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中学生な2人

「ねえ、俺今度の夏休みに母さんのおじいちゃんちに行こうと思ってるんだけどいいかな」

 中学2年生になった遥翔は、食事は必ず全員でと決めてくれている父と祖父母に夕食時にそう告げてみた。

 夏休みに入り、来年が受験を控えた夏休みということもあって、今年行くしかないと考えてのことだった。

「何年振りかな、5年?6年?俺が小2以来だから6年かな。随分行ってないね」

 廉遥も手を止めて

「そんなになるのか。向こうのお義父さんお義母さんにもご無沙汰してるなあ」

 と、最後に会ったのは3回忌だなと思いを馳せる。

「お元気そうよ。一昨日お中元のお礼のお電話いただいたわ。このお魚も、瀬戸のお母さんからなのよ」

 毎年盆暮に、及川の母と弥生の実家瀬戸の頼子はお届け物を届けあっていて、その度に声を聞いてはいるが、廉遥たちは声すら聞いてはいなかった。 

 祖母麻里子がいただいたという魚を口に入れながら遥翔に教えてくれた魚は、確かに美味しい。ーあちらはお魚が美味しいわねーと嬉しそうに麻里子はたべていた。

「いいなあおばあちゃん、俺のいる時に電話してよ今度」

 小さい頃から瀬戸の祖父母に懐いていた遥翔は、13歳になってもまだ向こうのおじいちゃんおばあちゃんは忘れずにいて、毎年1人で電車に乗れたら…と思い、過ごしてきた。

 今年はその決心がついたらしかった。

「どのくらい行ってるんだ?」

 廉遥が食事を再開する。

「1週間くらい行こうかなって思って」

「連絡はしてあるのか?」

 2人していただきものの魚を夢中で食べながらの会話だ。

「一応LIMEで言ったよ。喜んでくれた。30日から行ってくるよ」

 祖父母、と廉遥の3人は一斉に壁のカレンダーを見て、

「明後日じゃないか」

 祖父がつぶやくと

「うん、明後日だけど」

「そういうことは1週間前くらいに言ってちょうだい。お土産やら色々準備があるのよ」

 麻里子が箸を置いて、ー食べてる場合じゃないわーと携帯を取り出し、まだ18時の折り、和菓子屋やデパートへ連絡を入れて、何かを注文し始めた。

 嫁が亡くなって以来お邪魔する場所ということで、麻里子なりに気も張るのだろう。

 遥翔と廉遥は肩をすくめて麻里子を見守り、そしてまた魚に手をつけた。



「いやあ~でっっかくなったなあ~~」

 173cmの遥翔を、宗一郎と頼子は駅のホームで見上げていた。

 宗一郎は164cm頼子に至っては151cmだ。十分見上げる身長だ。

「あははーおじいちゃんおばあちゃん久しぶりだね。もっともっと伸びてるよ~」

 屈託のない笑顔は小学校の時と全く変わらずにいて、2人はなぜだか安心した。

「随分大荷物だな」

 宗一郎が両手に荷物を持ってやると、

「麻里子おばあちゃんが持たせてくれたよ。こんなにいらないって言ったのにさ。持ってくるの恥ずかしかった」

 そう言って嫌そうでもなく笑って、荷物は自分で持てるよーと半分をまた引き取って、車へと向かった。

 家に着くと、門の前に立って

「ああ~~久しぶりだああ。この門柱ってこんなに低かったかな」

 門柱の横に立ち、自分の鼻のあたりで終わっている門柱の上を見つめて首を傾げる。

「はる君が大きくなったんでしょうよ」

 頼子が微笑みながら鍵を開け、

「さあさ、家に入りましょ」

 と、玄関の引き戸を開いた時、遥翔は前の道路に汀をみつけた。

「あれ、みー君?」

 買い物にでも出ようとしていたのか、汀(みぎわ)は偶然会った遥翔を呆然と見つめ、そして足早に去っていってしまった。

「あれ?みーくーん?」

 門の前から呼んでみるが、スタスタとほぼ走るように行ってしまい

「おばあちゃん、あれみー君だよね?」

「そうよー、あの子も大きくなったわよね~」

 走ってゆく汀が角を曲がるまで見送った遥翔は、

「じゃあ俺のことがわからなかったのかな?俺も一瞬わからなかったしね」

 言いながら家に入り、玄関でも懐かしい~~玄関こんな低かったっけ~等、いろんなところで連発して、老夫婦を微笑ませていた。

「はる君来たんだって?」

 頼子が夕飯の支度をしている最中、隣の家の笙子が縁側から声をかけてきた。

「あ、笙子おばさん久しぶり!変わってないね!」

 遥翔が縁側へ向かい、一緒に座り込む。

「なあにい~?社交辞令なんて言えるようになったの?あなたは変わりすぎよね~昔から可愛かったけど、結構なイケメンにお育ちですねえ」

 ウリウリと肘で遥翔を突つく笙子に

「笙子おばさんも全然変わってないよー。若いまま」

 と身体を揺らされながら笑って答える。

「そんな『お上手』まで言えるようになっちゃって!口の上手いイケメンには気をつけなくちゃだわ」

 『なにをだよー』などとそんなやりとりをしてまた笑う。

「汀もね~、はる君が来なくなった夏休みは寂しそうだったけど、まあ子供じゃない。友達も来るようになって、元気にしてたわよ」

 それを聞いて遥翔も安心した。自分もここでの夏休みのことを忘れることもあったくらいだし、まさか『俺が来ないんだから落ち込んだ夏を過ごせ』などとも微塵も思っていなかったから、自分が来られなかった6年の夏を、汀が元気でいたのは嬉しいことだと素直に思う。

 そしてふとさっきの汀が気になった。

「さっきさ、みー君に会ったんだけど逃げてっちゃってさ。俺ってわかんなかったのかなとか思ってたけど」

「汀に聞いたのよ?はる君来てるって。わかってるみたいだけど、何あいつ逃げたの?はる君がイケメンになって帰ってきて嫉妬してるんじゃない?」

 いややめて、と遥翔もてをふるが、『あれじゃないかな~』と思い出す

「母さんが亡くなった後ここに電話をした時にね、みー君と偶然話せたんだよ。その時にその年の夏に来てって言われたんだけど、わかんないって答えちゃったら、みー君怒っちゃって『絶交だーっ』って」

 何それ と笙子は吹き出し、頼子も向こうで

「会いたいからつい言っちゃった言葉よね。まだ小さかったし」

 などと汀をフォローする。それは印象深く覚えていたようだった。

 遥翔にしてみれば、さっきの態度を見る限りーもしかしたら本当に絶交されているのかも…ーと思わないでもない。

「みー君本気なのかな…」

 あぐらをかいた足に止まる蚊をペチンと叩きながら、遥翔は少し寂しそうに言う。が

「本気なわけないだろ、ばっかじゃね」

 という怒声が庭から響いた。

 Tシャツに半ズボンを履いたル◯ィみたいなやつが仁王立ちしている。

「それにな!みー君って言うな!」

 無視をしたのはどうやらそれが原因だったらしかった。多分。

「あんた…ププッそれで無視したの…?ウププッ」

 笙子がたまらなくなって噴き出すのに、顔を真っ赤にしてーうううるせ~よーとまた大声を出し、遥翔もそれに便乗して口元が緩みかけたが、怒っているのでなんとかとめて

「え、じゃあなんて呼ぼうかな…み…みぎわくん…?」

「君はつけんな!子供みたいだろ!」

 ひいいーーっと笙子は縁側に転がってしまった。

「子供じゃ~~ん」

 それを罰が悪そうに見つめた汀は、遥翔に向かって

「遥翔!ちょっと来て!」

 とぶっきらぼうに言い捨てて、庭を出ていく。

「ぶっはーーっ呼び捨てきたっ!」

 もう収拾がつかないくらい笑う笙子を、流石に見かねた頼子と宗一郎が

「思春期なんだからもう少し気を使ってやりなさいよ」

 と困ったふうにフォローを試みるが、思春期ーーーと笑う笙子にダメだこれはと諦める。

 そんなのを見ながら遥翔は、縁側のサンダルを引っ掛けて、

「ちょっと行ってくるね、みーく…汀の話も聞かないと」

 とニッと笑って、小走りに庭を横切って行った。

「30分で帰ってくるんだよ~」

 との頼子の声にはーいと答えて門を出た。

 そこに汀はいた。

「改めて久しぶりだねえ、みー…汀…でいいの?も、随分背が伸びたね」

 それでもまだ遥翔よりは小さいことに気づいた汀だったが、1歳年齢が下だからと自分でそれは許容にする。

「はるくn…遥翔もデカくなったな…今に追いつく」

 歩き出した汀を追って、2人はなんとはなしに歩く。

「6年振りなんだよね。汀も中学生でしょ、何部にはいった?」

「サッカー」

 ボールを追って真っ黒になっている姿が容易に想像ができた。

「昔から動くの好きだったもんね。とは言え小1までしか知らないんだけどさ」

 7月の終わり頃は、6時過ぎると明るくはあるが夕陽にかかりそうな時間帯だ。

「絶交は…ごめん…あん時俺も小さくて、遥翔と遊びたくて仕方なかったから」

「うん…俺もごめん。あの時はさ、色々あって」

 お母さんを亡くしたこと、あまり行ってなかった父方の家に引っ越したこと、医者を目指すことにしたこと。

 小さい自分に一度に降りかかったことを、自分自身で整理するにも時間がかかっていたのを思い出す。

「医者に…なるのか?」

 通りがかった誰もいない懐かしい公園に入って、ブランコにお互い座った。

「うん。父さん所がって言うわけじゃなくて…母さんのかかった病気…癌を治せる医者になりたいなって」

 遥翔が母を失ったと言う心の傷は一生消えないだろう、と汀は思う。しかし遥翔はそれを前を向く原動力にしている。

 自分は、あれから幸せだということに気付かないまま、ただ毎日をぼんやりと生活してきた。

 そんな汀(みぎわ)が思っていたことが声に出てしまう。

「俺もなんかしなきゃかな…」

 唐突な言葉に

「え、なんで?」

 意味のありそうな言葉だったから、なんか思うことあるのかなと汀の顔を見ていると

「あんま見んな。ただ毎日を暮らしてるだけだからさ、なんかあったらなーって思っただけだよ」

 遥翔は、汀の顔が赤いのは夕日のせいだけなのかな…と思いながら前を向き、

「俺みたいな経験をしてる人って、結構いると思うんだよ。いつまでも落ち込んでいられないけれど、でもそんな経験はなくたっていいんだ。ただ毎日暮らしているだけだって言うことに気づいた汀は偉いよ」

 キコキコとブランコを漕ぎ始め、遥翔は小学生の時以来ブンブンとブランコを振り切りたくなった。

「負けないぞ」

 と汀も漕ぎ始め、夕日の中2人はブランコを漕ぎ続け、一周しそうになって怖くてやめる。

「怖かった…」

 ゼエゼエと息を吐き、ブランコの下に手をついて正座をする。

「一周するかと思った」

 汀もドキドキする胸を抑えていた。

「あ、いたいた。2人とも~、晩御飯だよ。はる君もおばあちゃんが待ってるよ」

 笙子が迎えに来てくれて、2人は笑って砂を払った。

「1週間いるから。また川とか行こうよ。部活も観に行こうかな」

「川はいいけど部活はやめて。まだ一年で玉拾いしかしてないから」

 それもそっか、とまた笑って笙子の元へゆき、一緒に家へと戻っていった。


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