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岩見優司のリア充(?)な日常  作者: 霧島こう
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第六十三話 拡散するコスプレワールド

第六十三話 拡散するコスプレワールド


 ひょんなことから、俺を巡って三人の少女が争うことになってしまった。


 授業中は三人共、周囲の目を意識してか、大人しくしていた。活動を開始したのは、放課後のチャイムが鳴ってからだった。一般の生徒にとっては、煩わしい授業が終わり、待ち望んだ帰宅の時間の到来を告げるチャイムだが、ある三人の少女にとっては、試合開始を告げるゴングになっているようだ。


 まず、動いたのは陽菜だった。


「優司くん! 一緒に帰ろう、いつも通りに!」


 いつも通りと言う言葉を強調しつつ、帰宅を誘ってきた。俺の予想だが、まっすぐ帰るつもりはさらさらないのだろう。きっと、どこかに寄り道して、自分の魅力をアピールしてくるに違いない。だが、俺は申し出を断らざるをえなかった。


「悪い。今日もモデルになってくれって弥生に頼まれているんだ」


 授業中に送られてきたのも入れると、十通を超えるメールを送ってきていた。こんな時に、という意見もあると思うが、昨日、今後もモデルになることを了承しているため、断れないのだ。陽菜も同意した人間の一人なので、渋々引き下がったが、めげることなく、次の手に出てきた。


「じゃあ、それまで一緒にいよう❤」


 どうせ美術部が終わるまで暇なので、そっちの要求にはうんと言った。


「彼女の特権をフルで使わせてもらうわ!」


 誰に向かって言っているのかは不明だが(おそらくここにいないまゆと弥生に向かって言っているんだろうが、この際どちらでもいい)、決意表明をして、俺を屋上に引っ張っていった。




「ねえ……」


「何♪」


「どうしてあなたがここにいるの? せっかくの私と優司君のラブラブタイムを邪魔しないでよ」


「あら。屋上はあなた達二人専用の場所じゃないわよ。私がここにいるのを止める権利はない筈よ」


 驚いたことに、屋上にはまゆが待ち伏せていた。まあ、俺たちの屋上の使用頻度を知っていれば、あらかじめ予想して先回りすることも不可能ではない。加えて、まゆの言う通り、俺たちがここを独占する権利もないので、まゆをどこかに追いやることも出来ない。


 立ったまま固まっている陽菜の手を引くと、まゆの側に腰かけた。陽菜はまゆから離れたがっていたが、そうしたところで、どうせまゆが近寄ってくるに決まっているので、最初から近くに座ることにしたのだ。


「優司くん、ポッキー食べる?」


 座って一息ついていると、まゆがアーモンド入りポッキーを差し出してきた。せっかくなので、もらおうとすると、ポッキーの箱をさっと引っ込めて、代わりに自分の顔を近づけてきた。


「ん❤」


 手渡しではなく、口移しで食べさせてこようとしていた。もちろん、丁重にお断りした。


「じゃ、じゃあ、優司くんは私と……」


 二人の愛を見せつけようと、陽菜も口移しをしようとしてきたが、止めさせた。純粋な陽菜にはハードルが高かったようで、顔が真っ赤に染めている。


「気持ちは嬉しいけど、そういうのはなしでいこうか」


 このままルール無用でいくと、面倒くさい事態になりそうだったので、やり過ぎるなとやんわりと釘を刺しておく。陽菜も、まゆも、口では了承してくれたが、さて、どのくらい聞き入れて遅れているのだろうか。


 結局、携帯の対戦型ゲームで三人仲良く時間を潰した。




 さて、もうすぐ美術部が終わる時間が近づいてくると、陽菜がどこかに連絡しだした。断片的な会話内容を聞く限り、誰かをここに呼んでいるようだ。


 しばらくすると、弥生から電話がかかってきて、部活が終わったので、来てほしいとのこと。それと時を同じくして、七海が屋上にやってきた。


「待ってたよ、七海! じゃあ、私が戻ってくるまで、お願いね!」


「早く済ませてよ」


 状況を読み込めず、ポカンとする俺を置いて、陽菜はどこかに走って行ってしまった。トイレにでも行ったのだろうか?


 陽菜がいなくなると、七海は俺とまゆを交互に睨んだ。陽菜がどこに行ったのか説明してくれると思ってしばらく待ったが、無言のまま。


「そんなに睨むなよ」


「睨んでないわ。蔑んでいるだけよ」


 どっちも変わらないじゃないか。……いや、変わるか。蔑む方が良くない。


「やっぱり睨んでくれ」


「お断りよ!」


 厳しい蔑みの視線のまま、七海はきっぱりと否定した。蔑んでいるだけあって、冷たい。


「全く! あんたのせいで私まで迷惑だわ……。生徒会と学級委員の仕事がたまっていて忙しいのに」


「そりゃ、申し訳ない」


 謝りつつも、俺一人でも大丈夫だから、仕事に戻るように言ってみたが、こんな状況を招いておいて何を言っているんだと、呆れられた。陽菜と違って、七海の信頼はかなり薄らいでしまっているようだ。反省。


 弥生からすぐ来てメールが届いているので、屋上から美術室に移動した。美術室に着くと、弥生が描きかけの絵と一緒に俺の到着を首を長くして待っていた。


 俺が美術室のドアを開けると、すぐ嬉しそうにはにかんだが、後ろに続くまゆと七海の姿を確認すると、表情を強張らせた。


「てっきり美咲さんだけが来ると思っていたんですが、予想外のメンツですね」


「私もいてもいいでしょ。うるさくしないから」


「そういうことでしたら」


 目に見えないオーラで、互いをけん制しながら、表面上は穏やかなまま、本日の写生会はスタートした。




「お待たせ~!」


 十分ほどで現れた陽菜はメイド服を着ていた。横には制服姿の光と日向を従えている。七海のみが全てを知っていたようで、ため息を吐きながら陽菜を見てた。


「美咲さんのその恰好は何?」


 たまらず、まゆが陽菜にメイド服のことを問いただす。


「何って、メイド服だよ!」


「そんなの見れば分かるわよ! 私が聞きたいのは、どうしてメイド服を着ているのかってことよ!」


「一昨日、安く売っていたから、何かに使えないかと思って買ったの! 昨日試しに光に来てもらったら、思っていたより可愛かったから、私も着たくなっただけだよ!」


 唖然とするまゆの反応にご満悦な様子で、陽菜は説明した。


 陽菜が俺を誘惑する名目で着てきたことは明らかだ。昨日の俺は、そんなにいやらしい目で光のメイド服を見ていたというのか。魔法少女の服を着てくるという案もあったそうだが、体の一部分がきつくて断念したと、何故か落ち込みながら、日向が説明してくれた。自分の胸元を見ている気がするが、深く突っ込むのは止めておくことにした。


 まゆはしばらくためらっているようだったが、何かを決意したかのように、自分の服に手をかけた。そこに、陽菜から強い口調でストップがかかった。


「脱ぐのは禁止よ!」


「く……」


「一線を超えないようにして、戦おうか!」


 まゆは悔しそうに歯ぎしりしていたが、廊下に向かって走り出した。美術室を出る直前に振り返ると、一言叫んで出ていった。


「い、一旦出直すわ。また来るから写生会が終わっても、そのまま待ってて」


 ただでさえ、美術部が終わるのを待っているのに、さらに待てと言うのか? 一分もたたないうちに、猛ダッシュで校門を走り抜けていくまゆの姿が確認できた。コスプレ衣装をこれから買いに行くつもりなのか。俺のせいで、無駄な出費をさせてしまっているようで、申し訳ない気持ちになる。


「七海、ありがとうね。もう心配ないから、生徒会室に戻っていいよ!」


「その姿で大丈夫って言われても……」


 親友の変わり果てた姿に頭を抱えながら、まだここに居たそうにしていたが、よほどせっぱつまっているらしく、後ろ髪を引かれるように美術室を出ていった。去り際にまた蔑んだ目で見られたが、気のせいで済ますことにした。


「……ずいぶん似合ってますね」


「そう? ありがとう」


 似合っているという弥生の言葉は、恐らく本音に違いない。


「これでもきれいなものにはうるさいんです。今の美咲さん、写真に収めておきたいくらい綺麗です」


「うふふ! 光栄だよ!」


 陽菜は本気で嬉しそうにしている。俺は「昨日の仕返しに光たちがこっそり撮影を目論んでいるんじゃないのか?」とやじった。


「ああ、そういえば、そんなこともあったね。でも、光はそんなことしないよね?」


「は、はい。もちろんです」


 プレッシャーを放つ陽菜スマイルで見つめられながら、しどろもどろで光は受け答えをした。


 コトッ……。


 その時、光の足元にデジカメが転がった。室内の視線は、否応なくそこに集中する。


「……」


「こ、こここれは……、違うんです! 私は駄目だよ~って言ったのに、撮って来いって、奥様が! 奥様がああぁぁ~!」


 時々敬語がおかしいことになりながらも、必死に弁解しているが、それで陽菜が許す訳もなく、第二回コスプレ撮影会が無言のうちに決まってしまった。


 その後、陽菜の疑いは日向にも及んだ。自分は断ったと身の潔白を主張したが、それで信じる訳にはいかないと、日向の身体検査を入念に行った。その結果、光だけが黒だと判明させると、陽菜は光を真っ直ぐに見つめて、一言だけ呟いた。


「光。今日の帰りに買い物に付き合ってちょうだい❤」


「だ、だからあぁ、奥様が、奥様が~!」


「いいよね?」


「……ふぁい」


 怯えすぎて、しっかり発音できていなかった。妹に無言で助けを求めるが、巻き添えを食らっては大変だと、日向は視線を必死に反らしている。陽菜相手に若干タメ口になっているのを注意する余裕もないようだった。


 しばらくして戻ってきたまゆは、キャビンアテンダント(以下CA)の格好をしていた。「スク水でも良かったんだけどね♪」と言っていたが、陽菜が「脱ぐの禁止!」と目くじらをたてて制止していた。ライバル達のコスプレ姿を見て、弥生も触発されたのか、一旦美術部を出ていき、ナース姿で戻ってきた。どうしたのか聞くと、演劇部で借りてきたそうだ。


 メイド、CA、ナース。三人の女子生徒がコスプレをするという異様な空気の中、この日の写生会は始まった。陽菜の様子だと、明日、光がまたコスプレをしてくる可能性もゼロではないし、たまたま通りがかった生徒が見たら、さぞかし不思議な光景に見えるんだろうな。また変な噂が立つんだろうな。俺が着るように強制したというデマが流れないことを祈るばかりだ。


「気が変わった。光だけで止めとくつもりだったけど、日向もコスプレしよう!」


 向こうで陽菜、光、日向の三人が作戦タイムを開いている。がっくりと肩を落とした日向が垣間見えたが、見なかったことにしょう。美術室を出る時、「七海も誘おうかな……」と言っていたので、全力で止めた。ただでさえ、今の俺を蔑んでいるのに、コスプレまで要求したとなれば、どんな目に遭うか分からない。俺の説得に、陽菜は「検討しておく」とだけ答えていた。ちゃんと分かってくれているのか不安だ。


だんだんすごいことになってきました。18禁になってしまわないように、気を付けつつ、続きを書きたいと思います。七海と和解する話も早めに書くつもりです。気を長くして、お待ちください。

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