第十一話 告白のすすめ
第十一話 告白のすすめ
翌日、早智がデートの感想をしつこく聞いてきたので、仕方なく話した。何がそんなにおもしろいのか、終始ニヤニヤしていた。
「小説のネタに出来そうね! やっぱりお金持ちと付き合っている人間が身内にいると、面白い話が聞けるから得だわ~」
などと不謹慎なことを言う。悪意がないのは分かるが、俺まで馬鹿にされた気分で、決していい気はしない。
「それで?」
幽霊のような顔で、ホイケルが聞いてきた。いつの間にか、俺と早智の会話に耳を傾けていたのだ。心なしか、全身が小刻みに震えている気がする。
「お前、大丈夫か? 今にも倒れそうな顔をしているぞ」
「けっ! お前に心配されるほどじゃないよ」
いつもの毒舌にも覇気がない。無理して言っている気がする。
「何? あなた、まだ美咲さんのことを引きずっているの? もういい加減、彼女のことは忘れて、新しい恋を始めなさいよ。未練たらしい男は見ていてもみっともないだけよ」
「美咲さんのことは、もうとっくに忘れているよ。余計な心配するな」
「その割にはずいぶんやつれているじゃない。ちゃんとご飯は食べているの?」
「食べているよ。いちいちうるさいな。お前は俺のお母さんか!」
「あんたの母親なんて冗談じゃないわ。悪友として心配しているのよ」
ホイケルは大きく息を吐くと、空いている席に座った。
「王泉ランキングの総合一位はもう優司に取られたけど、まだ下がいるじゃない! 次は二位を狙いましょうよ。それが駄目なら三位、四位を狙えばいいわ! あいつら、男子からのアタックが半端ないから、きっと断り方もうまいわよ」
「何でランキング上位から順番に狙っていくんだよ! しかも、フラれることが前提じゃないか! もう俺の気持ちとか、恋愛感情とか、関係なくなってきているだろ」
二人で勝手に盛り上がっている。早智に食ってかかっているうちに、幾分か元気を取り戻しているようで、悪友の一人として胸を撫で下ろした。
「それで? 結局あんたは誰が好きなの? もういるんでしょ? 新しく好きになった子が。早智ちゃんに話して御覧なさい。ねえ、ホイケル君」
まるで犯人を取り調べる刑事のように、ホイケルを尋問していく。ホイケルは早智に良いように扱われて、内緒にしていればいいのに相手の名前を話してしまう。
「五組の山下さんだよ」
聞いたことのない名前だ。その人がランキング二位なんだろうか。
「念のために言っておくが、王泉ランキングのトップテンには入っていないからな。俺がトップテンばかり狙うような男だと思うなよ」
釘を刺されてしまった。何故、俺の考えていることが分かったのだろうか?
「ねえ、何で私の考えていることが分かったの?」
早智も同じことを考えていたらしい。こいつと同レベルの思考なんて……。軽くへこむな。
気持ちを取り直して、詳しい話を聞くと、体育の時間にグラウンドを走っている彼女の姿を見て、一目惚れしてしまったらしい。
「何それ? 体目的ってこと?」
「うるさい。俺の気持ちはそんないかがわしいものではない!」
ホイケルは思い切り否定した。早智はまたニヤニヤしているが、お前の真剣な気持ちは俺がちゃんと分かっているから、安心しろ。
「よし! それじゃあ早速告白しますか」
「早速じゃないよ。山下さんとは話したこともないんだぞ。それで告白って、早すぎるだろ」
「案外成功するかもしれないわよ。告白成功率最高難度の美咲陽菜だって、ダメもとで告白したらOKを貰えたじゃない」
嫌なことを思い出したのか、ホイケルの顔が一気に曇る。こいつの前で、美咲陽菜の名前はタブーだ。
あと、ダメもとというと、語弊がある。あれはどちらかといえば、強制されたと言った方が正しい。
「じゃあ、告白しなくていいからさ。シミュレーションしようよ。もし、今日の放課後に山下さんに告白するとしたら、どう言うかシミュレーションするの」
「それはいいかもしれないな。俺も成行きで告白するとき、何を言えばいいのか迷ったから、あらかじめ考えておくに越したことはない」
「そうか?」
ホイケルは釈然としない顔をしていたが、俺と早智に押される形で、「第一回 告白の言葉討論会」が始まった。
「じゃあ、これが良いという言葉をどんどん上げていきましょうか」
早智が告白の言葉を促してくるが、そんなポンポンと出てくるものではない。黙ったままでいると、早智が催促してきた。
「難しく考えなくていいのよ。所詮、シミュレーションなんだから。頭を柔らかくして、楽にいきましょう」
そうだな。これはあくまでシミュレーションだ。深く考えないで、頭に思い浮かんだ台詞をどんどん話していこう。
「複数の女子も一緒に呼んで、「この中に一人、未来の彼女がいる」と宣言する!」
「僕はあなたからの愛が少ない」
「あなたの理想の男性が異世界からやってくるそうですよ」
「俺の想い人がこんなにかわいい訳がない!」
ホイケルが冷めた顔で睨む中、俺と早智の中二病気味の仮想告白の言葉が飛び交った。しばらく黙っていたが、我慢の限界に来たのだろう。ホイケルが重い口を開いた。
「……書店で見たことがあるような名前ばかりだな。しかも、言った瞬間、変態の烙印を押されるものばかりだ」
ラノベやアニメのタイトルを引用しているのが、すぐにばれた。早智も「テヘペロ♪」と言って、舌を出している。
「ていうか、俺に山下さんの前で、この言葉で告白しろと? 成功すると思うのか? お前ら、絶対にふざけているよな」
「まあまあ、試しにやってみてよ。どんな返答が来るのか、聞いてみたい」
「するかあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
全力で拒否された。まあ、当然だけど。
「結局、俺がフラれる姿を見て楽しみたいだけだろ。何がシミュレーションだ! 俺の気持ちを何だと思っているんだよ!」
ホイケルの怒りは至極当然のものだ。俺にも同じ経験があるので、気持ちは痛いほどよく分かる。ちなみに、その時とは立場が逆だ。
「もういいよ! お前らと何年議論したところで、不毛な努力で終わるということがよく分かった。自分で何とかするから、もう山下さんの話題を持ち出すんじゃない!」
そう言って激高した後、「もう帰る」と言って、本当に帰ってしまった。
なんだかんだ言っても、最終的に成否を分けるのは、自分の真摯な気持ちを相手にどれだけ伝えられるかにかかっていると思うので、事前の話し合いなどあまり意味はない。俺も早智もただ楽しく騒ぎたかっただけなのだ。
「俺達も帰るか」
「そうね」
残された俺達も、することがないので、後に続くことにした。
「ねえ、さっきから思っていたんだけどさ」
「何?」
「あんた、よく美咲さんにOKを貰えたわね」
「……確かにな」
ラノベをもじった告白の言葉しか思いつかないのに、よく成功したものだとしみじみ思う。恐らく、あの瞬間だけ、俺の中に眠る別の人格が目覚めていたんだろう。などと、相変わらず中二病染みた妄想を続けた。そろそろ本当に発症していないか、危惧した方が良さそうだ。
告白の言葉で盛り上がった数日後、まさかの事態が起きてしまった。山下さんに彼氏が出来たのだ。
詳しい内容はこんな感じだ。帰宅後、早智が校内SNSで、俺たちの間であったやりとりを面白おかしく公開した。それを見た別のクラスの男子が洒落のつもりで、全文をパクって、彼女に告白したのだ。そうしたら、奇跡的にOKされた。「言われた時は変態化と思ったけど、面白そうな人だから、試しに付き合ってみようと思った」というのが、山下さんの告白直後の言葉らしい。衝撃のニュースを耳にした俺たちはひたすら唖然とするしかなかった。
「あ、あははは……。気を取り直して、次に行きましょうよ。こういうほろ苦い経験を繰り返して、男の子は成長していくものよ」
俺と早智で、懸命に励ましたが、ホイケルはなかなか立ち直れなかった。当然か。
「そうだ! もうあなたが直接告白してきなさいよ。もういるんでしょ? 新しい好きな人が!」
数日前に聞いたばかりの台詞を早智がまた話した。
そんなすぐに新しい恋が出来るわけがないだろ。いくらホイケルでも当分新しい恋など出来るわけがない。早智のいいかげんなアドバイスを聞いて、眩暈がしたが、信じられないことに、ホイケルは新しい恋を始めていた。本気で心配していたが、案外放っておいても大丈夫なんじゃないかとさえ思った。
「そうだな……。さっさと告白すれば良かったんだ。最初からそうすれば、横から取られることもなかったんだ」
などと、うわ言のように繰り返している。精神的に参っているのか、病人みたいで、見ていて忍びない。
大体、冷静に考えてみれば、成功するわけがないことは分かりそうなものだ。いつもの俺と早智なら、間違いなく止めていたのだが、この時は逆に後押ししてしまった。ホイケルのあり得ない失恋の件もあり、意外に上手くいくんじゃないかと、根拠のない確信を持っていたのだ。もしくは、三人とも動揺していたのかもしれない。
ホイケルはその日の放課後に告白した。結果、フラれてしまった。「友達でいましょう」と言われていた気がする。物陰から告白する様を見ていた俺と早智は、もうお手上げと天を仰いだ。
そして、翌日から、ホイケルは学校に来なくなった。翌々日には出てくると思っていたら、また休み。そうして、ホイケルの欠席日数がどんどん増えていき、ついに一週間を超えてしまった。登校拒否というやつだ。
間を空けないで、続きを投稿する予定です。感想は絶賛募集中です。




