「とにかく! 私は着ないからね! ましてや、そいつに見られるなんて身の毛がよだつわ!」


 俺を指差して、七海が随分ひどいことを言う。


「ぶう……。七海の分からず屋……」


「何とでも言いなさい! ただし、いくら言ったところで、私の首が盾に動くことはないから」


「七海の鉄板バスト……」


「てめえのことだろうが、馬鹿内ぃいい!」


 こっそり陽菜の声真似をして、七海を小馬鹿にしようと目論んでいた早智に容赦ない罵声が飛ぶ。結構陽菜の声に似ていたのに見抜くとは。ていうか、早智。いつの間につけていたんだ?


「もういいじゃない。嫌がるやつに無理やりやらせなくても。大体こんなしかめ面を仲間にしたって良いことないよ。むしろ、魅力半減ね!」


「……そうだね! 鹿内さんの言うとおりだよ!」


「陽菜!?」


 陽菜にまでしかめ面を肯定されて、七海もたじろいだが、もう陽菜の目に七海は移ってないらしく、使用人二人の手を引っ張って、更衣室へ走り出していた。七海の協力が得られないと知った以上、もはやここには用がないらしい。


「今から着替えてくるから、優司くんをよろしく! 鹿内さん!」


「おうけい!」


「そ、そんな……。その役は私でもいいでしょう!」


 昨日自分がした、俺を見張る仕事をよりにもよって早智に奪われた七海は思わずよろめいた。早智は満足げにその様子を眺めながら、「仕事を選んでいるからよ」と、釘を刺した。怨敵に言われた七海は憎々しげに早智を睨みつけた。


「ははは! 相変わらず、君らって、仲が良いねえ。妬いちゃうわ!」


 古賀も面白がって、二人の争いを茶化した。「そんな訳ないでしょう」と同時に突っ込まれると、腹を抱えて笑いだす始末だ。


「もういいから行こうぜ」


 笑えないコントを見るのにも、いい加減疲れてきたので、早智を促して、生徒会室を後にしようとした。元々、ここに用があったのは陽菜であって、俺は何の用事もないのだ。


「み、みんな、あんたのせいだからね!」


 去り際に七海が憎まれ口を叩いていたが、相手にするのも面倒くさいので、無視して通り過ぎた。


「七海の奴、あんたのことをぼろくそに言っていたわね~」


 生徒会室を出ると、早智が七海に罵倒されていたことを指摘してきた。


「陽菜がいるのに、複数の女子に言い寄られているのが気にくわないんだろ」


「これからますます悪化するかもよ? この間も知り合いにあんたのことをしつこく聞かれたから」


「悪い噂を流して、諦めるように仕向けてくれ」


 これ以上、面倒事を広げたくなかったので、早智に頼む。こいつがちゃんと悪い噂を広めてくれるかどうかは分からないが、今は早智の良心を信じよう。


「どっちにせよ、これ以上激化するのは勘弁だな」


「そう? 私は面白いけど」


「勝手に言ってろ。ただし、もしかしたら、男子生徒や七海の妬みを買って、刺されて殺されるかもしれないが、その時はちゃんと花を手向けてくれよ」


「男子共はともかく、七海の方は落としちゃえば? あんたの魅力で」


「冗談でも笑えないね」


 七海を落とせるとは思えないし、落としたところで、陽菜と泥沼の展開を繰り広げるところなど見たくもない。




 美術室に行くと、弥生だけでなく、まゆも来ていた。


 まゆは女性用のスーツを着ていた。仕事に生きるキャリアウーマンと言った印象を受けた。弥生は人形さんみたいな恰好をしていた。よく聞いてみると、ファンタジー系RPGのヒロインを模した格好らしい。


「どう? 知的な感じがしない?」


 メガネをくいと上げて、まゆは大人のお姉さんの魅力で迫ってきた。同年代の女子から、年上の魅力で攻められてもピンとはこないが、成績上位者のまゆにはピッタリな格好だった。


「まゆも、弥生も、似合っているよ。どっちも可愛い」


 無難に褒めたつもりだったが、二人は予想以上に頬を染めた。予想外の反応に、慌てる俺を早智が意地悪そうに見ていた。たぶん内心ではもっとやれとか、思っているんだろうな。


「美咲さんは?」


「着替えてから来るって!」


「昨日もそうだったし、ずいぶん余裕ね。まあ、そっちの方が好都合だけど♪」


 そう言って、俺を見るまゆの顔は明らかに戦闘モードに入っていた。弥生も心なしか、獲物を見つめるハンターの顔になっている。


「いいねえ。私は何も知らないから、さっさとこいつに襲いかかってよ」


 早智に至っては、二人を俺にけしかけている。こいつなりに、泥沼を演出するために頑張っているのだろう。ああ、女でなければ、顔面に蹴りを入れてやるところなのに。


 自分が不味い立場にいることを悟り、どう逃げたものか考えていると、廊下の方から数人の足音が聞こえてきた。この足音には聞き覚えがある。陽菜たちがやってきたのだ。


「じゃじゃ~ん!」


 遅れて登場した陽菜は、光や陽菜と一緒に他の高校の制服を着ていた。何故か、楽器まで完備している。


「それは……バンドの格好か?」


「ビンゴ! 大正解だよ!」


 少し前に流行った女子高生が主人公のバンドの漫画にそっくりの格好をして、陽菜、光、日向の三人は立っていた。ただし、ノリノリなのは陽菜だけで、他の二人は昨日と同じように俯いていた。こんな状態では観客も白けてしまうだろう。しかも、バンドと言うなら、一人足りないし。


「もう一人、ドラマー役がいれば、万全の態勢だったのに、残念だよ……」


 陽菜も人数不足をしきりに嘆いている。七海を無理にでも引き入れようとしていたのは、そのためだったのか……。


「まあ、いいや。足りない部分は情熱で埋め合わせることにするよ!」


 一人だけノッている陽菜はベースを担当するらしい。どうせならボーカルをやればいいのに。


 ベースの音合わせで、爆音が美術室内に鳴り響いた時にある懸念が、脳裏に浮かんだ。学校側の許可を得ているのかと言うことと、こんなにうるさくして弥生の機嫌は大丈夫かと言うことだった。無論、大丈夫なわけなかった。弥生を見ると、怒りのボルテージが急激に上がっていくのが良く分かった。


「あんたら……、ここは美術部って言っているでしょうが……」


 バンドと言えば音楽だ。だが、場合によってはうるさいと捉えられてしまう場合もある。ましてや、素人の寄せ集め(しかも練習も、バンドの経験も一切なし)では、騒音にしかならず、弥生の怒りを買うのは必然と言えた。


「今すぐここから出ていきなさ~~~~~~~~~~~~~~~ぃ!」


 弥生の咆哮と共に、陽菜たちは美術室を追いやられてしまい、残されたのは俺と弥生だけだった。


「はあ、はあ……。良く考えてみれば、最初から、こうすれば良かった……。途中から余計なのが増えすぎたのよ……」


 怒り過ぎて息切れしながら弥生がとぎれとぎれに言った。確かに、モデルの俺と、描き手の弥生の二人がいれば十分だ。先に帰ってくれとメールを送ると、静かな中、この日の写生会が始まった。


 その日の写生会が終わって学校を出ると、制服に着替えた陽菜たちが待っていた。


「ちょっと悪ふざけしすぎたかな……」


「今度会った時に、謝っておくわ」


 それがいいと二人に言って、俺は帰路についた。陽菜とまゆを家に送ったので、家に着いたのはだいぶ遅くなってからだった。


 陽菜とまゆは、翌日5組まで行って謝ったらしいが、弥生も口が過ぎたと謝っていたらしい。大事にならなくて良かったと安堵した。ちなみに、この日から、俺が陽菜たちをそそのかして争わせているという妙な噂が流れ出したが、これはまた別の話。どうして、最近の俺は何かと黒い噂が流れやすい。俺の身に危険が及ぶ日が来ないことを祈るばかりだ。


今日は暑かったですね。暑いのは苦手なので、早く涼しくなってほしいと、夏を前に憂鬱です。

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