第8話 最後の選択肢
第8話 最後の選択肢
特別法の期限が切れると、王国の裁判所には大量の記録が運び込まれた。
官憲の報告書、商会の帳簿、押収した書状、殺害された人々の名簿。中には、文字がかすれて読みにくい古い文書もあった。
ヴィヴィエンヌは机の上に証拠の一覧を並べた。隣ではセレディア王太子が、別の場所から届いた記録と日付を照合している。
「こちらの命令書に書かれた商会は、3日後に荷を動かしていますね」
「はい。でも、取引記録には別の日付が書かれています。発注した日と実際に移動した日を分けましょう」
ヴィヴィエンヌは証拠一覧の該当項目に、発注日と荷物の移動日をそれぞれ記入した。
科学館の展示解説や設計資料をまとめたときも、記録の条件が違えば、ひとつの表へ安易にまとめないようにしていた。今は調べる対象が違う。誤記ひとつで、その事件に関わっていない人間の名まで結びつけてしまうおそれがある。
2人は出所を確かめ、確認済みのものと、まだ疑問のあるものを分けていった。裁判で扱う証拠は、この段階で整理を終えておく必要があった。
王国の通常裁判では、調べを終えた証拠に基づいて、初めに主文を示す。被告人は異議を申し立てることができ、その主張を裏付ける資料が認められれば、主文は変更され、あるいは取り消される。争いのある記録は、異議の審理に先立って原本や関係者と照合する。法廷で初めて捜査を始める仕組みではない。
今回の被告人には、王国が費用を負担する国選弁護人がそれぞれ付けられた。特別法の期限は終わっている。通常の司法手続きによって裁かれる以上、死刑が予定される者にも、証拠を調べて異議を述べる機会が与えられる。
14日間の作戦で、末端の売人や組織員の多くは摘発されていた。今なお大貴族が多数残っているのは、彼らが軽い罪だったためではない。家族や家臣、取引先、地方に伸びた組織があまりに広く、ひとつの事件を調べると次々に別の関係者が現れる。大きな犯罪組織を率いた貴族たちほど、14日間では調べ尽くせなかったのである。
非貴族の事件には、別の法廷で扱われるものもあった。
この法廷に並ぶのは、大貴族たちと王弟夫妻だった。
開廷の日、法廷は早くから人で埋まっていた。
シャルロットは席に着く前に、書類を運ぶヴィヴィエンヌを見つけた。隣にはセレディア王太子もいる。2人は裁判官に提出する資料の順番を確認していた。
「ちょっと、ヴィヴィ! あなた何なのよ! どうしてここにいるの!」
彼女の声が響き、周囲の顔がいっせいに向いた。
「シャルロット被告、発言は許可を得てからお願いします」
裁判長が席につき、静かに告げた。
「でも、あの女が!」
「ヴィヴィエンヌ公爵令嬢とセレディア王太子殿下は、証拠書類の精査と整理に協力しておられます。審理の妨げになります。着席してください」
シャルロットは唇をかみ、席へ戻った。
ヴィヴィエンヌは書類を揃え、必要な束を所定の場所へ置いた。自分の机を見つめる王子に小声で確認する。
「こちらが先王の件、隣が出征時の記録ですね」
「ええ。原本と照合した控えもあります」
2人は目を合わせて頷いた。
裁判長は最初の被告を呼んだ。
「被告、某侯爵。主文。被告人を死刑に処します。刑は絞首によって執行します。あわせて所領を没収します」
場内がかすかにざわついた。
「異議はありますか」
侯爵は椅子から立ち上がった。自分の家が何代も王家へ仕えてきたこと、商会の取引については家臣に任せていたことを訴えた。傍らの国選弁護人も、侯爵が商会の実務を直接扱っていなかった点を挙げた。
裁判長は帳簿と書状の番号を読み上げた。
「こちらには侯爵ご自身の署名があります。家臣に一任していたというご説明と、どう整合しますか」
「それは、通常の業務の承認で……」
「その通常業務が、この支払いと結びつくことについて説明してください」
侯爵は次の言葉を探した。弁護人が書類をめくったが、侯爵の署名と殺害を命じた書状を覆す資料は出てこなかった。
「異議は認めません。主文のとおりとします」
次の伯爵にも主文が示された。
「主文。被告人を死刑に処します。刑は絞首によって執行します。所領を没収します」
伯爵は関係する商会の名を聞いて顔色を変えた。弁護人は取引先の帳簿について異議を述べたが、複数の書状と支払い記録が一致していた。話す内容を変えても、金銭の動きは変わらない。
ほかの貴族たちにも、同じように死刑の主文が告げられた。官憲や証人、その家族を殺害した実行犯だけでなく、標的を指定し、殺害を命じ、報酬を支払った者たちの記録も並べられていた。
ところが、ある貴族の審理では、国選弁護人が異議を申し立てた。
その男は薬物取引に関与したうえ、口を封じたい相手を4人選び、殺害を依頼していた。屋敷から押収された手紙には、依頼された者が官憲に射殺され、殺害を実行できなかったという報告が、事件ごとに残されている。裁判長はまず、死刑を言い渡した。
「主文。被告人を死刑に処します。刑は絞首によって執行します。所領を没収します」
「異議があります」
国選弁護人が立ち上がった。
「殺害の指示があったことは争いません。ただし、提出済みの照会記録では、4件とも依頼を受けたと称する人物の実在が確認できません。殺害の対象とされた4人の所在も、確認を終えています」
「4人は、どうなっていますか」
「全員、生存しています」
法廷の空気が変わった。
弁護人は官憲の記録を開いた。殺し屋が射殺されたと書かれていた日付を調べても、それに該当する射殺事件はなかった。押収された報告書は、官憲の記録を写したものですらない。殺し屋を名乗って金を受け取った詐欺師が、貴族へ送りつけていた偽の報告だった。
「それでは、私が支払った金は……」
貴族がつぶやいた。
「あなたが殺害の依頼料として渡した金は、相手に持ち逃げされています」
弁護人の答えに、貴族は口をつぐんだ。
4件とも同じだった。標的は生きている。依頼が本物の殺し屋に届いた記録もない。貴族は、殺害が失敗したという偽の報告をそのたびに信じ、金を渡し続けていたのである。
「殺害を命じた事実と薬物犯罪への関与は残ります」
裁判長は、提出された照会記録を改めて確認した。
「しかし、4件の殺害は成立しておらず、執行を請け負ったという者の報告も虚偽と確認されました。この異議を認め、死刑の主文を変更します。被告人を終身刑に処し、所領を没収します」
貴族は何か言いかけたが、言葉にならなかった。命を救われたのは、賢明に立ち回ったためではない。人を殺そうとして、4度も詐欺師に金を取られた結果だった。
*
別の法廷では、マフィアの下っ端の審理が進んでいた。
「主文。被告人を死刑に処します。刑は絞首によって執行します」
薬物を販売した帳簿が押収されていた。売った事実について、被告人も否定していない。
「異議があります」
国選弁護人は、取引が成立した後の荷の行方を示す記録を提出した。販売された薬物は、買い手に渡るまでの途中で対立する犯罪組織に奪われていたのである。
「横取りされた分が、その後どうなったかを確認しています。押収品と出荷記録の数量、包装の印が一致しました。奪った組織は保管したままで、市中へ流通させていません」
「販売の事実は残りますね」
「はい。しかし、この被告人が売った薬物が市中へ流れたという前提は、証拠と一致しません」
裁判長は記録を照合した。売買によって利益を得ようとしたことは明らかだったが、当該の薬物が人々の手に渡った事実は確認されなかった。
「異議を認めます。死刑の主文を変更し、被告人を終身刑に処します」
被告人は、両手を膝に置いたまま動かなかった。本人が望んだ取引の成否と、実際に起きた出来事の違いが、刑を分けた。
各法廷の国選弁護人は、ほかの被告人についても証拠を調べ、異議を申し立てていた。しかし、成立した殺人や組織的な殺害命令を覆す資料はなく、死刑の主文は維持された。死刑を免れて終身刑になったのは、詐欺師に何度も騙された貴族と、売った薬物を横取りされた下っ端の、各1人だった。
*
大法廷では、シャルロットが指先を握りしめていた。
自分より前に呼ばれた大貴族たちは、いずれも大きな爵位を持っている。その人々に、次々と死刑の主文が言い渡されていく。国選弁護人が付いても、殺害を命じた事実は消えなかった。
隣の王弟だけは、椅子に深く腰かけていた。
「あなた、平気なの?」
「当たり前だ。特別法は終わった。これからは正式な裁判だ」
王弟は法律を知っていた。通常の王国法では、王族に死刑も懲役刑も強制労働に当たる刑罰も科せない。時限立法はすでに失効している。今から法律を変えて、過去の行為へ遡って適用することもできない。
正式な裁判の席まで来た自分たちは生き残れる。王弟はそう確信していた。
シャルロットはその顔を見て、少しだけ息をついた。夫が落ち着いているのなら、ゲームの終わりはまだ決まっていないのかもしれない。
王弟の考えは、王国法のある条文に及んでいなかった。
国王の殺害または殺害未遂は、大逆罪として王族を含め身分を問わず極刑に処する。
彼は、その規定が自分の事件に結びつくとは思っていなかった。
「次。王弟殿下、およびシャルロット様」
裁判長の声で、法廷が静まった。
王弟は椅子から立ち上がった。シャルロットも続く。2人の国選弁護人も、手元の記録を開いた。
「主文。王弟殿下を死刑に処します。王族に認められる刑の執行方法として、毒杯による自害を許可します」
「シャルロット被告人を死刑に処します。刑の執行に先立ち、王族としての身分を抹消します。その上で、斬首によって執行します」
シャルロットは耳を疑った。
王弟は、裁判長を正面から見た。
「そんなはずはありません。私は王族です。正式な裁判で死刑を言い渡されるはずがありません」
王弟の国選弁護人が立った。
「王族の刑罰に関する免責規定を根拠として、異議を申し立てます」
「国王の殺害とその未遂については、王族も大逆罪の刑罰を免れません。毒杯による自害は、王族に認められる執行方法です」
「……国王殺害?」
裁判長は証拠を示すよう求めた。
ヴィヴィエンヌが先王の死に関する資料を渡す。担当官が読み上げたのは、先王の体調が急変した時刻、口にしたものの記録、毒物の入手と受け渡しを示す帳簿、関係者の証言だった。
使用された毒物は、致死量の数倍に相当する量だった。そこから偶然の取り違えだったという説明を組み立てることは難しい。シャルロットが先王の毒殺を主導し、自ら毒物を与えたことを示す記録と、王弟の関与に関する証拠も揃っていた。
裁判長は続けて、アルベール国王が内乱鎮圧に向かった際の記録を示させた。
国王に扮していた影武者が、味方の兵士に背後から刺されて亡くなった。刺客へ命令が届いた経路、動いた人物、準備に使われた記録が照合され、シャルロットの指示が殺害へ結びついたことも確認されていた。
王宮でシャルロットが国王を見た際、思わず口にした刺客の名も、その資料と一致していた。
殺害を企てられた国王本人は生存している。
王弟は、王族の免責規定が先王の毒殺と兄の殺害未遂には及ばないことを理解した。自分に残された王族の特権は、毒杯による自害を認められることだけだった。
シャルロットは立ったまま声を張り上げた。
「殺すつもりはなかったの! 本当に、そんなつもりじゃなかったのよ!」
「先王に飲ませた毒物の量について、どのように説明しますか」
「それは……」
「また、国王陛下を刺すはずだった人物について、シャルロット被告は自ら名前を挙げています。国王が生存していたことを知った際の発言です」
「だって、こんなはずじゃなかったの!」
シャルロットの国選弁護人は、殺害された影武者と生存している国王本人の区別を確認し、2件の殺害について主犯とされた根拠をただした。しかし、先王の毒殺も、アルベール国王を狙って影武者を殺害した事件も、シャルロットが計画と指示の中心にいたことを示す証拠は覆らなかった。
シャルロットは王弟を見た。王弟は口を開かなかった。
裁判長は記録を確認した。適用されるのは事件当時から存在した大逆罪の規定だった。王弟には王族として毒杯による自害が認められる。一方、シャルロットは刑の執行に先立って王族としての身分を抹消され、斬首となる。
シャルロットは必死に思い返した。こんな展開はゲームの攻略記事に書かれていない。最初から選択を間違えたのだろうか。ならば、やり直せばいい。
「待って! バッドエンド回避! 緊急リセット!」
法廷の誰も動かなかった。
「嫌! こんなんじゃないよ ごめんなさい もうしないから!」
王弟は隣に立ったまま、裁判長は書類に目を落としている。窓から差す光の角度まで、何ひとつ変わらない。
「両被告人の異議は認められません。主文のとおりとします」
裁判長が書類を閉じた。
「刑の執行は午後3時とします。閉廷」
*
4人は久しぶりに同じ食卓についた。
アルベールとエレオノール。セレディア王太子とヴィヴィエンヌ。食事が運ばれてくると、王太子は昔の学校の話を持ち出した。
「覚えているか。お前、歴史の課題を出し忘れて、ヴィヴィにノートを借りただろう」
「忘れてはいない。出す日を間違えただけだ」
「そういうのを忘れたと言うんだよ」
アルベールが反論しようとすると、エレオノールが口を挟んだ。
「そのときも私が、提出の日を確認するよう言いましたよね」
「……覚えているよ」
ヴィヴィエンヌが笑い、王子もつられて笑った。
しばらくは、学校を離れてからの話が続いた。アルベールの王国では、軍と官憲の再建が始まっている。薬物を使っていた兵士が大量に除隊したため、王宮の警護さえすぐに元へは戻せない。
「侯爵領から来た兵たちには、しばらく残ってもらう」
アルベールが言うと、エレオノールは頷いた。
「落ち着くまで、宮殿の警護を任せましょう。その間に、信頼できる人々を育てなければなりません」
「君にも仕事を増やしてしまうな」
「今に始まったことではありません」
その返事に、王子が笑った。
食事を終える頃には、4人とも昔のような口調で話していた。
マレーヌ川へ続く道を歩き、アレクサンドル3世橋の近くにあるベンチへ腰を下ろした。両王国が華やかに飾り立てた橋には、人と馬車が絶えず行き交っている。風は水面を渡ってくる。
こちら側の川岸には、アルベールが戻ったグランディール王宮が立っていた。向こう岸では、川沿いの建物の背後に坂道と赤い屋根が重なり、さらに上の丘からセレディア王宮が両王都を見下ろしている。橋に立つ人々の目には、2つの王都がひとつの街のようにつながって見えた。
作戦に参加したセレディア王国の兵士たちが、帰国の隊列を組んでアレクサンドル3世橋へ向かっていた。
アルベールが立ち上がり、手を振った。エレオノールとヴィヴィエンヌも続く。兵士たちはこちらに気づき、足を進めながら手を振り返した。
「本当に助かった。ありがとう」
アルベールは隣の王子に言った。
「お前から素直に礼を言われると、かえって調子が狂うな」
「言わない方がよかったか」
「それは困る」
エレオノールが笑った。
しばらく4人は、マレーヌ川のアレクサンドル3世橋を渡る兵士の列を眺めていた。
「ヴィヴィ、科学館の計画、認可されたそうね」
エレオノールが話を向けた。
「はい。王太子殿下と館長、それに予算を担当する方々のお力を借りて、ようやく書類がまとまりました」
「設計図も展示計画も、あなたが作ったと聞いたわ。大変だったでしょう」
「楽しい仕事でした。これから建てるものですから、運営を始めて何年もたったときのことまで考えています」
「あなたの語学力も、博物館で評判になっているのよね」
「最初は3枚だけでした。今は実習の学生の皆さんと、展示の解説プレートを訳しています。国によって文語の使い方も語尾も違いますから、細かいところまで確かめています」
王子が笑った。
「学生時代から優秀だったけれど、いまは科学館の展示だけでなく、行政の担当者まで君の書類を待っているよ」
「殿下がいらっしゃると、法律と予算の手続きが驚くほど早く進みますから」
「結局、2人で作っているのね」
エレオノールの言葉に、ヴィヴィエンヌと王子は顔を見合わせた。
王子が監修する「里の生き物たち」の区画では、カエルだけが妙に詳しいという話になると、アルベールは笑った。
「お前は昔から変わらないな。科学館でもカエルの説明を増やしているのか」
「子供たちに知ってもらいたいことが、まだいくつもあるんだ」
「その分の予算まで増えそうね」
エレオノールが言うと、4人は笑った。
やがて話は学校時代へ戻った。アルベールが歴史の課題を出す日を間違えた話をすると、王子は面白がり、エレオノールは相変わらずの様子に呆れた。ヴィヴィエンヌは懐かしそうに聞いていた。
川面に夕方の光が差し、街の窓に灯がともり始めた。
両国の侍従長が、それぞれ馬車を用意して迎えに来た。
アルベールとエレオノールは自国の王宮へ戻る。侯爵領兵が当面の警護を引き受けることになっている。
ヴィヴィエンヌとセレディア王太子は、マレーヌ川の向こうにあるセレディア王都へ帰る。王太子は彼女を公爵家の別荘まで送り、それから王宮へ戻る予定だった。
「では、また近いうちに」
「次は研究の話ばかりにしないでくれよ」
アルベールが言うと、王子が答えた。
「約束はできないな」
4人は笑い、それぞれの馬車へ向かった。
ヴィヴィエンヌたちの馬車が、アレクサンドル3世橋へ進んだ。
両国が競って整えてきた装飾が橋の両側に続いている。川岸のグランディール王宮を振り返ると、長い石造りの正面が夕日を受けていた。
アレクサンドル3世橋を渡った先には広場があり、その向こうに建物が並んでいた。前世で見たパリ市庁舎の前を思わせる景色だった。馬車が坂道へ向かうと、セレディア王都の家並みの上に丘の王宮が見えてきた。古い石壁と増築された屋根が夕焼けに重なり、窓いっぱいに広がっていた。
隣の席で王子が広げたのは、まだ建っていない科学館の平面図だった。
「『里の生き物たち』の展示、もう少し見直してもいいかな」
「カエルのところでしょう?」
ヴィヴィエンヌが微笑むと、王子は照れたように笑った。
「よく分かったね」
「殿下の監修ですから。でも、ほかの展示との釣り合いも見てくださいね」
馬車は夕暮れの街を進んだ。明日も博物館では、学生たちが解説プレートの仕事を待っている。科学館の建設はこれからだが、ヴィヴィエンヌにはもう、そこで子供たちが驚き、笑い、質問する声が聞こえるような気がした。
(本編完)
【スタッフロール後――後世の歴史家の記録】
その後、幾世代もの歴史家がアルベール王の治世を論じた。
残された記録を結果だけで整理すれば、国軍のおよそ半分を失い、王妃となるべく育てられた才媛ヴィヴィエンヌを犯罪の疑いによって国外へ逃れさせ、自ら選んで寵愛したシャルロットさえ異母弟の王弟に奪われた国王となる。王宮を麻薬マフィアに侵食され、治安回復をセレディアの兵と官憲に頼ったことも、史料に残っていた。
後世のある歴史家は、彼を「類いまれなる愚王」と記した。
同じ史料には、国王を救った人々の名前も残っている。かつて国外へ逃れたヴィヴィエンヌ、留学時代の同級生だったセレディア王太子、そして幼い頃から国王の世話を焼いてきたエレオノール。彼らが互いに連絡を取り、王国を取り戻す仕事を支えたことも、消しようのない事実だった。
後世の評価がどうであれ、アルベール王本人はエレオノールと結ばれた。その後の宮廷記録には、しばらくは継続していた王妃教育の予定を忘れかけて王妃を行政業務に誘いエレオノールに注意された話が、折に触れて出てくる。
歴史家は彼の業績に厳しかったが、彼の友人たちは、最後までアルベールをよく知っていた。




