第四十三話 波乱だらけの学園祭
自分の高校時代の記憶を頼りに、今回の話を書きました。楽しんでいただければ幸いです。
第四十三話 波乱だらけの学園祭
余った2枚のチケットは、クラスの女子にくれてやった。二日連続で、校門に訪れた六聖館のイケメン生徒会長の噂が広まっていたので、是非一目見てみたいと言う女子が急増していたのだ。チケットを手にはしゃぐ女子をやや冷ややかな目で見つめながら、陽菜の許嫁だと言うことは黙っておいた。
当日は六聖館高校の最寄駅の改札前で、現地集合した。俺を含めて、集合時間の五分前には到着していた。いつも授業には遅れるか、時間ギリギリに席に着く俺達からすれば、この集まりの良さは奇跡に近い。
みんな揃ったので、出発しようと言うことになったのだが、その前に気になったことを指摘しておくことにした。
「ていうか、お前ら、何なの? その恰好は……」
ホイケルは上下スーツで、髪までオールバックで固めている。早智もこれから合コンにでも行くかのような渾身のお洒落をしていた。
「俺たちがこれから行くのは学園祭なんだぞ。お前ら、行くところを間違えてないか?」
「間違えてない!」
二人に思い切り否定された。
「お前こそなんだその恰好は! やる気あるのか!」
俺のいつもと変わらないカジュアルな格好が気に障ったらしい。怒鳴られてしまったが、いちゃもんもいいところだ。
「俺はもう彼女がいるから、無理に女子を意識する必要がないんだよ。今日は学園祭を楽しむために来たからいいのさ」
「くっ! これだからリア充は……! まあ、いい。俺も今日彼女を見つけて、リア充の仲間入りをするんだからな」
「私も皇一さんに見初められて、玉の輿に乗るんだから」
こいつら二人に、学園祭を純粋に楽しもうという気持ちはないらしい。不純な動機の塊だ。
俺が一人ため息をつく中、他の二人は意気揚々と先を歩いて行った。
数分後、六聖館高校の前で、俺たちは学校の大きさに声を失っていた。
「広いな……」
俺達の通っている王泉高校も都内有数のマンモス校で、それに見合う規模を誇っているが、この高校はそれをさらに上回っている。
校内にジムやコンビニまであり、体育館だけでも三つあるのだ。県外から来ている生徒のための寮も完備されていた。広いのは当たり前だ。この不況に時代に、よく都内にこれだけの敷地と設備を確保できたものだと、素直に感心する。
いつまでも立ち尽くしているのも、他の通行人の邪魔なので、さっさと入ろうとしていると、前を歩く通行人たちが一斉に道を空けている。何事かと思っていると、向こうから皇一が歩いてくるのが見えた。まさか、皇一が歩くのを邪魔しないように、みんなが道を譲っていると言うのか。その様は生徒会長と言うより、まるでモーゼだ。
「良かった。来てくれたんだね」
通行人の存在を気にせず、皇一は俺に話しかけてきた。自然と通行人たちから注目の的になる。こういうことには慣れていないので、緊張してしまう。
「ああ。せっかく招待してもらったのに、来ないと言うのはもったいないからな。でも、お目当ての陽菜は欠席。残念だったな」
「本人が嫌がっているなら仕方がない」と、あまり気にする様子もなく、皇一は余裕の笑みを絶やさなかった。
「出来れば陽菜にも来てもらいたかったんだけど、彼女の意向なら仕方がない。君たちだけでも楽しんでいってくれ。それに他の友人たちが来てくれただけでもうれしいよ」
「どうも……」
「そりゃあ、もう! 皇一さんに招待されたら、たとえ地球の裏側からだって駆けつけますよ! あ、私、美咲さんの親友で、鹿内早智と言います❤」
早智が羽目を外しすぎている。良く見ると、早智は胸元を露骨に露わにしていた。角度によっては中身が見えるぞ。まあ、皇一に見せるためにやっていることだろうから、注意しても無駄だと知っているけど。とりあえず、自制しろ。お前が色気をアピールしても空しいだけだから。それから、初対面なのに、皇一さんとか、傍から見ていても、馴れ馴れしいから。
「へぇ~、陽菜にこんなかわいい親友がいたなんて知らなかったよ。以後お見知りおきを」
見え透いた社交辞令なのに、早智はいたたまれなくなるくらいに頬を上気させて、興奮のあまり、今にも失神しそうだった。
皇一ペースで、会話が進む中、男子生徒がやってきて、皇一に何か耳打ちした。「そうか。もう来たのか。分かった、すぐに行く」と小声で囁くと、俺たちに向き直って、急用が出来たので、失礼すると言ってきた。
「済まないね。本当なら、招待した僕が君たちを案内するべきなんだけど、接客をしなくちゃならないんだ」
「仕方ないよ。生徒会長なんだから、仕事だってあるんだろ。俺たちは勝手に学園祭を楽しむから、気にするなよ」
「恩に着るよ」
そう言って、皇一は足早に去っていった。正直、俺は皇一がいてもいなくても、どちらでも良かったのだが、早智だけは心底残念そうにしていた。「私の色気は伝わったかしら。香水も付けてきた方が良かったかな?」としきりに呟いている。
心配するな。お前の存在なんて、もうとっくに忘れているだろうし、香水をかけたところで現実は変わらないよ。
皇一が去ると、道を空けていた通行人はまた無秩序に、思い思いの方向に歩き出した。見ていて、なかなか面白い現象だ。
「初めて会うけど、金持ちのお坊ちゃんって感じだな。どことなくいけ好かない。あれは絶対に女を泣かすタイプだ」
ホイケルにしては、なかなか辛辣な批評だ。泣かしている女がいるかどうかは謎だが、嫌っている女子なら二名知っている。
「そうかしら? 私には爽やかで素敵な好青年にしか見えなかったけど?」
そう言う早智の頬は相変わらず真っ赤で、目は¥マークと化している。もう完全に守銭奴モードのスイッチが入ってしまったようだ。
「賭けてもいい。やつは早智みたいな女子を何人も手籠めにしている!」
呆れた顔で早智を見ながら、ホイケルは断言した。そう言われると、確かに説得力がある。
その後、俺達三人で、当てもなく、学園祭で沸く校内を散策した。焼きそば、クレープ、綿菓子、お好み焼き、ホットドッグ……。どこの学園祭でもやるような出店が目立つ。金魚すくいがあれば、祭りの出店と間違いそうだ。
ちょうど小腹が空いてきたので、たこ焼きと焼きそばを、金を出し合って買い、仲良く頬張りながら学園祭を回った。
「六聖館の学園祭と言っても、他の高校とたいして変わり映えしないわね」
「まだ来たばかりだろ。断言するには早いぜ」
現にまだ四分の一も見ていないのだ。これから面白い掘り出し物が見つかる可能性は十分にあった。
「……ない。どこを探してもメイド喫茶がない! 学園祭の必需品なのに……」
穴が開くほど、パンフレットを見ながら、ホイケルが悲痛な叫びを上げる。
「学園祭って言ったら、メイド喫茶か、もしくはコスプレ喫茶があるものなのに、どこを見ても影も形もない」
「どこのアニメの話だよ。高校の学園祭で、そんないかがわしい店の出店が許可されるわけないだろ!」
こいつはアニメの見過ぎだ。ただでさえ、料理や接客で忙しいのに、その上、オタク向けのコスプレを積極的にやるとは思えん。俺の言葉が堪えたのか、ホイケルは力なくうな垂れたままだ。
「そんなにやりたいのなら、俺たちのクラスでメイド喫茶をやればいいじゃないか」
百パーセント、クラスの女子から猛反発を食らうがな。それでも、こいつはやるんだろう。悲しい男の性を抑えられずに。
意気消沈したホイケルに代わり、パンフレットを貸してもらった早智が、面白いものがないか探す。
「演劇部の出し物はシェークスピアか……。映画の鑑賞会に行く方が面白そうね」
「学園祭まで来て映画鑑賞かよ。そんなのは何もすることのない普通の休日にやれ」
普通の休日って何だよ。何もすることがないってことか。だったら、今日も普通の休日に該当するぞ。
「何だこれ? マーメイドの特別ライブ?」
「それ、知ってる! 六聖館の女子の中から選ばれた美少女四人組で結成されたアイドルグループで、今人気急上昇中なの! どの歌番組でもひっぱりだこって聞くわ」
自分の高校の美少女達をアイドルとして全国的に売り出しているのか。スケールが大きい話だが、教育委員会から苦情が来ないのだろうか?
「けっ! 王泉ランキングのトップテンの方が可愛いっての! うちらもアイドルグループを結成して、全国展開すればいいんだよ。そうすればマーメイドなんぞ、一捻りだ」
「トップテンの一人に、俺の彼女が含まれていることを忘れるな。一応、彼氏として全力で妨害させてもらう!」
「学園のヒロインはみんなのものだ。独り占めするんじゃない。このリア充が!」
そんな理屈は知らない。陽菜だって生きた人間なのだ。勝手にみんなの所有物にされても迷惑だろう。
「じゃあ、私が美咲さんの代わりにアイドルグループに入る!」
何故か早智が乗り気だが、あくまで仮定の話であって、実際にやるわけじゃないぞ。
結局、マーメイドのライブは無料と言うことも加わり、後で行くことにした。口では罵倒していたが、本来美少女が大好きなホイケルも、行きたくてしょうがないようだ。




