表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タイムリープするお嬢様――二度目の婚約破棄はもう遅い。あなたが破滅する始まりです  作者: 御咲花 すゆ花
7話 アンネ・マクブライン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
92/140

77 運命の発表会(1)

 会場の裏手で、人目を避けるようにグリーンフィールド夫人がアンネの前に立っていた。キャサリンとエマは2人を少し離れた場所から注視している。


「アンネさん、今日は大事な日ですね」


 夫人の声は穏やかだ。

 笑顔も柔らかい。

 ヒューゴの母親として、あるいは後援者の1人として、なんの不自然さもそこには見えない。


「この前、喉の調子が悪かったでしょう? 風邪気味かと思って、特別に用意したのよ。少し遅くなってしまったけれど、そこは許してね」


 そう言って、夫人はアンネの前で小瓶を振ってみせる。


「あ、ありがとうございます」


 アンネの顔に緊張の色が浮かんだ。

 当然、それは夫人にも伝わっただろう。困ったように笑った夫人が、いじけたように小瓶をしまう。


「そうよね。いくらヒューゴの母親だからって、大事な本番の前に渡されたんじゃ、不安になってしまうわね」


「そういうわけでは……」

「あなたのもう1人の母親として、心配しただけなの。そこだけはわかってちょうだいね」

「……」


 アンネが悲痛な表情で夫人を見つめた。

 老獪な夫人を相手にするのは、アンネには荷が重いはずだ。よっぽど自分が出ていってやろうかと思ったのだが、エマがキャサリンの腕を引いたので、どうにか思いとどまることができた。


「そうだわ! ちょうど私、今コップを持っているのよ。本当はヒューゴへの土産のつもりだったのだけれど……まあ、構やしないでしょう」


 夫人が上等なコップを手提げから取り出す。


「一緒に飲みましょうか」

「え……?」

「これならアンネさんも安心できるでしょう? 少し多めに作ってしまったから、2人で分けても平気よ」


 アンネが返事をするよりも早く、夫人は自分のコップに小瓶の中身を移すと、それを素早くあおった。次いで、アンネに小瓶を渡す。カラになったコップの底を見せられては、もはやアンネに抵抗する手段はないようで、おっかなびっくりという態度ではあったものの、小瓶の中身を口にしていた。


 その喉が小さく動く。

 飲んだふりができるほど、アンネは器用ではないはずだ。まず間違いなく、服用したのだろう。

 夫人がアンネのほうに手を伸ばす。アンネにとって邪魔な小瓶を回収しようという意図だろうが、受け取る直前、小瓶は夫人の手元を離れていた。


 取り損ねたのだ。


 ――わざとね。


 落下した小瓶が地面にあたって割れる。中身の液体はほとんど出なかった。アンネが飲んでしまった何よりの証拠だった。


「あらあら、どうしましょう。でも、よかったわ。渡すときにこぼさなくて」

「……そうですね」


 その場であたふたとする夫人だったが、それもつかの間の出来事だ。やがては、足で小瓶を払うと、見なかったことにすると決めたらしい。


「ごめんなさいね、本番の前に長々と。客席から、アンネさんの歌が聞けるのを楽しみにしているわ」


 夫人が踵を返す。

 その後ろ姿に一礼したアンネが、出演者用の入り口に向かって歩き出した。

 まもなく、夫人が振り返り、アンネを鬼の形相で睨みつける。


「さようなら人魚姫。歌だけ歌っていれば、声を失わずに済んだのにね。王子様に恋をしたあなたが悪いのよ」


 その言葉を耳にしたキャサリンは、これこそが夫人本来の姿だと確信していた。

 夫人が懐からもうひとつの小瓶を取り出し、口につける。

 一息であおると、小瓶を投げ捨てた。

 その動作に迷いはない。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ