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岩見優司のリア充(?)な日常  作者: 霧島こう
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第六十二話 突然の告白 その後

第六十二話 突然の告白 その後


 放課後の美術室で、絵のモデルをしていたら、弥生が、俺が陽菜と別れたら付き合ってくれと言ってきた。


 弥生のいきなりの告白のせいで、美術室内の空気は一気に悪くなった。うずくまっていた光と日向も顔を上げて、俺と陽菜の動向に目を見張っている。


「いきなりどうした? 冗談にしては笑えないぞ」


 可能性はかなり低いが、冗談であることを期待して、さりげなく自制を求めてみたが、弥生は真剣な顔のまま、今の言葉を撤回しようとしなかった。


「……これ、ドッキリじゃないのか?」


「はい。冗談で予約なんてしないですよ」


 告白の予約と言う行為そのものが、既に冗談にしか聞こえないのだが、生憎と弥生は大真面目らしい。


「何があったのか知らないが、頭を冷やして、俺の顔をもう一度見ろ! これがお前と付き合うに値する男か?」


 実際に俺と付き合っている陽菜に対して失礼なことは百も承知で語りかける。


「大体俺のどこに惚れたって言うんだ。自分で言うのもなんだが、異性を惹きつける魅力なんて代物は俺にはないぞ。惚れた理由があるというのなら、教えてもらいたいくらいだ」


 仕方ないとはいえ、言っていて悲しくなってきた。弥生の目を覚ましたら、男子トイレにでも駆け込んで、一人寂しく涙を流そうかな。


「私が優司くんのことを好きになった理由はただ一つ。あなたが格好いいからです! 周りが何と言おうが、異性を惹きつけるのに十分な魅力です」


 気持ちが良いくらい、はっきりと言い切った。それ、早い話が外見に惚れたってこと? 俺、全然イケメンじゃないよ? 眼科に行って来た方が良いんじゃない?


「……否定はしないよ」


 弥生の話に陽菜が同意していたが、そこは否定しろよと内心で強く突っ込む。どうやら陽菜も眼科に行く必要のある人間の一人のようだ。


「優司君をモデルに絵を描いていてはっきりしました。すごくモデルに適した顔をしています。おまけに性格も良いですし、私好みなんです」


 弥生の熱弁に水を差すようで申し訳ないけど、それは全部思い違いだよ。俺より、ハンサムで、性格の好い人間なんて、星の数ほどいうぞ。まあ、ホイケルには勝っているけど。


「高坂さん、優司くんに猛アタックしているところ悪いんだけど、私の存在を忘れてない? そういうことを彼女の前で言うもんじゃないと思うけど」


「? だから、自重して、二人が別れてから告白すると言っている訳なんですけど」


 だったら、俺と陽菜が別れるまで、自分の気持ちを気持ちを完全に封印したままにしておいてほしい。カミングアウトのタイミングが滅茶苦茶なせいで、こうなっているんだぞ。


「それで、予約の件は許可してもらえますでしょうか?」


「……駄目に決まっているでしょ!」


 弥生本人は問題ないと思っているらしいが、すぐに陽菜が却下した。俺も同意見だ。断られた弥生は、表情を変えることもなく、飄々としていた。


「まあ、もしもの話ですので、そんなに重く受け取ってもらわなくて大丈夫です。それに、別れた後は、美咲さんにどうこう言う権利もないですし」


 陽菜が反対しようが、勝手にやらせていただきますと言うことだ。大人しそうな外見に反して、なかなか肉食じゃないか。


「念のために言っておくけど、私と優司くんが別れることはありえないから、待っていても無駄だよ!」


 陽菜も、弥生に負けじと言い返す。


 ちなみに、ここで弥生からの予約を受け入れた場合、浮気したことになってしまうのだろうか。……なるよな。今付き合っている陽菜より、弥生の方が好きだって認めているわけだから。


 奇跡的に、陽菜と弥生の口げんかは、この後ヒートアップすることもなく、これで一旦幕引きとなった。光と日向は陽菜に付き添って、何事か励ましているようだったが、陽菜は特に堪えていない様だった。


 結局、この日、俺の絵が完成することはなかった。明日以降も、同じような時間に美術室に来てほしいとのこと。告白の一件もあるので、断るという選択肢もあったのだが、陽菜は意外にも、明日以降の訳を聞くと、「私たちが別れなければいいんでしょ!」とのこと。陽菜の冷静な対応に俺の方が却って動揺したくらいだ。まゆの時はあんなに動揺していたのに、今回は妙に達観している。


「いいのか? 弥生が良からぬことを企んでいるかもしれないぞ?」


 帰り道に陽菜に聞いてみたが、「優司くんが浮気するわけがないから心配してない」とだけ言うと、俺の腕に寄り添ってきた。林間学校の下見の時のように、信じているということらしい。




 翌日、学校に登校すると、妙に騒然としている。どうも周りの(主に男子)俺を見る目が異様に殺気立っている。ここまで苛烈なのは、陽菜と付き合い始めた時以来か。最近、沈静化していたから、安心していたのに、一体何が周りの連中を怒らせたと言うのだ。


 腑に落ちないものを感じつつも、教室に入ると、早智が俺のところに飛んできた。


「聞いたわよ! 昨日の放課後、高坂さんの絵のモデルをしていたそうじゃない。おまけに告白までされたんですって?」


 秘密にしていた筈のことを開口一番に行って来たので、思わず飲んでいた牛乳を吹き出しそうになってしまった。


「その反応を見る限り、本当の様ね」


 素で反応してしまった自分の迂闊さを呪いつつも、どこから情報を仕入れたのか、早智に問いただした。早智は黙って教壇に立っている小島先生を指差した。成る程……。怒りをぶつける対象はやつでいいのか……。


 つかつかと殺気を放ちながら近づく俺に、小島先生は慌てて、事の経緯を話し出した。


「今朝高坂から話を聞いてな。豊嶋に伝えておこうとしたら、横で鹿内たちが聞いていてな。そいつらが校内中に噂をばらまいたんだ。決して故意でやったわけじゃない」


 言い訳にしか聞こえないことを言って、自分の潔白を証明しようとしてやがる。鉄製のバットがあれば、殴りつけてやりたい気分だ。しかも、まゆに喋っただと? 内緒にしておきたかったのに。ついでに言うなら、早智や、話を聞いていたという他の生徒も、校内に広める前に、俺に一言断ってほしかった。


 とりあえず手に持っているパック入りの牛乳をふっかけてやろうかと思っていると、教室中から歓声が上がった。


 何かと思って振り向くと、まゆが俺のところに向かって歩いてきていた。野次馬共からは、「豊嶋さんから正義の制裁が下るぞ!」とか、「調子に乗って、美少女を毒牙にかけているからだ。リア充ざまあ!」とか、いい加減なヤジが飛んできた。


「ふふ! お前の裏切りを知って、豊嶋がいても立ってもいられず、乗り込んできたようだな。後は岩見。貴様次第だ! ちゃんと訳を説明して素直に謝るんだ。間違っても言い訳などしないようにな!」


 いやいや、言い訳をしているのは、あんたでしょうが!


 事態を悪化させるだけ悪化させておいて、小島先生は真っ先に教室を後にした。後を追おうとしたが、その前にまゆが立ちはだかる。


「ねえ、五組の高坂さんに告白されたって話、本当なの?」


 嘘だよと言いたかったが、そうしたら今度は弥生に問い詰められることになってしまう。事実だと認めた。


「私の気持ちは受け入れてくれないのに……。高坂さんなら良いって言うの?」


「おいおい! 何も弥生と付き合うことになったわけじゃない。だからと言って、お前と付き合うこともないけど」


 教室からは、「豊嶋さんが可愛そう!」とか、「豊嶋さんとは遊びだったのかよ!」とか、非難の言葉が飛び交った。俺、おかしなことを言ってないよね。何でこんなにひどく言われなきゃいけない訳?


「違います! 告白ではなく予約です」


「高坂さん!」


 いつの間にか、弥生も来ていた。教室中を敵に回している俺をかばうように、まゆに昨日の経緯を話し出した。「直接対決だ」とか、「泥沼の修羅場だ。リア充、ざまあ!」とか、ヤジは相変わらずだが、面倒くさくなってきたので、もう聞き流すことにした。


「今優司くんは美咲さんと付き合っていますが、もし関係が破たんした場合、真っ先に告白させてほしいと予約を申し出ただけです」


 弥生の半径百メートル圏内が騒然となる。人気ナンバーワンの陽菜と付き合っているだけでも気に入らないのに、別れる事態になっても、別の美少女と付き合えることが約束されていることが校内の多数の男子の癪に触ってしまったのだ。そんな中、まゆだけは冷静に、弥生と対峙していた。


「予約とか、言い回しを変えてるけど、自分が優司くんのことが好きなことを伝えている訳でしょ。完全に告白じゃないの!」


「あ、そうか!」


 今、気付いたように弥生は驚いていた。


「まあ、そういうことなら、私が優司くんに告白したというのは事実ですね」


「じゃあ、私も予約する。高坂さんがよくて、私が駄目ってことはないよね♪」


 弥生があっさりと告白したことを認めると、まゆが俺を睨むようにきつい眼差しで見ながら、弥生に続いて予約宣言をしてきた。


「ちなみに、優司くんにアタックしているのは、私の方が先なんだから。だから、告白するのも交際するのも私が先だから」


「それはどうでしょうか。最終的に誰と付き合うかどうか決めるのは優司くんです。アタックを始めた順番なんて関係ないでしょう?」


「むうぅ~」


「どっちでもいいよ! とにかく、私と優司くんが別れることはありえないんだから、あなたたちの会話は不毛に終わるって決まっているんだよ!」


 まゆと弥生のバトルに、陽菜も参戦してきた。今回もっとも理不尽な目に遭っているので、怒りも人一倍らしい。


 だが、二人は、俺と陽菜の愛が永遠に続くとは思っていないようで、異口同音に不敵な台詞を吐いた。


「そうかなあ? 男の人の気持ちなんて、変わりやすいからねえ……」


「面白くなってきました。傍観するつもりでしたが、私もバトルに参加したくなってきました」


「……何度も言っているでしょ。無駄だって」


 二人の挑戦を受けて立つと言わんばかりに、陽菜が顔を紅潮させて言い放った。


 陽菜と、まゆと、弥生。三人の女子の間に火花が散っているのが見えるようだった。しかも、彼女たちが争っている原因は俺。俺のために争うなんて、不毛なことは今すぐ止めろと言いたかったが、彼女たちの気迫に圧倒されてしまい、蚊帳の外に追い出されている自分がいた。


優司をめぐって、恋の三つ巴のバトルが始まりました。彼は無事に、この難局を切り抜けることができるのでしょうか? それとも、さらに事態が悪化することになってしまうのでしょうか? ご期待ください!

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