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岩見優司のリア充(?)な日常  作者: 霧島こう
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第四十八話 お嬢様の逃避行 前篇

第四十八話 お嬢様の逃避行 前篇


 翌日の学校では、陽菜から当然のように、六聖館の学園祭について聞かれた。


「七海に聞いたんだけど、結局、六聖館の学園祭に行ったんだってね。どうだった?」


「親子丼をごちそうになった!」


「親子丼?」


 訝しがる陽菜に、俺は昨日のことを話した。


「ふ~ん。そんなことがあったんだ」


 さほど興味がなさそうに、陽菜はつぶやいた。


「あの親子丼は実に美味かった。陽菜も来ればよかったのに!」


「その親子丼には興味あるけど、皇一と一緒というのがね……」


 またそれか。


「本当に皇一のことが嫌いなんだな……」


「大嫌いだよ!」


 陽菜と七海の皇一嫌いは尋常ではない。過去に何かあったらしいことは分かるが、なかなか話してくれないので、俺の方から聞いてみようかな。


 陽菜に話しかけようとしていると、七海がやってきた。こちらの機嫌もすこぶる悪い。


「どうしたの? 機嫌が悪そうじゃない」


「ええ」


 否定しようともしない。


「何があったんだ?」


 七海の不機嫌の理由も気になったので聞いてみると、七海は席について、顎に肘をついた姿勢で、不満の原因を話し始めた。


「全く! マーメイドのライブが盛況だったって報告したら、あの馬鹿会長! うちもアイドルグループを組織して全国的に展開しようとか言い出したのよ。変なところで対抗心を燃やすんだから。付き合わされる身にもなれっての!」


 驚いたことに、うちの生徒会長はホイケルと同レベルの思考回路らしい。そんなんで、生徒会長が務まるのか、本気で不安になる。


 改めて、陽菜に皇一と何があったのかを聞こうとしたところで、授業の開始を告げるチャイムが鳴った。陽菜は俺に別れを言って、自分の席に戻っていった。仕方がない。皇一との過去話はまたの機会にしよう。




 授業が終わると、いつものように陽菜と一緒に帰ることにした。今日は早智と日向もいた。光は相変わらず取り巻きに言いようにされて、どこかに連れて行かれたので、今日もいない。七海は生徒会長に呼び出されたと言って、散々不満を漏らしながら、生徒会室に向かっていった。


「帰りにカラオケでも寄っていくか?」


「いいねえ。早智ちゃんの美声を響かせちゃうよ!」


 失恋のダメージはすっかり癒えたらしい。カラオケで憂さ晴らしをする気満々だ。


「最近遊んでばかりだね!」


「いくら遊んでも遊び足りない年頃だからな」


「でも、いつまでも遊んでばかりいるわけにも行かないよ」


 急に真面目な顔になって、諭すような口調で陽菜が言った。


「これから林間学校があって、その後、すぐに定期テストがあるからね。遊びに夢中で、勉強にうつつを抜かしていたら、赤点を取って補習を受けることになるよ。最悪、留年の危険もあるね!」


 林間学校か。小島先生とまゆの三人で、下見に行ったっけ。あの場所に、今度は陽菜たちと一緒に行くのか。そういえば和尚さんに、変なものを見るような目で見られていたけど、また会ったら同じ目で睨まれるんだろうか。テストの方は赤点を取ったことがないので、あまり危機感は持っていない。


「でも、定期テストが終わったら、すぐに夏休みだろ。また遊べるな」


「うん! たくさん遊べるね!」


 さっき俺に勉強を怠るなと言っていたのに、陽菜の頭はもう遊びのことでいっぱいだ。


 やれやれと思いつつも、歩を進めていると、あまり会いたくない人間と遭遇した。皇一の秘書にして、日向のストーカー、春日だ。


「やあ! また来ちゃったよ!」


 学園祭で見かけなかったから、存在を忘れていたが、日向を求めてまた来たか。日向を見ると、今にも逃げ出したそうな顔で固まっている。


「あなたは誰?」


 春日の素性を知らない陽菜は頭を捻っている。春日はそんな陽菜に自己紹介を始めた。


「僕は春日と言います。麻生皇一さんのところで、秘書をやっている者です」


 さすがにストーカーであることは黙っていた。彼女にもその程度の常識はあるらしい。


 まだ高校生なのに秘書を雇っているなんて、皇一はすごいなと、変なところで感心しつつ、陽菜を見た。皇一の名前を聞いて、陽菜からは友好的な態度が消えて、険しい表情になっていた。


「それで? 皇一の秘書さんが今日は何の用かしら!」


「実はね、麻生さんから、あなたを晩餐会に連れてくるように言われているんだ。さっき遊びに行く相談をしていたくらいだから、今夜の予定はないよね」


「予定はないけど、皇一のところに行く気はないよ。帰って皇一にそう伝えておいて!」


 予定通り、皇一の誘いを断った陽菜に、春日は気を悪くするでもなく、落ち着いた様子で次の言葉を吐いた。


「分かった。じゃあ、力づくで連れて行くとしよう」


 力づくって……。たかが晩餐会に招待するためにそこまでする気か?


「それでも、お断りだね!」


 陽菜はもう一度拒否の言葉を言うと、春日に背を向けて走り出した。もちろん、後を追おうとする春日を止めようとしたが、先に日向が立ちはだかった。


「……お嬢様、私が足止めしますので、お逃げください」


「恩に着るよ!」


 日向に感謝すると、わき目も振らずに、陽菜は廊下の曲がり角を曲がっていった。俺と早智は、陽菜と一緒に逃げるか、日向に加勢するか、考えあぐねて固まっていた。


「愛するお嬢様のためなら、苦手な僕とも組み合うなんて、見上げた使用人根性じゃないか!」


「……黙ってください。そして、この場から立ち去ってください。あなたと話すのは不快です」


「相変わらずつれないね~」


 日向と話しながら、横をすり抜けようとするが、日向のブロックに遭って上手くいかない。


「フフフ……。やるな」


「……どうも」


「このまま君とダンスを踊るのも良いけど、その間に陽菜ちゃんに逃げられちゃ意味がないな。ねえ、君たち! することがないなら、僕に加勢してくれないか?」


 こともあろうに、俺たちに陽菜を捕まえる手助けをするように要求してきた。当然、拒否! すると、春日は早智の方を向いて、悪魔の囁きをした。


「そういえば、皇一さんが君のこと、可愛いって言っていたな。今の彼女よりも可愛いから、君の方と付き合っちゃおうかなとかも、言っていたぞ」


「それ、本当❤」


「嘘に決まっているだろ!」


 見え透いた嘘話に引っかかる早智に頭を抱えながらも、早智の弱点を的確についた春日の頭脳プレーを幾分か称賛した。恐らく、皇一と上手くいくように裏で糸を引いてやるから、手を貸すように要求するつもりだったのだろう。


 早智の勧誘に失敗した春日は改めて日向と向かい合う。


「なあなあ、取引しないか?」


「……何ですって?」


「君が僕のおもちゃになってくれると言うのなら、今回の指令だけど……」


 そこまで春日が言ったところで、日向が発狂せんばかりに蹴りを彼女に何度も見舞った。よほど嫌だったんだな……。


「ふふふ……。ちょっとからかっただけで、この反応。ウブな子はやっぱりかわいいな」


 変態ぶりは相変わらずだった。日向も反射的に体を話すようなしぐさをした。その時、ビリッと電流が流れる音がしたかと思うと、日向はその場にうずくまってしまった。


「日向!」


「深海さん、どうしちゃったの!」


 心配して日向に駆け寄る俺たちに向かって、春日は得意顔でスタンガンを出していた。


「手荒い真似はしたくないんだけど、予定変更! ちょっと止まってもらった」


「汚ぇ……」


「ちょっと! 道具の使用は反則よ!」


 スタンガンなんてチートアイテムを持ち出してきた春日に、俺と早智は抗議をしたが、涼しい顔で春日は受け流す。


「僕は目的達成のためには手段を選ばないのさ!」


 それには激しく同意する。こいつはストーカーだ。目的達成のためには、相手の都合なんか顧みもしない。


 春日は俺達との話は終わったとばかりに、陽菜の追撃に移ろうとしていた。


「早智、陽菜を追うぞ!」


「おうよ!」


「日向! 動けるようになったら追ってきてくれ!」


「決して見捨てたわけじゃないから! そこは間違えないでね!」


 言い訳染みたことを早智が言っていたが、これでは見捨てましたと言っているようなものだ。


 駆け出したのは春日の方が一瞬早く、先行する春日を、俺と早智が追う形になった。


 早く陽菜に追いつかないといけないと思いながら、俺は全力で駆けた。


今回、残念な結果に終わりましたが、日向が初めてボディガードらしい働きをしました。陽菜の周りは危険でいっぱいなので、彼女の活躍の機会は今増えていく予定です。

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