第三十七話 知り合いなのか?
第三十七話 知り合いなのか?
早智が持ってきたのは、三台とも、先日発売されたばかりの、最新のデジカメだった。
「まさか最新式のカメラを持ってくるとは思わなかった。高かっただろ、これ」
「買ったら高いよ。バイト先で売れ残ったのを残業代代わりに貰ってきたの。運が良かったわ」
いくら残業代代わりでも、最新式のデジカメをすんなりと渡す訳もない。無理を可能にするこいつの交渉術には脱帽するしかない。
「ネットオークションで高く売りさばくつもりなんだから、丁重に扱ってよ。傷をつけたら、弁償ね」
恐らくこれは冗談ではないのだろう。最新式のデジカメの弁償なんて考えられらない。一番安いものに替えてくれと言ったが、今から家に帰って持ってくるのが面倒くさいという理由で却下された。
「最初から弁償させるつもりで、これを持ってきたわけじゃないよな……」
「え~? 何を言っているのか、早智ちゃんには分からないなあ」
俺はホイケルと顔を見合わせて、ため息をついた。ホイケルが冗談で言ったことは、正解だったようだ。本当にがめつい女め……。徹底的にごねてやる。
気を取り直して、放課後の準備をすることにした。電脳オタクの早智と違って、俺はデジカメの操作に慣れていないので、練習をする必要があるのだ。
始めは景色を撮っていたが、物足りなくなったので、人を撮ることにした。
早速、陽菜にモデルを頼む。快く受け入れてくれて、こちらの要求通りにポーズを撮ってくれた。
「何をしているの?」
陽菜と楽しく写真撮影会をしていると、七海がやってきた。丁度良かったので、七海にもモデルになってもらおうと、交渉する。
「あなた、デジカメなんて持っていたのね」
七海は見慣れないデジカメに、興味津々のようで、顔を近づけてじろじろ見ていた。時折、笑顔さえ見せている。
「いや、早智に借りたんだ。はい、ピース!」
「じゃあ、私は馬鹿内のカメラに収められようとしているということね……。そういうことなら、撮影はお断りよ!」
早智の私物だって聞いた途端、態度を硬化させた。練習相手は陽菜で間に合っていたので、これ以上の交渉は諦めた。
そして、迎えた放課後。デジカメで武装した俺たちは、今日こそストーカーに一泡吹かせてやろうと意気込んでいた。
校門で集合していた俺達は、早智とホイケルの到着を待っていた。いつもは俺より先に来ているのに、今日はまだ来ない。何をしているんだと思っていたら、早智からメールが届いた。
何でも、持ち物検査に引っかかってしまい、職員室に連行されてしまったので、今日は行けそうにないとのこと。続いてホイケルからも同様のメールが届く。
そういえば、この学校って、デジカメの持ち込みは禁止されていたんだっけ。
光と日向に事情を説明する。中止にしようかと言う話も出たが、ストーカーの写真を撮るだけだし、向こうも俺たちの姿を見ると逃げるだけだし、問題ないと判断して、続行することになった。
尾行を開始してすぐに、いつも通りストーカーは現れた。
今日は、俺の存在に気づいていない。ずっと光たちを見ている。チャンスだ……。早速撮ってやろうと携帯電話を構える。
「何をしているの?」
いきなり横から声をかけられた。まゆだった。
「よ、よお!」
撮影に神経を集中させているところに声をかけられたので、どもった返事をしてしまった。
「どうしたの? そんなに慌てて。あら、デジカメじゃない。優司くん、カメラを使ったりするんだ。何を撮っているの?」
久しぶりに会ったこともあり、嬉しそうにまゆはあれこれ話しかけてくる。矢継ぎ早に質問してくるまゆに対して、俺は内心焦っていた。
まゆには悪いが、相手をしている場合じゃない。早くストーカーを撮らないと……。
挨拶もそこそこに、再度ストーカーをファインダーに収めようとしたが、もう彼の姿はどこにもなかった。
まゆの相手をしていたせいで、ストーカーの写真を撮り損ねた。
「くそ! 撮り損ねた!」
「え? 撮り損ねたって、私のせい?」
責任を感じているまゆに事情を説明すると、しばらく何か考えていたが、携帯電話を徐に取り出すと何やら操作して、画面を俺に見せてきた。
差し出された画面を見て驚いた。ストーカー男が表示されているではないか。
「これ……。取り逃がしたストーカーじゃないか! どうしてお前がこいつの画像を持っているんだよ!」
最悪、まゆが裏で糸を引いていた可能性も視野に入れて問いただした。
「え~とねえ。この人とはSNSで知り合ったの。以前オフ会で会った時に、この写メを撮ったわけ。名前は宇敷さん」
「知っているのか?」
まさかこんな意外なところに、ストーカーとの接点があったなんて。脱力しつつも、質問を続けた。
「どんなやつなんだ?」
「一言で言うと変態さんだけど、悪い人ではないよ。時々二人で食事に行くんだけど、よく奢ってくれるし……。あ、勘違いしないで。変な意味はないから」
「それ、援助交際じゃないよな……」
「違うって! 大丈夫だから」
必死にまゆは否定している。俺に誤解されまいとしているようだ。でも、俺はまゆの彼氏じゃないので、あまり気にしないけど。……あれ? 俺、今ひどいことを思ってなかった?
「うふふ。でも、優司くんだったら、お金をもらわなくても、あんなことや、こんなことを……」
「ごめんなさい」
「ああっ! 渾身の誘惑なのに、迷う素振りもなく即座に断られた!」
「相変わらず鉄壁の防御だね。私が付け入る隙が見えないよ。でも、一度彼氏にすれば、浮気しないってことの裏返しでもある。ますます君を振り向かせたくなってきちゃった♪」
紳士的に誠意をもって断ったのに、余計燃え上がらせてしまった。どうすれば、まゆは俺のことを諦めてくれるのだろうか。今の話の流れだと、まゆのアタックを受け入れればいいということか? いや、それじゃ浮気になる。駄目だ、駄目。
「なあ、まゆ。こいつと連絡を撮ることって出来るか?」
「うん。出来るよ。何かわけありみたいだから、デート一回で手を打つ……」
「それならいい。自分でどうにかする」
「ちょっと待って。冗談よ。優司くんの頼みなら、喜んで引き受けるから」
交渉決裂とばかりに、立ち去ろうとする俺を掴んで、まゆは強引に協力を申し出た。
「もう! つれないなあ……」
ぶつぶつ言いながら、まゆは宇敷と言う男に向かって、メールを送信した。
「宇敷さんへ
まゆです。先日の申し入れをお受けしようと思います」
これで終わりだった。何とも味気ないメールだった。まあ、そこはいいとして、気になったことを聞いてみることにした。
「先日の申し入れって……?」
「実はね。先日、共通の知り合いと食事した時に、この人からナースのコスプレをして、写真を撮らせてほしいって言われていたの。私には優司くんという心に決めた人がいるから、断ったんだけど、今回の件で利用できると思ってね」
学校一の秀才と言うまゆの優等生のイメージがどんどん崩れていく。たいしてショックは感じないが、あまり気分のいいものではない。
光と日向に、このことを伝えるために、携帯で連絡を取ったら、すぐに来るとのこと。……そういえばまゆのことはどう説明しようか。ご主人の恋敵だと正直に言うわけにもいかないしなあ……。
久しぶりにまゆさんに登場してもらいました。今回の話を読むと、彼女は軽い女だと誤解されそうですが、彼女は交友範囲が広いだけで、援助交際といった不純なことはしません。たまに迫られてもちゃんと断る子ですので、ご安心ください。




