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タイムリープするお嬢様――二度目の婚約破棄はもう遅い。あなたが破滅する始まりです  作者: 御咲花 すゆ花
7話 アンネ・マクブライン

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74 二つの準備(5)

 通りに面した窓から、馬車が横切るのが見えた。アンネの視線が、それを追うように窓の外に向く。アンネの表情が少しだけ変わった。


 口元が固く引き結ばれ、外を見つめる目に異なる色が混じる。

 今回はキャサリンも、その存在を確かに認めた。


「グリーンフィールド家の家紋でしたわね」


 アンネが警戒の色を示す。


「ヒューゴ様とはいったいどのような……」

「ご安心なさってくださいな。新しく後援するにあたって、ヒューゴ様に指導を仰ぎましたが、アンネ嬢が気に病むような関係ではございませんわ」


「私は別に心配してなど……」


 ここらでもう少し距離を詰めておこうと、キャサリンは意地悪な笑みを口元に浮かべる。


「あら、そう? アンネ嬢がいらないなら、もらってしまおうかしら」


 キャサリンの一言に、喉にものを詰まらせたようにアンネがきつく唇を噛んだ。そうして、消え入りそうな声で抗弁する。


「ダ、ダメです……。ヒューゴは私の……パトロンですから」


 ――パトロンね……。


 まだ自己主張には乏しい。


 ――もう一押ししてみてもいいけれど……。


 あまりやりすぎて嫌われてしまっては、元も子もない。


「冗談ですわ。ヒューゴ様とも会ったと言ったでしょう? あなたとの仲も、それとなくではありますが承知しています」


 アンネは疑うような視線をキャサリンに向けていたが、ヒューゴに対する心配が勝ったようだ。


「元気でしたか、ヒューゴは? あんまり、私とは会ってくれないので……」

「そういうかわいらしいところを、もっと素直に見せればいいんじゃないかしら」

「かわ――」


 ボッ!

 思わず、そんな効果音が聞こえて来そうなほど、アンネ嬢は顔を赤くした。


 ――ヒューゴ様も、きっと苦労するわね……。


 清らかな交際という発言は、言葉を慎重に選んだだけだったのだが、このぶんだとまだ本当に手も繋いでいないのかもしれない。


「ヒューゴ様はアンネ嬢のことなら、目を見ればなんでもわかると仰っていました」

「ヒューゴも……」


 アンネの目にじわりと温かな光が差す。


「そうであれば、ヒューゴ様は恐れているのでしょうね」

「恐れる? 何をですか?」

「そんなもの、アンネ嬢の心労を増やすことに決まっているじゃありませんか。自分の問題で、アンネ嬢の心身に負担をかけてはいけない。ましてや、それが歌唱に影響を及ぼしてしまうのであれば、なおのこと」


「それは――!」


 好きでやっていることなんだと言いたげに、アンネが気色ばむ。お互いを思いやって当然と考えているアンネからすれば、ヒューゴのふるまいは到底納得のしづらいものだろう。


 だからこ、キャサリンは声高に主張する。


「あら、知らなかったんですの、アンネ嬢? 男というものは、惚れた女性には待っていてほしいものなんですわ」


「……」


 どや顔で語るキャサリンに、そばに控えるエマが「お前に何がわかるんだ?」と言いたげな視線を向けて来るが、もちろんキャサリンは堂々と無視した。2回目だった。


「それでも不安だと言うのなら、自分の目と耳で直接確かめなさい」

「でも……」


 尻込みをするアンネに、キャサリンは発破をかける。


「何をおじけづいているんですの? 古今東西、英雄を陰で支えるのは乙女の役目と決まっています。相手を慕っているのなら、ほかのだれにもこの役割を譲ってはいけませんわ。それがレディーの努めですの」


 少しの間、アンネは口を開かなかったが、やがては意を決したようにキャサリンに告げる。


「帰ります! ヒューゴが来ているかもしれませんから」

「ええ、そうしなさいな」

「支払いは……えっと」

「そんなもの、私がやっておきますわ。早く行きなさい」

「はい!」


 アンネが喫茶店から飛び出していく。

 道路の途中で転んだように見えたが、すぐに立ち上がって走りだす。

 その姿が見えなくなるまで追ってから、キャサリンはそばに控える侍女に声をかけた。


「何か言いたそうね」

「お嬢様、ヒューゴ様はいつアンネ様の話を?」

「私の気のせいだったかしら? でも、構わないでしょう。どうせ本当のことなんだから」

「……。そうですね」


 エマは言いながら、アンネの食べ残したスイーツを盗み食いしていた。

 日に日に好き放題に行動している侍女に、ぎょっとしながらもキャサリンは紅茶を口にした。無糖のはずだが、少しだけ甘い気がした。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

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