第百話 テスト直前! ~勉強、勉強、合い間に恋愛相談~
第百話 テスト直前! ~勉強、勉強、合い間に恋愛相談~
「痛い……」
今朝の乱闘騒ぎで負傷したところをさすりながら、席に着いた。くそ、妹会長め。本気で引っかきやがって。手加減しろって言うんだよ。
「ブブブ! 一段と男前な顔になったじゃないの!」
からかわれてしまったが、そう言う早智の顔もボロボロだった。念のために断っておくが、俺がやったのではない。俺を引っかこうとした七海と妹会長にどさくさ紛れにやられてしまったのだ。
「お前の婚期だって、さらに伸びたけどな!」
これはもうマジでホイケルに泣きつくしかないんじゃないのか? 笑うと顔のあちこちがヒリヒリ痛むのに、つい笑みがこぼれてしまう。
「私くらいの美人になると、これくらいのハンデがあった方が良いのよ」
などと訳の分からない強がりを吐いていた。減らず口を叩くだけの元気はあるようだ。
ふと、向こうの席の陽菜と目が合った。今日は俺の方から笑ってやった。それに陽菜も笑顔で返してくる。
「成行きで付き合い始めたくせに、だんだん良い仲になってきたわよね、あんた達。昨夜はマジで何があったの?」
「何もしてねえよ。寄り添いあって、おしゃべりしただけだ。聞き耳を立てていたお前が一番よく分かっている筈じゃないのか」
多少の皮肉も込めて言ってやると、早智は「確かに」と頷いていた。
他愛もない雑談が済むと、テスト前と言うこともあり、自主勉強を開始したが、俺の絶好調は続いてくれた。あまり好調過ぎて、テスト本番に失速してしまわないか、心配になるほどだ。
「どうしてこんなに絶好調なの?」
あんまり校長の状態が続くので、七海が不思議に思って問い詰めてきた。
「いつもは手を抜いているとか?」
「そんな訳ないだろ!」
そう思わないと納得できない七海の気持ちも分かるが、俺はいつも本気だ。大体進級できるどうかのボーダーラインにいる人間に手を抜く余裕がある訳もない。万が一、留年などと言うことになったら、もう一年分余分に学費を用意しなければならない母さんに殺されてしまうのだ。それを考えただけで、背筋がぞ~っとして勉強しているのだ。
「真面目にやっているといっても、テスト前限定なんでしょ。日頃から勉強していないから、した時の反動がすごいとか?」
優司ならあり得ないことじゃないと、みんな妙に納得していた。
「そういえば、優司くんってテストの日にすごく眠そうにしているよね。前日徹夜で勉強しているとか?」
「? それが当たり前なんじゃないのか?」
「そんな訳ないだろ!」とその場に居た全員に突っ込まれた。すごい勢いだったので、耳がキ~ンとなった。
前回までのテストが駄目な理由が判明した。テスト前の徹夜がたたっていたのだ。たいていの場合、テストの間は問題だけでなく、眠さとの戦いになる。
「努力の仕方を間違えていたってこと?」
あまりにしょうもない敗因に、みんなから同情の目を向けられた。
「あなた、良くそんな勉強法で進級して来れたわね……」
呆れているのか、感心しているのか、よく分からない表情で七海が言った。
「優司くんって、よくぼんやりしているけど、時々妙な奇跡を起こすよね!」
そんなふうに思われていたのか。俺に好意的な陽菜に言われると、早智や七海にからかわれるより、数倍ショックだ。
「じゃあ、体調万全で、しっかり勉強して受ける今回は死角がないってこと?」
「そういうことになるな」
だんだん今回はやれるんじゃないかと、やる気をみなぎらせながら頷いた。自分が登り調子であることを否がおうにも実感する。
「これは、今から優司くんのことをお兄ちゃんと呼ぶ練習をしていた方が良いかもね!」
自信満々の俺を見て、陽菜も乗っかってきてくれた。
「お姉ちゃん!? どうしてそんなに嬉しそうなの!」
姉の寝返りにショックを受けた妹会長が素っ頓狂な声を上げていた。
その後はまた、勉強を始めた訳だが、今までにないくらい捗った。ただ、妹会長のうわ言のみが気に障った。
「ぐう……、このままじゃ、このままじゃ……」
などと、呪文のように繰り返している。俺をお兄ちゃんと呼ぶのがそんなに嫌なのか。ほんのちょっと前まで、どうせ俺には無理だと思っていたために、自分が負けた時のことなど考えていなかったようだが、ここに来て意識してしまっているらしい。放っておいてもよかったのだが、いたたまれなくなってきたので、勉強を一時中断して話しかけた。
「あのさあ、嫌なら呼ばなくても良いぞ」
「え?」
「だから、言いたくなければ言わなくていいよ。お前が嫌々言うところとか見たくないから」
嫌々呼ばれても、呪詛のようにしか聞こえないからな。
俺に言わなくてもいい宣言をされた妹会長は意外そうな顔で俺を見ていた。てっきり「そういうことは勝ってから言え」と食ってかかって来るものとばかり思っていたのに。その後は妹会長にちらちら見られながらの、落ち着かない勉強を強いられた。何か言いたいことがあるのなら、言ってくれていいのにな。
テスト前日、授業と授業の間のわずかな時間に、悪友二人と談笑していた。
「はあ……、彼女が出来ん」
「テスト前になっても、そのことばかり頭にあるとは。全くぶれないな、お前は」
ただし悲願が成就される気配は未だにない。
「女子の誰かと賭けをしたらどうだ? テストで満点を取ったら付き合ってくださいって」
妹会長との賭けのことは話さないで、冗談のつもりで言ってやった。まあ、こんな賭けに乗ってくれる酔狂な女子などいる訳がないけどな。
「そ、その手があったか!」
冗談で言ったのに、本気で取られてしまった。幸い、「今からじゃ探す時間がない!」と嘆いていたので、実行に移すことはなさそうだけど。
「あんた、最近見境がなくなり過ぎよ。優司の冗談に本気になってどうするの?」
早智にまで呆れられていた。そろそろ末期かもしれない。
「同じモテない者同士、七海と付き合ってみると言うのはどうかしら? ホイケルの母親にも好かれているんでしょ」
「七海に聞かれたらどつかれるぞ」
良く考えてみれば、早智はホイケルの自宅を破壊している過去があるせいで、母親に嫌われている。だから、早智とホイケルのカップリングには無理があった。
「良い組み合わせだと思ったんだけど、駄目か……」
早智の顔をしみじみと見ながら、俺は呟いた。早智は「何よぅ」と言ってむくれていたが、気にするなと言っておいた。
初日以降、陽菜は夜に来ると言うことはなく(まゆの訪問は何度も受けた。部屋に招き入れるようなことはしなかったけど)、淡々と勉強をするだけの、文字通りのテスト合宿になった。
そして、テスト当日、合宿が終わったことを喜ぶ間もなく、テストをしなければいけないことにため息をついていると、「昨日はぐっすり寝たから大丈夫だよね!」と肩を叩いて励まされた。普通に考えれば、彼女から激励されているようにも思えるが、絶対に落とすなとプレッシャーをかけられているみたいで、冷や汗をかいてしまう。
まゆと弥生は、俺とは別の意味でため息をついていた。
「結局、優司くんとの距離を詰めることは出来ませんでした……」
もっと強引に迫ってくると思っていたので、肩透かしを食らった部分はあるが、俺としては助かった。おかげで勉強にも集中できたし。
「諦め……」
「諦めないのは自由だけど、今のやり方を続けても、私から優司くんを奪うことは出来ないよ!」
いつも通り捨て台詞を残して去ろうとするまゆに、陽菜が追い打ちをかけた。
「確かに。少しやり方を変えるべきかもしれないわね」
何か言い返してくると持ったのだが、不敵なことを口走ると、まゆは大人しく弥生と帰っていった。
「いいのか? たぶん面倒くさいことをしてくるぞ」
「大丈夫! 優司くんが私を裏切る訳がないもの!」
そう言って腕にしがみついてきた。そこまで信用されると、緊張するな。幼馴染みの早智にさえ、ここまで言ってもらったことはないし。
「うう……、眠いよ~!」
妹会長が眠気のせいで、フラフラの足取りで俺に寄りかかってきた。
「テスト当日なのに、よくそんな緊張感のない態度でいられるよな」
「優司だっていつもはこんな状態なんでしょ?」
「まあな!」
早智の言う通り、いつもの俺もこんな感じだ。俺との決定的な違いは、こんな頭でも学年トップクラスの成績を取ってしまうことだが。
「俺が賭けに勝った後、ちゃんとお兄ちゃんって呼んでくれればそれでいいよ。好きにお休み」
半分寝ている状態だから、何を言っても大丈夫だと高を括って、挑発してやった。すると、それまで眠そうにしていた妹会長の目がパッチリ開いて、俺を睨んできた。
「い、岩見優司こそ、私に殴られる準備を忘れないでよ!」
悔しさを噛みしめるように捨て台詞を残して、妹会長は去っていった。最近、優司と名前で呼んでくれることが多かったのに、またフルネームで呼ばれるようになってしまったな。距離が開いてしまったようで、なんか悲しい。
「これは意地でも賭けに勝って、お兄ちゃんと呼ばせるしかないな」
「どっちが勝っても、私的には笑えるけどね」
早智がからかってきたが、動じない。俺は勝つ。
断固たる決意の元、定期テストが始まった。
今回の投稿で100話に到達しました。ここまで来れたのも、日頃から私の作品を読んでくださっている皆さんのおかげです(あまり集中力のない人間なので、もし誰からも読んでもらえてなかったら、途中で断念していたでしょう)。これからも執筆に全力で挑みますので、引き続き読んでいただければ感無量です。




