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岩見優司のリア充(?)な日常  作者: 霧島こう
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第四十六話 皇一のお勧め

第四十六話 皇一のお勧め


「やあ! 今日は会場を案内できなくて申し訳なかったね」


 申し訳なさそうに、皇一は頭を書いた。


「気にしなくていいよ」


 確かに、皇一が先導してくれれば、みんなが道を空けてくれるので、いてくれれば助かると思った場面が何度かあった。でも、敢えて言うようなことはしない。


「そ、そうですよ。約束があるんじゃ仕方がないです」


 皇一を悩殺するために、早智はまた上着の胸元を広げようとしたが、慌ててやったせいで、第二ボタンが吹き飛んでしまった。


「……」


 約束されたように、気まずい沈黙が流れる。七海だけが早智の失態を鼻で笑った。


 胸が大きすぎて、ボタンを圧迫したせいで吹き飛んだのではないので、色気も感じられない。


「大丈夫? ほら、ボタンが落ちたわよ」


 七海は地面に転がったボタンを拾って、早智に近づいた。「……ごめん」と赤面しつつ受け取ろうとする早智の耳元に顔を近づけて、「ざまあ……」と囁いたのを、俺は聞き逃さなかった。早智は怒りと屈辱で、顔を真っ青にしていたが、皇一の前で怒鳴るわけにもいかず、グッと我慢していた。完全にメールの件の憂さ晴らしだ。


「やっぱり怒っているのか……」


「当然でしょ。私が辺りをキョロキョロ見る姿を見て、あなたたちは笑いものにしていたのが手に取るように分かるわ」


「あなた達って、ひょっとして俺に対しても、怒っているのか?」


「当然でしょ。自分は大丈夫だと思っていたのかしら?」


 思わず、俺は違うと言いそうになったが、良く考えてみれば、自分も七海を見て笑っていたのを思い出して、反論を思いとどまった。


「否定しないところをみると、間違いないみたいね」


「まあね!」


「開き直らないでよ! 少しは申し訳なさそうにしなさい!」


 俺の態度が癪に障ったのか、七海が声を荒げる。それを見て、止せばいいのに、早智が乗っかってきた。


「だって、本当に面白かったんだもの。七海さんが私たちを探している姿が!」


「馬鹿内ぃ~」


 だんだん怒りでヒートアップしてきたのか、早智と七海は険しい表情で睨み合った。俺にとっては見慣れた光景だ。取っ組み合いの喧嘩にならないことも分かっているので、慌てることもしない。


 俺はいがみ合う二人から視線を外して、皇一と向き直った。


「七海と何を話していたんだ?」


「単なる世間話だよ」


 世間話だけなら、俺たちも同席させてくれればよかったのに。


「彼女は生徒会の代表として来たんだよ。君らの学校の生徒会長に招待状を送ったら、彼女たちを出してくれたんだ。招待した側の人間として、しっかりと出迎えなければいけないからね」


 ようやく合点がいった。そういうことなら、仕方がない。あれ? でも、俺達も招待されてきた人間だったような。……まあ、いっか。これから接待してくれるみたいだし。


 そういえば、七海は生徒会役員も務めていたんだっけ。学級委員だけでも、忙しいと言うのに、殊勝な奴だ。


 それにしても、会長命令とはいえ、休日返上でよく来るよな。俺たちの学校の生徒会長は大層ワンマンな性格だと聞く。さすがの七海も断れなかったのか。


 俺は早智とまだ言い争っている七海を見て、気付かれないように注意しながら、密かに笑った。


 でも、それなら他の役員たちも来ている筈だけど、彼らの姿が見えない。


「他の生徒会役員たちは?」


「先に帰ったわよ。彼らとしても、馬鹿会長の見栄の張り合いに付き合わされるのに、迷惑しているの」


 面白くなさそうな顔で、七海が吐き捨てた。どうやら、会長のことがそんなに好きではないらしく、他の役員も同様とのこと。会ったことはないけど、そんなに人望のない人間が生徒会長だなんて。うちの生徒会は大丈夫か?


「と、ということは、碓氷副会長と、会計の古賀さんもいらしていたってことか?」


 荒い鼻息で、七海に顔を近づけて尋ねた。


「え、ええ……」


 突然の接近に、驚きつつも、七海は質問に答えた。


「くっ! せっかく間近でご尊顔を拝める機会だったのに、不覚!」


 さっきアイドルを見たばかりなのに、もう他の女子のことを考えている。忙しい奴だ。


「あの、顔が近いんだけど……」


 頻繁にかかるホイケルの鼻息に顔をしかめながら、七海が苦情を言った。ホイケルは「ああ、悪いな」と言って、素直に顔を離した。


 災難だったなと、七海を茶化そうとしたら、わずかに頬を染めていることに気づいた。……突然のことで、ビックリしたのか?


「あと、庶務の蓮杖君も……」


「ああ、あいつのことは話さなくてもいい。俺は女子にしか興味がない」


 ひどい言い様だ。お前を喜ばせるために、生徒会役員が六聖館に来たわけじゃないんだぞ。


「女子と男子で、ずいぶん反応が違うんだな」


「当然だ。何といっても、王泉ランキングの二位と十位だぞ。並みの美少女とは違うのだよ」


 こいつが女子に目がないのは良く知っている。王泉に通う美少女を順位付けした、王泉ランキングのトップテンに入っている女子には、さらに目がないのも知っている。そうか、うちの生徒会の役員が二人も、トップテンに入っているのか。王泉の生徒なのに、全然知らなかった。


「ふん! もっと視野を広げたらどうだ? もっとも美咲さんばかり見ているから、無理だろうがな!」


「そんな普段話をしないようなやつのことなんか、知るか! お前だって、高嶺の花よりも、もっと身近な女子でも狙ったらどうだ?」


「何を!」


 何気ない一言で、俺とホイケルまで言い争いを始めそうになってしまう。


 険悪な雰囲気を打ち消したのは、皇一だった。


「ねえ! 立ち話も何だし、そろそろいかないか?」


「ああ、そうだな」


 俺もホイケルも、ヒートアップし始めていた心を抑えた。そうだよ、喧嘩している場合じゃない。


「これから僕が校内を案内してあげると言いたいところだけど、もう一通り見て回ったんじゃないのかい?」


「まあね!」


 学園祭に来て、もうだいぶ経つ。いくら広いと言っても、一通り見る時間は十分にあった。


「それなら、学園祭を案内できなかったお詫びに、とっておきの料理を味あわせてあげるよ」


「やった!」


 何かされたわけではないので、特にお詫びなどしてもらわなくてもいいのだが、とっておきと聞くと、行かずにはいれない。他の三人も異論はないようだ。




 胸を高鳴らせながら、先導する皇一の後を追う。連れて行かれたのは、食堂だった。


「ここ……?」


「そう、ここだよ」


 皇一は無邪気な笑顔で、俺たちをテーブル席の一つに案内した。


 でも、ここは一度訪れている。その時、俺はカツカレーライス、早智はナポリタン、ホイケルはオムライスを、ドリンクは三人共アイスコーヒーを頼んだ。味は上手くもなく、不味くもなかった。ちゃんとした店で食べたら損した気分になるが、高校生が作ったにしては及第点だった。言いたくはないが、とっておきの料理があるようには思えない。


「その顔を見るに、僕の話を信じてないね。でも、これから出される料理を食べたら、考えを変えざるをえないよ」


 水を持ってきた生徒に、一言告げると、皇一はグラスに入った水を優雅に飲んだ。とっておきの料理とやらを、注文したらしい。それから、特に指示することもなく、俺達との雑談に興じた。狐につままれたような気持ちで、俺たちは料理の到着をただ待つしかなかった。


 十分くらい待つと、料理が運ばれてきた。それを見て、俺は呆気にとられた。


 出てきたのは親子丼だった。親子丼が嫌いなわけじゃないけど、とっておきというから、もっと豪華なものを想像していた。


「親子丼か……」


 失礼なことを口にする俺に気を害する様子もなく、皇一は食べることを促してきた。


「そう! ほら、食べてごらん!」


 皇一に促されるまま、俺たちは運ばれてきた親子丼に箸をつけた。しばらく無言で口に運ぶ。


「美味い!」


 絶品だった。さっき食べたカツカレーとは比べ物にならないほどに美味かった。まさにとっておきと呼ぶにふさわしい味だった。


 箸が止まらない。気が付いたら、あっという間にどんぶりが空になっていた。水を飲んで、顔を上げると、他のどんぶりも空になっていた。


「気に入ってもらえたかな?」


「ああ、大満足!」


 素直な感想を言う。皇一が満足そうに微笑む。


「でも、どうしてここまで味がいきなり変わるんだ?」


 美味くはないとはいえ、前に来た時に食べた料理は手を抜いて作ったようには見えなかった。


「作っている人間が違うからさ! ほら、出てきていいよ」


 皇一が厨房に向かって呼びかけると、奥から女子生徒が一人出てきた。ホイケルが「すごく可愛い!」と叫び、七海が睨む。でも、確かに出てきた女子生徒は可愛かった。陽菜にも匹敵するかもしれない。


 柄にもなく、じろじろ見ていると、一回見ていることを思い出した。


「その子って、ライブに出ていた子だよな」


 少女は恥ずかしそうに目を伏せたまま、俺たちに向かって深々とお辞儀をした。


「ご名答!」


 皇一はお見事だと、手を叩いたが、俺たちはみなポカンと口を空けて固まった。どうして、アイドルがここで料理を作っているんだ?


合計ユニーク数が一万を超えました! これも日ごろから読んでくださっている皆様のおかげです。ありがとうございます! これからも、執筆に邁進しますので、暇な時にでも読んでいただければ幸いです。

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