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岩見優司のリア充(?)な日常  作者: 霧島こう
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第十七話 陽菜とまゆの邂逅 後編

攻略対象ではありませんが、新キャラが出ます。ハーレム要員も追加したいんですけど、思ったよりストーリーが進まないので、先送りになっています。気長にお待ちください。

第十七話 陽菜とまゆの邂逅 後編


 翌日の昼食の時間、いつもなら手を引っ張って屋上に移動するのに、今日の陽菜は目を瞑ったまま、黙って席に座っている。


「なあ。昼食の時間だけど、屋上に行かないか」


「お弁当ならここで食べよう! 別に屋上でなくても食べれるんだから構わないでしょ?」


 まあ、構わないけど。


 腑に落ちないけど、断る理由もないので、同意する。


「隣のクラスの豊嶋さんを迎え撃つつもりなのよ」


 七海が耳打ちしてきた。ちなみに、最近は周りが気を遣ってくれて、この時間は俺と陽菜の二人きりになることが多かったが、今日は七海と早智とホイケルも一緒だ。七海はともかく、早智とホイケルは注意が必要だ。エセ正義のキックを放とうとしたら、全力で阻止しなくては。


 この分だと、まゆが顔を覗かせようものなら、その瞬間にバトル開始のゴングが鳴るだろう。そういう面倒くさい上に、血なまぐさくなるようなことは嫌いで避けていたのに、いつの間にかこうなってしまった。


 一晩のうちに考え直して、俺のことを諦めてくれていないものだろうか。などと儚い希望を持ったが、無駄だった。


 ガラッと音を立てて、今日もまゆは入ってきた。


「こんにちわ、優司君! これから食堂に行かない?」


 あどけなさの残る童顔に、陽菜に匹敵する無邪気な笑顔。昨日の一件がなく、加えて俺に彼女がいなければ、申し出を受け入れて、一緒に食堂に行っていたに違いない。


 でも、それはもしもの世界の話。俺には陽菜がいる。


 俺の懸念などどこ吹く風でまゆはずんずんと、昨日と同じ歩幅で近づいてきた。


 そこに陽菜が立ちはだかる。


「優司君と食堂に行くことは出来ないよ。私がいるから」


 まゆの表情が一変する。


「私のことは知っているよね」


「ええ、もちろん! 何とかランキング一位で、優司君の今の彼女の美咲陽菜さんだよね」


「今だけじゃなくて、これから先もずっと彼女だよ」


「そうかなあ? 男子の気分は変わりやすいからねえ。魅力的な女の子が目の前に現れたら、心変わりすることも十分にあると思うよ」


 陽菜のこめかみにピキッと音を立てて青筋が浮くのが見えるようだ。


「まゆ! 言い過ぎだ!」


 思わず声が出てしまう。とても静観していられない。


「あ! ごめんね!」


 そう言って、まゆは笑ったが、俺に言われたから謝っただけであって、悪いと思っていないのは明らかだ。これからも隙を見つけては陽菜に対して挑発していくつもりだろう。


 遂にこの時がきてしまったと、俺は重い溜息をつく。


 不穏な空気を敏感に感じ取り、この時間は喧騒に包まれている教室内の空気もいつの間にか凍り付いていた。


 教室中の視線が陽菜とまゆ、そして俺に集中していた。


 予断を許さぬ空気の中、先に動いたのは、まゆだった。


「とりあえず優司君が食堂に来れないっていうのは分かったから、今日は帰るね」


 不利な状況を察したのか、意外に呆気なくまゆは身を引いた。


「今日だけじゃなくてこれからもだよ。ずっと優司君に付き添って、あなたの誘いを断り続けてあげるんだから」


 去りゆくまゆの背中に陽菜は己の意思を叫んだ。昨日の様子からすると、本当にする気だろう。


「そう上手くいくかなあ?」


 陽菜の宣戦布告に応えるように、教室を出る際、まゆはこちらを振り返って不敵な笑みをこぼした。陽菜が思わず全身を震わせる。


 そのまま、まゆは隣の教室に戻っていき、教室内には日常的な空気が戻ってきた。


「な、何? 何なの? 意味深なことを言ったって、私の勝利は揺るがないんだから」


 口では己の優位を宣言するも、まゆの去り際の一言に動揺を隠せないでいる。


「心配しなくてもいいわよ。俗にいう捨て台詞ってやつでしょ」


 固まる陽菜の背中を早智がポンと叩いて励ます。……あれ? これって、本来、彼氏である俺の役目のような気が。


「まあ、もしもの時は俺が美咲さんの新しい彼氏に……」


『じゃあ、屋上に行ってご飯にしますか~』


 まゆのことも気になるが、今は飯だ。早く何かを胃袋に放り込まないと、腹と背中がくっついてしまう。何か世迷言が聞こえた気もするが、気のせいだろう。どうした、ホイケル。一人だけ突っ立って。寂しそうな顔をしても、弁当の具は分けてやらんぞ。


 こうして屋上に向かう途中、七海が近づいて、他の三人に聞こえない低い声で、耳打ちしてきた。


「さっきの子だけど、気を付けなさいよ」


「え?」


「昨夜、私なりに調べたんだけど、彼女の家系って、とんでもないやり手揃いよ」


「……やり手?」


「横取りが得意な家系ってことよ。彼氏持ち、彼女持ちだろうと、自分が恋した相手は問答無用で奪い取る!」


 嘘だろうと言いそうになるのをグッと堪えた。


「信じてないようね。でも、事実よ。あの子、兄と姉が二人ずついるんだけど、みんな略奪婚よ。あの子の母親だって、婚約者が他にいたのに、あの子の父親に口説き落とされて結婚しているの。見方によっては、他人の彼氏彼女ほど欲しくなる人種みたいね。うかうかしていると、あなたもやられるわよ」


 横取りの家系ねえ。それで? その家計の血を受け継いだまゆも、家系に従って、陽菜から俺を横取りしようとしていると? 迷惑な話だ。


 ただ、俺は素直に横取りされてやる気はないね!


「デートの誘いはもちろん、アタックの類は全部断ればいいんだろ!」


「それが出来れば言うことなしだけど、彼女、結構な策略家らしいからね」


 七海らしくもない不安そうな顔をしている。万が一の場合を危惧しているようだ。俺にその気がないんだから、断り続けるのは難しくないと思うんだけど。




 まゆの作戦が明らかになったのは、昼食の後、すぐだった。


 昼食を食べ終えて教室に戻る途中、校内アナウンスで呼び出された。


 また説教かと、早智やホイケルにやじられつつ、職員室のドアを開ける。


「お~! 悪いな。昼に呼び出して! もう飯は済んだか?」


 俺を呼び出したのは担任の小島先生だった。


 飯の心配をするくらいなら呼び出さないでほしいものだと思いつつ、先生の機嫌を見るに、説教ではなさそうなので、ホッとする。


「昼食は済ませましたよ。昼寝はまだですけど。それで用事ってなんです?」


「ああ、用事な」


 髪を切ってきたのか、元々短い髪がさらにショートになっている。先生はコホンと咳払いすると、用事を話し出した。


「知っていると思うが、もうすぐ林間学校の季節だ」


 もちろん知っている。毎年この時期になると、体力が有り余っている早智が騒ぎ出すから。


「これも知っていると思うが、教師付添いの元、代表の生徒二名で事前に一泊して、問題がないかどうか、下見をすることになっている」


 それも知っている。そんな下見は先生だけでやればいいだろという感じだ。授業を休ませてまで、生徒が行く必要もないだろう。


「実はな。その下見役の生徒にお前が選ばれた!」


「へ~……。はあ?」


 俺が下見役に? うわ! 面倒くさい。というか、どうして俺? 下見役をやりたくて立候補する生徒は多いんだから、そいつらにやらせればいいじゃないか。


「そんな怪訝な顔をするな! これはお前にとって儲け物の話だ」


 意地の悪そうな顔をして、そっと耳打ちしてきた。


「実はな。もう一人の下見役である豊嶋まゆが、お前を猛烈にプッシュしてきたんだ」


 頭がクラクラした。去り際のあの不敵な笑みはこういうことだったのか。


「私の見立てではあの子はお前に気があるな。やるじゃないか、色男!」


 まゆが俺に気があることは、あなたに言われるまでもなく、もう知っている。本人から散々アタックが仕掛けられているのだから。


 俺と陽菜の関係を知らない先生は、親指を立ててエールを送ってきた。物分かりのいい先生なんだが、今はそれが裏目に出てしまった。


「ちなみに付添いの教師は私だ。心配しなくても、お前と豊嶋がくっつくように、サポートを惜しまないつもりだ。念のために言っておくが、私は狙うなよ。魅力的なのは分かるが、教師と教え子の壁があるからな。狙うのは豊嶋だけにしておけ」


 誰がお前なんか狙うか。冗談は寝て言え。ていうか、教師が生徒同士の不純な関係を斡旋するんじゃない。それでも聖職者か。


 デートの誘いなら断っていたが、先生からの指示となると断りづらい。どうする? 今までのことを正直に話してしまうか。そうすれば断れる!


 その時、無情にも授業開始を告げるチャイムが鳴った。


「おっと! もうこんな時間だ。早く教室に行かないとな」


「え? ちょ、ちょっと待ってください! まだ話が……」


「頑張れ、青少年!」


 ここで話を切られると困るのに、気付けば先生はもう廊下の向こうに移動していた。慌てて追うも、あっという間に見失ってしまった。


 くそ! やられた!


 反論も満足に出来ないまま、とんとん拍子で決まってしまった。まゆのペースに乗せられつつあることを自覚しつつ、七海の言葉を反芻した。


「気を付けなさい。彼女の家系はやり手揃いよ」


 忠告されたばかりで、この醜態。何が俺は大丈夫だよ。


 自分に不甲斐なさを呪いつつ、横取り上等の家系に恐怖のようなものを感じ始めていた。


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