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岩見優司のリア充(?)な日常  作者: 霧島こう
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第二十一話 下見旅行(二) 心配しなくても覗きませんから

今回はラブコメにありがちなあれの話です。

第二十一話 下見旅行(二) 心配しなくても覗きませんから


 電車を降りると、そのまま旅館まで移動した。歩いてすぐのところにあると言う先生の言葉を信用して、歩くこと一時間。先生が地図を逆さまに読んでいたせいで、五分で着くところをもう一時間かけて戻る羽目になってしまった。


「はあ、はあ……。やっと着いた……」


「私、もう歩けない」


「ぜえ、ぜえ……。ほ、本当に……。はあ、はあ……。済まなかった……」


 トータルで二時間歩いたせいで、三人共すっかり息が上がっている。これくらいで息が上がるなんて、運動不足だな、俺達。先生だけ以上に息が上がっているが、歳のせいだろうか。


「おい……。今誰か、私だけ歳だから息が上がっているとか思わなかったか?」


 ギロッと俺たちを睨んできた。何故考えていることがばれたのだ。すぐに、首を横に振り、自分は考えていないアピールをする。


 見ると、まゆも首を横に振っていた。首を振る勢いから察するに、まゆも同じことを考えていた可能性が高い。後で聞いてみよう。


「まあいい。とにかく、今はさっさと旅館にチェックインして部屋で休もう。のどがカラカラだ」


 先生の体力が限界に達していたこともあり、それ以上追及されることはなかった。


 フラフラした足取りでチェックインを済ませて(足取りがフラフラ過ぎて、旅館の人に変な目で見られた)、部屋に移動した。


 部屋は二部屋予約されていた。部屋割りは、一つが先生とまゆの相部屋で、もう一つが俺一人という具合に決まった。学生の身分で一人部屋は豪華だが、連れが女性二人では仕方がない。先生と相部屋など冗談じゃないし、まゆとの二人部屋は許可されないだろう。いくら先生が緩いと言っても年頃の男女を同じ部屋に泊めるほどではない。その程度の常識は先生にもある。


 荷物を部屋に置くと、夕食までは自由時間となった。今日は授業の後に来たせいで、もう時間が遅くなってしまい、林間学校の下見は明日と明後日で行うことになった。


 いつもなら旅館の中を探検と称して散歩するのだが、無駄に歩き回ったせいで、体力の限界に達しており、自分のリュックを枕にして、そのまま寝転がった。


(旅行なんて久しぶりだな~。最後に行ったのはいつだっけ? 中学の修学旅行だったかな? ……腹減ったな)


 電車の中でお菓子を食べたのに、もうお腹が鳴っている。陽菜のこととか、家のこととか、もっと思いを巡らせることがありそうなものなのに、空腹のせいで、頭の中は夕食のことでいっぱいだった。


 待ちに待った夕食は豪華とは言えないものだった。まあ、学校で指定するような旅館なのだから、そんなに高級であるはずがない。出てくる料理も、自然と簡素なものになるのは仕方のないことだった。刺身、てんぷら、酢の物、魚の煮物とオーソドックスなおかずに、ご飯とみそ汁の定番のメニュー。新鮮味はないが、変に創作料理を出されるより、こちらの方が良いのかもしれない。


 豪華さとは無縁で旨くはなかったが、不味くもなく、加えてご飯のお代わりだけは自由だったので、腹いっぱい食うことは出来た。


 夕食を食べ終えて部屋に戻ると、再び大の字で寝転がった。この部屋では寝転がる以外のことをしていない気がする。食べてすぐ横になると牛になると言われているが、そんな迷信に耳を傾ける俺ではない。ただ、何もせずに横になっているというのも暇なので、テレビをつけることにした。田舎なだけあって、チャンネル数は少なく、見たい番組は皆無だった。金を払えばエロチャンネルを見ることも出来たが、教師が隣の部屋にいる状態で見るほど、俺も馬鹿ではない。テレビの電源を消して、リモコンを放り投げると、本格的にやることがなくなってしまった。風呂でも入ろうかとぼんやり考えていると、先生がやってきた。


「何か用ですか?」


 出来れば早く済ませてくれればありがたい。


「話がある。ついてこい」


 いきなりついてこいと言われたので、どこに連れて行かれるのかと思っていれば、着いた先は男湯だった。というか、女性の先生が男湯に入っても大丈夫なのだろうか。男が女湯に入る場合ほどうるさく言われないだろうが、他の男性客が入ってきたら、騒ぎにはなる。まあ、今夜この旅館に泊まっているのは、俺たち三人だけだから、その可能性はほぼゼロだけど。今も無人だし。


「こんなところに連れてきて、何をさせる気ですか?」


 先生の性格が性格なので、ろくな用事でない可能性もある。連れてこられた場所が場所だけに、さすがに不審に感じて聞いてみる。


 俺の質問に答えることなく、先生は無言で壁に開いた微小な穴を指差した。


「覗いてみろ」


 覗いてみろって……。壁の向こうは女湯だよな。相手は先生だし、さすがにありえないだろうと思いつつも、言われたとおりに覗いてみる。


 悪い方の予想した通り、壁の向こうには、無人の女湯が広がっていた。先生を見ると、意地の悪そうな笑みを浮かべている。


「見ろ。ここから女湯が覗ける」


「……」


 良く漫画で女湯を覗ける穴を偶然発見する話を見るが、担任の教師から穴の位置を教えてもらうというケースは初めてだ。恐らくホイケルあたりなら、泣いて喜び、一生小島先生についていくと誓っているだろう。大概にしないと懲戒免職で教師をクビになるぞ。


「どうして穴の存在を俺に?」


「この穴をそのままにしておいたら、お前どうする?」


 質問には答えずに先生は自分の話を続けた。


「どうするって覗きませんよ。万が一、覗くにしても先生に言うわけないじゃないですか」


「そりゃそうだ!」


 先生は笑って去っていった。用事はもういいのだろうか。穴は開きっぱなし。塞がなくていいのだろうか。それとも、俺は試されているのか?




 部屋に戻ると、携帯電話が鳴った。ディスプレイには早智の名前が表示されている。


「もしもし」


「やっほ~。早智ちゃんだよ。私が傍らにいない夜はどう? 寂しくて泣いてない?」


「イタズラ電話なら切るぞ」


 本当に切ろうとしたところで、早智が慌てて止めてきた。


「ちょっと待ちなさいよ。本当に切ろうとしないで。あんたに用事があるんだから、せめてそれを聞くまで切らないで」


「用事?」


 こいつの用事がろくなものであるはずがない。面倒くさいので、やっぱり切ってしまおうか。


「え~とね~。今、あんたが行っている場所ってさ~。私の好きなアニメの舞台になったところなのよ。聖地ってやつ?」


 こいつがアニメ好きなのは知っている。家に行くと、俺がいるのも忘れて見入っていることも昔は良くあったからな。


「俺はアニメを見ないから、そんな情報は知らない」


「つれないな。まあ、いっけど。それでね~。あんたの泊まっている旅館の近くで、そのアニメのご当地限定のアニメグッズをお土産として売っている店があるのよ」


「そのグッズとやらを俺に買ってこいと?」


「さすが幼馴染み! 分かってる~」


 幼馴染みでなくても、話の流れで言いたいことは予想できる。お前だって、幼馴染みなんだから、俺がこれから言おうとしていることは予想出来ているよな?


「断る!」


「はっきり断言しないでよ! その店は午前一時までやっているから、こっそり宿を抜け出して買ってきてよ。ねえ、いいでしょ? 幼馴染みのお願い❤」


「うるせえ! そんなの知ったことか!」


 口汚く罵倒した後、強引に早智からの電話を切ると、俺は入浴準備をそそくさと始める。しばらくの間、携帯電話が鳴っていたが、無視して風呂に出かけた。




 さて、入浴。本来なら、クラスの男子共が大挙して押し寄せているはずの大きな露天風呂に、俺一人で手足を伸ばして、悠々と入る。


 隣の女湯から、誰かが体を洗う音が聞こえてくる。この旅館には俺たち三人しか泊まっていないはずだから、まゆか、先生だろう。


「優司君、聞こえてる~?」


 女湯から声をかけられた。今体を洗っているのは、まゆだった。


「聞こえているよ」


 返事を返すと、まゆが笑って返事をしてきた。そのまま、他愛もない世間話が始まった。


 世間話の内容は、本当に当たり障りのないもの。でも、俺の頭の中はそんなことどうでも良かった。ある想像が沸々と湧き上がってきたのだ。この壁一枚隔てた向こうには生まれたままの姿のまゆがいるんだよな。俺くらいの年の男なら、誰でも抱く不謹慎ながらも当然の感情。


 まゆと話しているうちに、どんどん俺の中で欲情の炎が燃え上がっていく。ふと、先ほどの先生の話を思い出す。女湯を覗ける穴……。どうする? 見るか? 悶々としたものを内に秘めながら、俺は自分の欲望と必死に戦っていた。


 ……などということはなく、俺は露天風呂に肩まで浸かって、温泉の疲労回復に聞くという効能を堪能した。俺も男だから、女の体に興味がない訳ではないが、覗きをしてまで見たいとは思わない。それより、今は風呂の方が大事だ。はっきりしたけど、俺は俗にいう草食系男子ってやつらしいね。もし、エロい展開を希望していた人がいたのなら、期待に添えなくて申し訳ない。


「じゃあ、私は先に上がるね。のぼせない程度にごゆっくり♪」


「ああ!」


 世間話が終わると、まゆの方が先に風呂から出ていった。もちろん、無人の女湯を除こうと思うはずもない。こうして何事もなく入浴タイムは終了した……と思ったら、先生がいきなり男湯に乱入してきた。


「よお! よく耐えたな!」


「な、何ですか、いきなり!」


 前を隠しながら、狼狽気味に答えるが、先生は目もくれずに、穴の前まで歩いて行った。そして、穴の前で身をかがめると、次の瞬間、先生目がけて、大量の水が降り注いだ。


「な……!」


 唖然としている俺をしり目に先生は話し続けた。


「罠だよ。女湯を覗こうとするやつが出ないとも限らないからな。だから罠を設置したんだ。これも下見の一環でね。悪く思わないでくれ」


 つまり、俺は実験台にされかけたのだ。まゆの裸見たさに穴を覗いていたら、俺がびしょ濡れになっていたのだ。


「ちなみに覗いていたらどうなっていたんですか? 水を被って終わりじゃないですよね」


「決まっているだろ」


 穴の存在を教えたときと同じような笑みを浮かべて、びしょ濡れのままで、こう答えた。


「先生特製の矯正プログラム行きさ!」


 見なくてよかったと心底思った。


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